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根端メリステム構築を担う Root meristem growth fac-tor (RGF)松林 嘉克基礎生物学研究所

Root meristem growth factor, an secreted peptide signal involved in root meristem developmentYoshikatsu MatsubayashiNational Institute for Basic Biology

要約 : Root meristem growth factor (RGF) is a 13-amino-acid tyrosine-sulfated peptide involved in maintenance of the root stem cell niche in Arabidopsis. RGF was identified in a search for sulfated peptides that recover root meristem defects of the tpst-1 mutant in combination with in silico screening of genes encoding sulfated peptides and practical bioassays using synthetic sulfated peptides. This approach is based on the as-sumption that the severe short root phenotype of the tpst-1 mutant reflects deficiencies in the biosynthesis of all the functional tyrosine-sulfated peptides. RGFs are produced from ≈ 100-amino-acid precursor peptides via post-translational sulfation and proteolytic processing. RGF fam-ily peptides are expressed mainly in the stem cell area and the innermost layer of central columella cells. RGF peptides regulate root develop-ment by upregulating PLETHORA transcription factor which are specifically expressed in root meristem and mediate patterning of the root stem cell niche.

特集� 植物の生長調節■ Regulation of Plant Growth & Development Vol.48, No.1, 54-59, 2013

植物化学調節学会■ The Japanese Society for Chemical Regulation of Plants

はじめに植物の根の先端にある根端分裂組織は,ほとんど分

裂しない静止中心と呼ばれる細胞群と,それを取り囲む分裂性の高い始原細胞からなっている(図 1).人為的に静止中心細胞の一部を破壊すると,静止中心細胞に接している始原細胞(幹細胞)が未分化状態を維持できなくなり分化してしまうことから,何らかのシグナル物質が静止中心細胞から周囲の細胞に向かって出ているのではないかと考えられている(van den Berg et al. 1997).このシグナルの実態を解明しようと,静止中心細胞や始原細胞などにおいて特異的発現を示す遺伝子群の同定が試みられてきた.本稿で紹介する RGFは,こうしたシグナルの有力な候

補のひとつと考えられる分泌型ペプチドである(Matsuzaki et al. 2010).しかしRGFは,特定細胞のトランスクリプトームや変異株スクリーニングで見出されたわけではない.現在の植物分子生理学において最大の障壁となっているのは,植物特有の遺伝子重複による,逆遺伝学的手法の適用の難しさである.興味深い遺伝子が見つかったとしても,同じ機能を持つ遺伝子が複数ある場合は,遺伝子ファミリーのうちのひとつやふたつを破壊したところで何も表現型を示さないため,ファミリー全体としての機能を探ることは容易ではない.こうした状況の中,筆者らは植物の短鎖ペプチドにしば

しば見出される翻訳後修飾に関与する酵素の変異株の表現

型に着目して,新しいペプチドシグナルの探索を試みている.翻訳後修飾ペプチドシグナルの多くは,翻訳後修飾を受けることではじめて本来の機能を示すため,翻訳後修飾酵素の遺伝子を破壊すると,その支配下にあるすべての修飾ペプチドシグナルが正常につくられなくなり,結果的に

図 1 シロイヌナズナの根端メリステムの構造.ほとんど分裂しない静止中心と呼ばれる細胞群と,それを取り囲む分裂性の高い始原細胞からなっている.

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それらの欠損の総和が表現型として表われることになる.したがって,翻訳後修飾酵素の欠損株の表現型を詳細に解析すれば,未知のシグナルの存在に気付くことができる.また,このアプローチであればペプチドシグナルが遺伝子重複により大きなファミリーを形成していたとしても,すべてが欠損した状態の表現型を観察できるため,遺伝子重複の影響がうまく回避できるという利点がある.本稿では,ペプチドシグナルの翻訳後修飾のメカニズム

と,筆者らが遺伝子重複の影響を回避して RGFを見つけ出したアプローチおよび RGFの機能について解説する.

翻訳後修飾に着目したペプチドシグナル探索翻訳後修飾とは,タンパク質合成の過程で,ペプチ

ド鎖がつくられた後に起こるペプチド側鎖の修飾のことであり,タンパク質の構造的多様性を生むための巧妙なしく

みのひとつである.翻訳後修飾には翻訳後修飾酵素や修飾基の供与基質が必要であるなど,通常のペプチドに比較すればかなりコストがかかる.それにも関わらず,修飾ペプチドが進化の過程で淘汰されることなく広く保存されてきたのは,そのコストを上回るメリットがあったからであろう.筆者は,修飾ペプチドにはコストを上回る生理機能が内包されている可能性が高いと考えている.植物の分泌型ペプチドシグナルは構造的に大きくふたつに分けることができる(図 2)(Matsubayashi 2011).ひとつは PSKや CLV3に代表される短鎖翻訳後修飾ペプチドであり,約 100アミノ酸残基の前駆体ペプチドとして翻訳された後に翻訳後修飾を受け,さらに限定分解(プロセシング)を受けて修飾部位を含む 10アミノ酸残基程度が切り出されて活性型として細胞外に分泌される.もうひとつ

図 2 高等植物における分泌型ペプチドシグナルの構造的分類これまでに知られているペプチドシグナルには,前駆体ポリペプチドから翻訳後修飾とプロセシングを経て成熟型となり分泌されるもの(短鎖翻訳後修飾ペプチド)と,分子内ジスルフィド結合形成を経て分泌されるもの(システインリッチペプチド)とに大別できる.一部のシステインリッチペプチドではプロセシングを経るものがある.翻訳後修飾やプロセシング,ジスルフィド結合形成などは,ほとんどの場合において生理機能に重要な役割を果たす.

図 3 チロシン硫酸化酵素(TPST)の反応機構と欠損株(tpst-1)の表現型(A)チロシン硫酸化酵素(TPST)の反応機構.TPSTは硫酸基供与基質である PAPSからチロシンへ硫酸基を転移させる反応を触媒する.PAPS : 3´-phosphoadenosine 5´-phosphosulfate, PAP : 3´-phosphoadenosine 5´-phosphate.(B)発芽後 7日目の野性株と tpst-1の表現型比較.(C, D)根端の拡大写真.メリステム領域と伸長領域の境界を矢印で示してある.tpst-1のメリステム領域は顕著に小さい.

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は,分子内に偶数個(多くの場合 6または 8個)のシステイン残基が存在し,ジスルフィド結合により分子内架橋されたシステインリッチペプチドと呼ばれるもので,分泌後のサイズはやや大きく 40から 70アミノ酸程度である.前者の場合,これまでに知られている翻訳後修飾としてチロシン硫酸化,プロリン水酸化,およびヒドロキシプロリンのアラビノシル化が挙げられるが,筆者らは過去に 2例のチロシン硫酸化ペプチドを同定してきた経緯から(Amano et al. 2007 ; Matsubayashi and Sakagami 1996),チロシン硫酸化メカニズムの解明を目指して研究を進めていた.筆者らは 2009年に,シロイヌナズナにおいて,チロシ

ン硫酸化酵素(tyrosylprotein sulfotransferase, TPST)の精製・同定に成功した (Komori et al. 2009).TPSTは,ゴルジ体に局在する 1回膜貫通型酵素であり,硫酸基供与基質である PAPSからチロシンへ硫酸基を転移させる反応を触媒する(図 3A).動物にも TPSTは存在するが (Moore 2003),アミノ酸レベルでの類似性は全くない上に,膜貫通領域の場所も全く異なることから,植物と動物は進化の過程で独立して TPSTを獲得したと考えられる点は興味深い.この研究の過程で,筆者らは TPST遺伝子を欠損したシロイヌナズナ植物体(tpst-1)では,根端において未分化な始原細胞(幹細胞)が適切に維持されなくなり,根端メリステム領域の細胞分裂活性が顕著に低下して,根が極端に短くなることを見出した(図 3B-D).なお,TPST遺伝子は多くの植物において 1コピーしか存在しないため,単一変異のみで表現型は観察できる.実際,筆者らの報告の後に,根の表現型を指標とした変異株スクリーニングで,tpst-1の別のアリルが単離されている(Zhou et al. 2010).先述したように,翻訳後修飾ペプチドは,翻訳後修飾が本来の機能に必須であることが多いため,翻訳後修飾酵素の遺伝子が失われると,その支配下にあるすべての修飾ペプチドシグナルが正常につくられなくなり,結果的にそれらの欠損の総和が表現型として表われる.すなわち,tpst-1植物体中では,チロシン硫酸化ペプチド群は全く硫酸化されていない状態で存在しており,多くは機能を失っていると推定される.したがって,tpst-1の欠損株の表現型には,未知のチロシン硫酸化ペプチドシグナルの欠損による表現型も反映されているはずである.

RGFの発見一般的に幹細胞の維持には,特異的な細胞外環境

(ニッチと呼ばれる)が必要と考えられている.tpst-1変異株の表現型は,既知のチロシン硫酸化ペプチドシグナルで あ る PSK (Matsubayashi and Sakagami 1996) と PSY1 (Amano et al. 2007)の培地への添加では回復できなかった.このことは,幹細胞ニッチの維持および根端メリステム領域の細胞分裂に関与する未知の硫酸化ペプチドの存在を強く示唆していた.

未知の硫酸化ペプチドシグナルの存在が予想されたとして,それを見つけ出すことはまた別次元の話であると思われるかもしれない.しかし,ゲノム情報が利用可能な現在では,短鎖翻訳後修飾ペプチドをコードすると予想される遺伝子群をデータベースを用いて絞り込むことはかなり可能になっている.シロイヌナズナゲノム上に,ORFが 50から 150アミノ

酸のペプチドは 4,240個存在する.筆者らは,この中からさらに分泌型シグナル配列,チロシン硫酸化モチーフ配列,ORFサイズなどを指標として硫酸化ペプチドシグナルの候補を絞り込んだ.PSKや PSY1などの既知の硫酸化ペプチドシグナルでは,典型的な ORFサイズは 70-110アミノ酸程度で,硫酸化に必要な最低限のモチーフとして Asp-

Tyr配列を必ず含んでいる.また,分子内ジスルフィド結合があるペプチドは硫酸化されないので,システイン残基が 6個以上あるシステインリッチペプチドは除外できる.この基準で絞り込みを行うと,わずか 34個にまで絞り込まれる.さらに,ペプチドシグナルの遺伝子は,遺伝子重複によりホモログが存在していることが多いため,ファミリーを形成しているペプチド群に着目すると,9遺伝子からなる新しいペプチドファミリーが浮かび上がった(図4).この 9遺伝子の中には,公開されているマイクロアレイデータにおいて,根端での特異的な発現が見られる遺伝子が複数含まれていた.さらに筆者らは,選び出された遺伝子群が,実際に硫酸化ペプチドをコードするか実験的に確かめるため,候補遺伝子のひとつを過剰発現させた形質転換シロイヌナズナを液体培地中で培養し,培地に分泌されてくるペプチドの構造を nano LC-MS/MSで解析した.ここで筆者らが確立した分泌型ペプチドの効率的な抽

出・解析法について説明しておく.分泌型ペプチドは細胞間隙すなわちアポプラストに局在しているが,組織ごと破砕・抽出してしまうと,大過剰の細胞質由来成分に邪魔されて,微量な分泌型ペプチドの分析は不可能になってしまう.そこで筆者らは,シロイヌナズナを過湿条件で培養した際にしばしば観察されるガラス化と呼ばれる現象に着目した.ガラス化とは,過湿により組織表面のクチクラ層が失われ,細胞間隙に水が浸入して葉が半透明化している状態を指すが,この時浸入した水にはアポプラスト成分が高純度で抽出されている.そこで,シロイヌナズナを直接液体培地中に播種し,水中で培養することにより積極的にガラス化させると,植物体の細胞間隙から拡散してくるアポプラスト成分を培地中に回収することができる(Ohyama et al. 2008).さらに,培地から様々な二次代謝産物を除去しペプチド成分のみを取り出すには,オルトクロロフェノール抽出とアセトン沈殿を用いる.オルトクロロフェノールはフェノールよりも酸性度が高いため水素結合を形

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成しやすく,10残基程度のオリゴペプチドでも効率よく抽出することができる.成熟型構造を知りたいペプチドを過剰発現させたシロイヌナズナ植物体を,浸漬させた状態で液体培養し,上記の方法によって得られたアポプラストペプチド・タンパク質を nano LC-MS/MSで解析すれば,目的のペプチドを明確なピークとして検出することができる.解析の結果,候補遺伝子由来の成熟型ペプチドの構造は,

1残基の硫酸化チロシンを含む 13アミノ酸ペプチドであることが確かめられた(図 4).そして,この 13アミノ酸硫酸化ペプチドを化学合成し,これを添加した培地でtpst-1変異株を生育させた結果,根端に未分化な幹細胞が回復するともに,根端分裂組織の細胞分裂活性も顕著に上昇することが明らかとなった(図 5A, 5B).他のホモログ群についても合成ペプチドを用いたアッセイを行った結果,ほとんどに活性が認められた.こうした実験結果に基づき,筆者らは,これらのペプチドを,Root meristem Growth Factor(RGF)と名付けた.RGFファミリーの 9遺伝子のうち少なくとも 4遺伝子は,静止中心や隣接するコルメラ始原細胞および最内層のコルメラ細胞で特異的に発現している(図 5C).

RGFの作用機構RGFのターゲットのひとつは転写因子である

PLETHORA(PLT)ファミリーであることが明らかになっている.PLTは根形成のマスター調節因子と考えられており,主要な 4種類の PLTファミリー遺伝子群をすべて欠損する植物では,根が全く形成されない (Aida et al. 2004 ; Galinha et al. 2007).また,PLTタンパク質は根端の幹細胞領域を最大として,そこから基部側にゆるやかに減少する発現パターンを示すが,このグラジエントが根のパターニ

ングに重要な役割を果たしていることが知られている(図6A参照).すなわち,PLTの発現レベルが高いところでは幹細胞が維持されるが,中程度の領域では細胞分裂が活性化され,発現レベルが下がるにしたがって細胞伸長が促進される.

GFPを融合させた PLT(PLT1-GFPおよび PLT2-GFP)を,野性株および tpst-1変異株に導入して発現パターンを観察すると,野性株における PLT-GFPの発現は,根端の幹細胞領域を最大として基部側にかけて発現レベルがゆるやかに減少するグラジエントパターンを示していたのに対し,tpst-1変異株では,幹細胞領域での発現レベルが顕著に低下するとともに,基部側で発現が速やかに消失するパターンを示した(図 6B).rgf1rgf2rgf3の 3重変異株においても同様の傾向が観察された.一方,培地にRGFを加えると,tpst-1変異株における PLT-GFPの発現レベルは回復し,特に PLT2-GFPでは基部側にまで大きく発現領域が拡大した(図 6C).以上を総合して考えられるモデルは以下のようなものである.静止中心細胞やコルメラ始原細胞から分泌されたRGFは,組織内を拡散して.幹細胞周辺を最大とした濃度勾配を形成している.RGFは細胞膜上に存在すると想定される受容体を介して,根形成のマスター転写因子である PLTタンパク質(特に PLT2)の発現を正に制御する.その結果,PLTの発現は RGFの濃度勾配に従ったグラジエントとなる.根端の細胞は,PLTの発現レベルに応じて,幹細胞状態の維持,細胞分裂の活性化,細胞分化へと連続的に形態形成が進んでいく.

RGFと GOLVENおよび CLE-likeペプチド筆者らの RGFの発見から 2年後に,RGFファミリー

ペプチドに関連した論文が相次いで報告された.ひとつは

図 4 RGFファミリーペプチドの前駆体ペプチド配列と成熟型ペプチド構造保存配列である 13アミノ酸領域がチロシン硫酸化とプロセシングを受け,細胞外に分泌される.

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GOLVENである.RGFペプチドを与えるもしくは過剰発現させると根が wavingする(重力方向にまっすぐではなく波打ちながら伸びる)ことから,RGFファミリーにGOLVENと別名をつけて,これらが重力屈性に関与するとする説である(Whitford et al. 2012).GOLVENがオーキシン排出輸送体である PIN2の局在に影響を与え,オーキシンの極性輸送を制御しているとしているが,RGFを生産できない tpst-1変異株における根端のオーキシン分布は野性株と変わらないことが既に示されている(Matsuzaki et al. 2010).また,tpst-1変異株における重力屈性は(根

は短いものの)正常であることから,RGF(GOLVEN)が重力屈性に関与する可能性には筆者は否定的である.また,RGF(GOLVEN)を過剰発現させると側根形成が阻害されるため,側根形成への関与を指摘する報告もあるが(Fer-nandez et al. 2013),RGFを異所的に発現させると細胞分化を抑制する PLTの発現レベルが顕著に上昇するため,側根分化が阻害されても不思議ではない.また,CLEペプチドのひとつ CLE18の配列中に RGFモチーフが見出されることから,RGFファミリーを CLE-

like(CLEL)と命名して,waving活性などを解析しているグループもある(Meng et al. 2012).このグループの報告では,重力屈性を示さない変異株でも RGF(CLEL)依存的な wavingが観察されることが明記されており,RGFが重力屈性に関与する可能性は否定されている.

おわりにシロイヌナズナの根端は,始原細胞群を含む細胞分

裂の盛んなメリステム領域と基部側の細胞伸長領域の 2つの領域に大別される.メリステム領域は細胞分裂の活性の高い細胞を供給しているが,細胞伸長領域では細胞分裂の活性は低下し,長軸方向へ急激に肥大して根が伸長する.この過程はメリステム領域と細胞伸長領域との境界に存在する位置情報により制御されているものと考えられており,古くから制御因子の探索が行なわれてきた.極性輸送によって形成されるオーキシンの濃度勾配が,根端における主たる位置情報であるという考え方が広く受け入れられており(Grieneisen et al. 2007),この濃度勾配により転写因子 PLTのグラジエントが規定されて,メリステム領域と細胞伸長領域との境界が決まるとする説が提唱されている(Galinha et al. 2007).こういった背景から,tpst-1変異株の根が非常に短い表現型を,オーキシン生合成遺伝子群の発現量と関連づけようとする報告もあるが(Zhou et al. 2010),筆者らの解析では tpst-1変異株の根端におけるオーキシン分布は野性株と変わりないことが確かめられている.また,根端で発現している RGF遺伝子群の発現はオーキシンの影響をほとんど受けない.このことは,RGFはオーキシンとはかなり独立して機能していることを意味している.筆者らの発見により,分泌型ペプチドシグナルが,PLTタンパク質の発現制御を介して根端分裂組織の形成に重要な役割を担っていることが明らかとなった.オーキシンを中心として考えられてきた根の形態形成機構に,これまで予想もされなかった全く新しい因子が加わったことになる.RGFペプチドの受容機構と PLTまでの情報伝達,そして RGFの細胞特異的な発現制御に関わる上流因子の解明が次なる課題である.

図 6 RGFは PLT2-GFPの発現を制御する(A)野性株における PLT2-GFPの発現パターン.根端の幹細胞領域を最大として基部側にかけて発現レベルがゆるやかに減少するグラジエントパターンを示す.PLTの発現レベルが高いところでは幹細胞が維持されるが,中程度の領域では細胞分裂が活性化され,発現レベルが下がるにしたがって細胞伸長が促進される.(B)tpst-1変異株における PLT2-GFPの発現パターン.発現レベルが顕著に低下している.(C)RGF存在下で培養した tpst-1変異株における PLT2-GFPの発現パターン.発現レベルは顕著に回復し,基部側にまで大きく発現領域が拡大した.

図 5 ペプチド添加による tpst-1の表現型回復(A)発芽後 5日目の tpst-1株.(B)RGFペプチドの存在下で生育させた tpst-1株.メリステム領域が顕著に拡大している.(C)RGFの発現部位.

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参 考 文 献

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連絡先 : 〒 444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中 38基礎生物学研究所松林 嘉克TEL : 0564-55-7530FAX : 0564-55-7531ymatsu@nibb.ac.jp

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