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第 15 号の内容 21COEシンポジウ ム報告 2.ローレンツ祭報告 3.新ポスドク紹介 4.書評 CDUP NEWS LETTER 京都大学 21COE 物理学の多様性と普遍性の探求拠点 ニュース 第 15 号 平成 18 年(2006 年)8 月 1 日発行 ■発行■ 京都大学 21COE 物理学の 多様性と普遍性の探求拠 点編集委員会 〒 606-8502 京都市左京 区北白川追分町 京都大 学大学院理学研究科 物 理学教室内 TEL: 075-753-3758 FAX: 075-753-3886 e-mail: 21COE@ scphys.kyoto- u.ac.jp C enter for D iversity and U niversality in P hysics 2005 年度 21COE シンポジウム報告 CDUP News Letter No.15 第 15 号 平成 18 年 8 月 1 日発行 「物理学 21COE 「物理学の多様性と普遍性の 探求拠点」 では、 拠点の全分野を対象とした 全体シンポを 2004 年度から行っている。 2005 年度はメインテーマを 「光と物理学」 とし、 物 理学研究の様々な場面に現れる「光」(電磁波) をキーワードに、 学外の関連研究者も招いて、 2006 年 2 月 13 日 (月) 〜 14 日 (火) の 2 日間のシンポジウムを京都大学百周年時計台 記念館で行った。 シンポジウムは、 1日半を、 物理の学生や研 究者を対象としたやや専門的なセッション、 2 日目午後は広く一般も対象の特別講演セッショ ンとした。 また、 今回初めて、 ポスターセッショ ンを設け、 テーマも特にしぼらず各研究室必 須ということで発表をお願いした結果、 若手を 中心に、 実に多くのポスター発表があり、 ポス ター議論時間にはあちらこちらで議論がもりあ がった。 プログラムは、「素核」 「宇宙」 「物性」 の垣根を取り払って分野間の交流を図るべく、 工夫してたてられた。 以下にその概要を示す。 ( 基礎物理学研究所 嶺重 慎 ) 初日午前は「光と物質の相互作用」セッ ションということで、X線を使った極限 状態にある宇宙の観測、液晶にみられる 不可思議な現象の紹介、身近な天体・太 陽におけるプラズマ現象の現状理解な ど、さまざまなエネルギーレベルでの光 と物質の相互作用に焦点をしぼって議論 を行った。 初日午後は「光を使った技術革新」セッ ションで、産業も含め、多くの場面で用 いられている光という側面に焦点をお き、天体の電波観測やミクロの世界を光 であやつる技術、光結晶など、最新技術 の紹介や未来の技術の可能性を議論し た。 2日目午前は「光と基礎物理」セッショ ンで、光と直接あるいは間接的に関連す る基礎物理を極める議論に集中した。内 容は、レーザーを使って原子を極低温ま で冷やす話、宇宙の観測から基礎物理定 数の時間変化を制限する話、光子どうし の相関を操るといった話と、ひと昔前ま でには思いもよらない話題が続出した。 2日目午後には、以下の宇宙、物性、 それぞれの分野で著名な若手研究者に特 別講演をして頂いた。 ・「光の宇宙と陰の宇宙」 (杉山 直、国立天文台理論天文部) 現代天文学が明らかにしてきた宇宙の さまざまな姿や活動性を光をキーワード に俯瞰するという内容で、電磁波放射か ら得られる天体(星、銀河、惑星系)や 初期宇宙の情報(光の宇宙)から話が始 まり、そこから見えてきた「陰の宇宙」 の存在、すなわち最近話題のダークマ

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第 15 号の内容

1.21COE シンポジウ

ム報告

2.ローレンツ祭報告

3.新ポスドク紹介

4.書評

CDUP NEWS LETTER 京都大学 21COE 物理学の多様性と普遍性の探求拠点 ニュース 第 15 号 平成 18 年(2006 年)8月 1日発行

■発行■京都大学 21COE 物理学の多様性と普遍性の探求拠点編集委員会〒 606-8502 京都市左京区北白川追分町 京都大学大学院理学研究科 物理学教室内 TEL: 075-753-3758 FAX: 075-753-3886 e-mail: [email protected]

C enter for D iversi ty and

Universality in Physics

2005年度 21COEシンポジウム報告

CDUP News Letter

No.15

第 15 号

平成 18 年 8 月 1 日発行 

「物理学 21COE 「物理学の多様性と普遍性の探求拠点」 では、 拠点の全分野を対象とした全体シンポを 2004 年度から行っている。 2005年度はメインテーマを 「光と物理学」 とし、 物理学研究の様々な場面に現れる「光」(電磁波)をキーワードに、 学外の関連研究者も招いて、2006 年 2 月 13 日 (月) 〜 14 日 (火) の 2日間のシンポジウムを京都大学百周年時計台記念館で行った。

シンポジウムは、 1日半を、 物理の学生や研究者を対象としたやや専門的なセッション、 2日目午後は広く一般も対象の特別講演セッションとした。 また、 今回初めて、 ポスターセッションを設け、 テーマも特にしぼらず各研究室必須ということで発表をお願いした結果、 若手を中心に、 実に多くのポスター発表があり、 ポスター議論時間にはあちらこちらで議論がもりあがった。 プログラムは、「素核」 「宇宙」 「物性」の垣根を取り払って分野間の交流を図るべく、工夫してたてられた。 以下にその概要を示す。

( 基礎物理学研究所 嶺重 慎 )

初日午前は「光と物質の相互作用」セッションということで、X線を使った極限状態にある宇宙の観測、液晶にみられる不可思議な現象の紹介、身近な天体・太陽におけるプラズマ現象の現状理解など、さまざまなエネルギーレベルでの光と物質の相互作用に焦点をしぼって議論を行った。 初日午後は「光を使った技術革新」セッションで、産業も含め、多くの場面で用いられている光という側面に焦点をおき、天体の電波観測やミクロの世界を光であやつる技術、光結晶など、最新技術の紹介や未来の技術の可能性を議論した。 2日目午前は「光と基礎物理」セッションで、光と直接あるいは間接的に関連す

る基礎物理を極める議論に集中した。内容は、レーザーを使って原子を極低温まで冷やす話、宇宙の観測から基礎物理定数の時間変化を制限する話、光子どうしの相関を操るといった話と、ひと昔前までには思いもよらない話題が続出した。 2日目午後には、以下の宇宙、物性、それぞれの分野で著名な若手研究者に特別講演をして頂いた。 ・「光の宇宙と陰の宇宙」   (杉山 直、国立天文台理論天文部) 現代天文学が明らかにしてきた宇宙のさまざまな姿や活動性を光をキーワードに俯瞰するという内容で、電磁波放射から得られる天体(星、銀河、惑星系)や初期宇宙の情報(光の宇宙)から話が始まり、そこから見えてきた「陰の宇宙」の存在、すなわち最近話題のダークマ

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CDUP News Letter

No.15

21COEシンポジウム報告

ター、ダークエネルギーの観測的証拠、今後の研究動向などを、豊富な写真やイラストをもとに、実にわかりやすく話して頂いた。

・「光で探る原子の不思議」      (Tilman Esslinger、 ス イス ETH)  レーザー冷却というテクニックを使って初めて見えてきた原子の不可思議なふるまいを紹介するという内容で、まずボース・アインシュタイン凝縮体が位相の揃った物質波のレーザーとして振舞うという話から始まり、その中の単一原子検出に関する統計性の観測と制御、そして、フェルミ原子を光格子と呼ばれる周期ポテンシャルに導入したときの大変興味深い振舞いに関する最新成果と今後の動向を、わかりやすい英語で丁寧に話して頂いた。

 会議には、海外からの招待講演者 1 名含め、全国から 225 名の参加があった。口頭講演は全て招待講演で、特別講演を含めて 12 件、ポスター発表は 106 件あった。シンポジウム会場では、口頭講演やポスターの内容をもとに活発な議論があちらこちらで展開され、ふだんあまりつきあいの無い研究室間の交流の一助になったのではないかと思われる。一般参

加者の評判もまずまずで、「おもしろい研究会だった」との礼状も届いた。 なお、招待講演については、文章にまとめて京都大学学術出版会から 2006 年度中に出版の予定である。さらに特別講演についてはビデオ(DVD)が作成されており、基礎物理学研究所共同利用事務室で貸し出しを行っている。

京大物理 21COE シンポジウム 「光と物理学」 プログラム

2月13日 (月) 9:50-10:00 はじめに (主催者)

10:00-12:15 セッション1. 光と物質の相互作用

                (座長 : 岩室史英)

・ 「すざく」 衛星が拓くサイエンス

    (鶴 剛、 京大物二)

・ ソフトマターの新しい対称性と光

    (山本 潤、 京大物一)

・ 太陽プラズマ現象 (柴田一成、 京大附属天文台)

・ セッション ・ サマリー (嶺重 慎)

12:15-13:30  −ランチとポスター−

13:30-14:50 セッション2a. 光を使った技術革新

                (座長 : 今井憲一)

・ 光で操るマイクロの世界 (吉川研一、 京大物一)

・ フォトニックフラクタル

    (迫田和彰、 物質材料研究機構 ・ 京大物一)

14:50-16:10 —コーヒーとポスター—

16:10-17:45 セッション2b. 光を使った技術革新

               (座長 : 田中耕一郎)

・ サブミリ (THz) 電波天文学

           (川辺良平、 国立天文台アルマ)

・ レーザー ・ コンプトン ・ ガンマ

(中野貴志、 阪大核理センター)

・ セッション ・ サマリー (田中耕一郎)

18:30-20:00 懇親会

2月14日 (火)

9:30-11:45 セッション3. 光と基礎物理

(座長 : 福間將文)

・ レーザー光で創る量子気体 (高橋義朗、 京大物一)

・ 物理定数の時間変化 (千葉 剛、 日大物理)

・ 光子どうしの相関を操る

        (竹内繁樹、 北大電子科学研究所)

・ セッション ・ サマリー (高橋義朗)

11:45-13:30  −ランチとポスター−

13:30-16:20 特別講演会 ( 百周年記念ホール )

・ 「光の宇宙と陰の宇宙」

        (杉山 直、 国立天文台理論研究部)

・ 「光で探る原子の不思議」

        (Tilman Esslinger、 スイス ETH)

 

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         ローレンツ祭報告

 物理学・宇宙物理学専攻では

“ローレンツ祭”という名称で、研

究教育活動を京都大学内外の学生さ

んに紹介するイベントを毎年行って

います。今年度ローレンツ祭は本

21 世紀 COE の後援を受けて、6月

1日に開催されました。今年度は従

来の開催方式を見直し、専攻内の各

研究グループがより確実に参加して

いただけることを志しました。オー

プンラボの時間はコマ割りをして、各オープンラボ間の移動がスムーズに行える

ように配慮しました。上の写真は低温・固体の3グループ共催で行われた超流動・

超伝導のデモ実験の様子です。5コマのオ

ープンラボ終了後は、川合光教授「超弦理

論」、阪部周二教授「高強度レーザーと物質

との相互作用の科学」、松田祐司教授「超伝

導、超流動、ボーズアインシュタイン凝縮」、

八尾 誠 教授「明日のための教育」といっ

たミクロから超マクロにわたる広範囲の特

別講演をしていただき(写真左)、物理学の

多様性と普遍性を参加者の学生さんも実感

してくださったことと思います。夕方から

は場所を百周年時計台記念館の国際交流ホールに移し、各グループが掲示する研

究活動の案内ポスターを前に、京大理学部生 150 名、京大他学部生 14 名、他大学

生 16 名、専攻教員 54 名、専攻大学院生研究員等 135 名の総勢 369 名の研究交歓

会が開かれました(写真右)。会場は終了間際まで活気にあふれ、教員学生ともに

得たものは大きい全員参加型の交歓会であったと自負しております。紙面を借り

てご協力下さいました皆様方に感謝致します。

2006年度ローレンツ祭実施報告 ローレンツ祭実行委員会 委員長  佐々木 豊

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No.15

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No.15

COE

研究

員紹

介COE 研究員紹介      森 英之 (物理学第二教室)

連絡先 : [email protected]

私はこれまで、宇宙航空研究開発機構

(JAXA)/ 宇宙科学研究本部 (ISAS) におい

て、「すざく」を始めとした衛星搭載用 X

線望遠鏡の開発を行ってきました。X 線望

遠鏡は、検出器の小型化と集光撮像観測

を可能にするため、現在の X 線天文衛星

では必須の観測機器となっています。し

かし、一般の望遠鏡に採用されている屈

折光学系では、X 線を集光することが出

来ません。代わりに、物質に対して 1°

以下という極端な角度で入射させると全

反射する、という X 線の特性を利用した、Wolter-I 型斜入射光学系が用いられます。極

端な斜入射では、X 線が見込む鏡の面積は、実面積のわずか 1/100 です。そこで、バー

ムクーヘンのように薄い反射鏡を同心円状に多数積層して、開口効率を高める工夫が

なされています。日本では、「あすか」や「すざく」において、このような「多重薄板

型」X 線望遠鏡が採用されてきました。昨年 7 月に打ち上げられた、「すざく」衛星に搭

載されている X 線望遠鏡は、1 台当り 20kg と超軽量です。直径は 40cm で、中には厚さ

180 μ m の反射鏡が 1400 枚も詰まっています。この多重薄板型望遠鏡には、視野外から

の X 線が一部検出器に漏れ込んでしまうという構造上の問題があります。この解決のた

めに私は、大学院生活を通して、「すざく」衛星搭載X線望遠鏡用の前置コリメータの開発・

製作を行ってきました。前置コリメータは、その大部分が手作りであり、さながら職人

さんの気分で日々製作を続けていたものです。

この度京都に移ってからは、X線天文学という分野は変わらないのですが、「すざく」

衛星搭載 X 線 CCD カメラの維持管理を行っています。検出器側に鞍替えしたものの、撮

像分光観測において X 線 CCD カメラと望遠鏡は密接に関連しており、機上での性能評価

のためには両装置の知識が必要となってきます。そこで、「すざく」の能力をフルに発

揮できるように、これまでの経験を生かして機上較正を進めて行きたいと考えています。

また観測的研究の面からも、「すざく」の優れた撮像分光観測能力を広くアピールでき

ればと思っています。

(略歴 )

2000 年 4 月 東京大学理学部 物理学科卒業

2002 年 4 月 東京大学理学系研究科 物理学専攻修士課程修了

2005 年 9 月 東京大学理学系研究科 物理学専攻博士課程修了

2006 年 4 月 京都大学理学研究科 COE 研究員

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COE

研究

員紹

介COE 研究員紹介    佐光 貞樹(さみつ さだき) (物理学第一教室)

連絡先 : [email protected]

2006 年 4 月よりCOE研究員として物理学第一教室に

配属になりました佐光貞樹です。私はこれまで、東京大学

工学系研究科で機能性高分子に関する研究を行ってきまし

た。高分子は繊維、木材、プラスチックなどとして広く用

いられていて私たちの日常生活には欠かせない材料です。

最近では、電気を流せる機能性高分子(導電性高分子)の

材料開発が進展したことにより、高分子の軽量、柔軟、加

工しやすいという特徴を生かして、有機エレクトロルミネ

ッセンス、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池など有機

エレクトロニクス素子としての実用化も検討され、大きく

注目されています。しかしながら、導電性高分子の電気伝

導に関しては詳細な研究が行われておらず、そのキャリア伝導機構には明らかでない点

も多かったことから、博士論文の研究として導電性高分子のナノスケールでの電気伝導

機構に関する研究を行ってきました。

 3月までは東京大学柏キャンパスのある千葉県柏市に住んでいましたが 4月からは

京都に移り、物理学第一教室のソフトマター物理学研究室において、液晶分子系をモデ

ルとしたソフトマターの研究を行っています。ソフトマターは金属やセラミックなどに

比較して柔らかい物質(高分子・液晶分子・界面活性剤分子・ゲル・生体膜・コロイド

粒子など)を全て含む呼称です。個々の材料はそれぞれ古くより研究されていましたが、

それらに共通する物理的概念が注目され始めたことはごく最近で、統一的な物理描像を

得ようという試みが現在精力的に行われています。私もこれまで行ってきた高分子系の

研究およびこれから行う液晶分子系の研究を通じて、ソフトマターにおける物理学とは

何かというところに迫って行きたいと考えています。

(略歴 )

1997 年 3 月 私立大阪星光学院高等学校卒業

2001 年 3 月 東京大学工学部物理工学科卒業

2003 年 3 月 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻修士課程修了

2006 年 3 月 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了

        学位取得

2006 年 4 月から 京都大学大学院理学研究科 21 世紀COE研究員

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No.15

理学

部リ

サー

チフ

ェロ

ー紹

介理学部リサーチフェロー紹介      岡 光夫 (花山天文台)

連絡先 : [email protected]

粒子加速を研究しています。宇宙線など宇宙におけ

る高エネルギー粒子の多くはベキ型のエネルギー分布

を呈することが知られており、その生成機構を解明し

ようと世界で研究が進められています。

さて、私たちの地球(及びそれをとりまくプラズ

マ環境)は常に太陽の影響を受けています。特に大規

模な太陽フレアが発生すると、X 線やガンマ線が放射

されるほかプラズマ塊が放出されます (Coronal Mass

Ejection, CME) 。CME の前面では衝撃波と高エネルギ

ー粒子が生成されますが、CME が地球に到来すると地

球磁気圏でも磁気嵐が誘発され、やはり粒子が加速さ

れます。これらは人間社会に対しても影響を与えるた

め実用的意識を伴った「宇宙天気予報」の一環としても研究されています。

以上の背景のなかで、私はこれまでプラズマ粒子を直接計測する地球周回軌道衛星

Geotail を用いて太陽風や衝撃波を研究してきました。学位論文では、電子が衝撃波で

加速されることを改めて確認し、ベキ型エネルギースペクトルがホイッスラー臨界マッ

ハ数と呼ばれる無次元量で特徴づけられることを見出しました。ただし、加速機構を解

明するには非常に薄い衝撃波遷移層の内部を観測しなければならず、次世代の衛星観測

を待たねばなりません。

そこで今は太陽フレアを起点とした一連の現象のなかで原点に立ち返り、太陽フレ

アのエネルギー解放過程として知られる磁気リコネクションに伴う粒子加速の研究をは

じめました。手法も衛星観測から数値シミュレーションに変更しましたが、近い将来に

初期成果報告をしたいと考えています。

(略歴 )

2000 年 3 月  東京大学理学部地球惑星物理学専攻卒業

2005 年 3 月  東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻博士課程修了

2005 年 7 月  東京大学 学位博士(理学)取得

2005 年 8 月  京都大学理学部リサーチフェロー(花山天文台所属機関研究員)

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理学

部リ

サー

チフ

ェロ

ー紹

介理学部リサーチフェロー紹介      永山貴宏 (宇宙物理学教室)

連絡先 : [email protected]

 大学院時代には、1.4m 望遠鏡、および、そ

れに取り付ける近赤外線カメラ SIRIUS の開発と、

それらを用いた観測的研究を行ってきました。近

赤外線は、可視光線と比較して星間空間に漂う塵

による散乱・吸収が少ないという利点があり、銀

河の中心部や星生成領域などの星間塵に隠され

た、可視光線では決して見ることのできない領域

を観測することができます。しかしながら、私が

修士課程に入学した 1990 年代後半には、広い視野

を高い解像度で撮像可能な近赤外線カメラは世界

にもほとんどありませんでした。私は約3年間を

かけて世界最高水準の近赤外線カメラ SIRIUS を開発しました。そして、これを用いて

近赤外線による天の川銀河背後の銀河探査を行い、未知の銀河団 CIZA1324 の近赤外線

画像の取得に成功しました。そして、CIZA1324 が近傍宇宙で最大の重力集中であるグレ

ートアトラクターに関連する銀河団の中で2番目に大きな銀河団であることを明らかに

しました。

 京都では、大学院時代に学んだ赤外線天体観測装置開発の知識・技術をさらに発

展させるべく、新しい観測装置「17 μ m 帯高波長分解能ファブリペロー分光器」の開

発に取り組んでいます。この分光器は星間空間の水素分子が放射する純回転遷移輝線

S(1)(J=3 → 1, 波長:17.035 μ m) の検出を目的としています。水素分子は恒星の原材

料であり、星間空間に大量に存在していると考えられています。しかし、水素分子は観

測に適した輝線を放射しないため、これまでその直接的な観測はほとんどされていませ

ん。この研究で検出を目指す S(1) 輝線も観測の難しい中間赤外線に位置します。開発

中の分光器はその高い波長分解能により、S(1) 輝線に対応する波長で高い S/N を得るこ

とができます。この分光器を用いることで、様々な領域中の水素分子が検出可能になり、

多くの新発見がもたらされると期待しています。

(略歴 )

1998 年 3 月 名古屋大学理学部物理学科卒

2000 年 3 月 名古屋大学理学研究科素粒子宇宙物理学専攻博士前期課程修了

2004 年 3 月 同 博士後期課程満了

2004 年 4 月 京都大学理学研究科教務補佐員

2005 年 5 月 京都大学理学研究科研究員 (科学研究 )

2005 年 4 月 京都大学理学研究科 理学部リサーチフェロー

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No.15

書評

:「見

えな

いも

ので

宇宙

を観

る」

書評:「見えないもので宇宙を観る」小山勝二、舞原俊憲、中村卓史、柴田一成 編著

 人類が何千年、何万年にわたって

見続けてきた宇宙は、目で見える宇宙、

すなわち、可視光で見た宇宙である。そ

れは星々の宇宙であり、毎夜変わるこ

とのない姿を我々に示してきた。(中略)

可視光で見ると永遠不変に見える宇宙や

天体が、実は永遠不変どころか、進化し、

変動し、ときには、激しく爆発さえ起こ

すものであるということが、二〇世紀中

頃から発展した、電波、X線、赤外線な

どの可視光以外の電磁波による天文観測

によってわかってきた。すなわち、目で

見えない宇宙の姿は、目で見た宇宙とは

似ても似つかない、激しく変動する宇宙

だったのである。(「見えないもので宇宙

を観る」まえがきより抜粋)

 この本は 2003 年 12 月 6 日(土)

に行われた京大21世紀 COE「物理学の

多様性と普遍性の探求拠点」主催の第 1

回市民講座「宇宙の神秘に迫る―宇宙科

学最前線―」の講演記録をもとに書かれ

たものである。この講演会は京都市青少

年科学センターで行われ、中学生から高齢者まで約 150 人が参加した盛況なものであ

った。

 講演会と同様、この本の内容も 3 部構成になっている。どの章でも最新の宇宙

物理学の研究が口語体でわかりやすく説明されている。

 第一章は小山勝二教授による「X線で観た宇宙」である。X線は可視光に比べ

て透過力が高いので、濃いガスに埋もれている天体でも観測することができる。また、

一千万度から一億度ほどの超高温のプラズマはX線を放射するので、X線の観測は超

高温の活発な宇宙の観測にも向いている。またX線スペクトルを測定すると、どのよ

うな元素がどのような割合で含まれているかを調べることができる。この章では、こ

のX線観測の特徴を活かして、今どのようなことがわかりつつあるのかが述べられて

いる。特に、星の極めて活動的な現象、すなわち生まれたばかりの星(原始星)のフ

レアや最期の大爆発(超新星爆発)、そしてブラックホールについて、多くのページ

が割かれ丁寧に説明されている。この章に書かれている研究は、昨年打ち上げられた

日本のX線衛星「すざく」などの活躍で、さらなる理解が進むだろう。

 第二章では舞原俊憲教授(当時、2006 年 3 月退官)が「赤外線で探る宇宙の始め」

という題で、赤外線天文学が現代宇宙物理学の謎の解明にどのような役割を果たすか

を述べている。赤外線観測の特徴は大きく 3 点ある。一つ目は、可視光が届かないよ

うな暗黒星雲の中のほうや銀河の中心部まで見通すことができること。二つ目は、生

京都大学学術出版会(2006/02)

153 ページ/ 1575 円(税込)

ASIN 4876988072

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No.15

書評

:「見

えな

いも

ので

宇宙

を観

る」

まれたばかりの星(原始星)のような低温の星を見ることができること。そして三つ

目は、宇宙初期に生成された天体を観測するには赤外線観測が必須であること、であ

る。宇宙は遠くへ行くほど速いスピードで膨張しているため、非常に遠くの宇宙初期

の天体からの光はドップラー効果で赤方偏移してしまうからだ。この章では特に、三

番目の特徴について多くのページが割かれており、宇宙初期の天体の観測から宇宙の

始まりと終わりを探る試みについて丁寧に書かれている。章末では次世代の望遠鏡計

画にも触れられており、赤外線観測の今後への期待を感じさせる。

 最後の章は「重力波天文学―三つのノーベル物理学賞をめぐって―」という題で、

中村卓史教授が重力波とそれを使った天文学の可能性について述べている。重力波の

存在は理論的には予測されているが、未だに直接検出はされていない。振幅が小さす

ぎるため、検出が極めて困難だからである。この章では、連星パルサーの観測による

重力波存在の間接的な証明から、現在世界各地で行われている重力波を検出するプロ

ジェクト、そして重力波検出で解明が期待されること、を理論、観測の両面から説明

している。中村教授は章末で、二十一世紀には重力波が電磁波と同様、宇宙を探る重

要な手段となることを確信していると述べている。なお、副題の 3 つのノーベル章と

は、重力波天文学の礎となった「電波パルサーの発見(1974 年)」と「連星パルサー

PSR1913+16 の研究(1993 年)」、そして重力波の検出に与えられるであろうノーベル物

理学賞のことである。

 なお、章間には、講演会の質疑応答が「Q&A」としてはさまっている。講演会

出席者の質問は素朴な疑問から思わずドキッとさせられるような鋭いものまで多種多

様。それらの質問はもとより、それへの先生方の個性あふれる解答も必見だ。

     (宇宙物理学教室 久保田香織)

記者紹介 

久保田香織(Kaori Kubota) 宇宙物理学教室 M2

専攻: 恒星物理学(降着円盤を伴う系の観測的研究)

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CDUP News Letter

No.7

CDUP News Letter

No.15

■発行■京都大学 21COE 物理学の多様性と普遍性の探求拠点編集委員会〒 606-8502 京都市左京区北白川追分町 京都大学大学院理学研究科 物理学教室内 TEL: 075-753-3758 FAX: 075-753-3886 e-mail: [email protected]

第 15 号

平成 18 年 8 月 1 日発行 

  COE ニュースレターも発刊以来2年以上が経ち、今回で15号となりました。なかなか感慨深いものがあります。当初は月1回を目指しましたが、さすがに力尽きて今では2ヵ月に1回を目標にしています。ただ、これも1年で平均してみると2ヵ月に1回となっています。

しかし、一体ニュースレターは読まれているのだろうか?面白いのだろうか?こんな疑問も頭をよぎります。そこで、この5月に COE ニュースレターに関するアンケートを実施しました。意外にも ( !? )、60名もの方から回答を頂きました。( 発行部数の約1/5です。)皆様、御協力ありがとうございました。国友さんが集計の労をとって下さり、いろいろな事がわかってきました。

まず一つは、アンケートは修士以上の方にお願いしたのですが、修士課程の人にはあまりニュースレターの事が知られていないということでした。これまで、ニュースレターの配布先を DC 1以上としていたため、ある意味当然の事かもしれませんが、さっそくこれについては改善することにし、部数を増やして修士の院生にも配布しようということになりました。また、関連して、御意見の中に、学部生に配布してはどうかという提案が複数ありました。これももっともな御指摘で、せっかくの COE の広報活動を学部生にしないというのはあまりにもったいない事です。ニュースレターは理学部或は京大の外部にも配布をしていますが、おひざもとの理学部では学部生用には中央図書室と各教室図書室1部づつ配送している程度なので、今後は、課題演習/研究で配布するか、教務の窓口近くにもおくか、等の検討をし始めました。また、ニュースレターは WEB 上でも読めるのですが、あまり目立たないので COE ホームページの表紙からたどれるように改善しました。

一方、広報なのかニュースなのかはっきりしないという御指摘もありました。これもごもっともですが、その両方を意識しているので、今後もこの線で進めさせて頂こうと思っています。むしろ問題なのは、ニュースにしては遅いとか定期発行できてないからダメだという点にあると思います。この点は広報委員会でも認識はしているのですが、委員も非常に多忙でなかなか対応できておりません。今後も改善を目指していくつもりでいますが、遅くなった時は御容赦下さい。内容に関しては、いろいろな研究室や研究現状がわかって面白いという御指摘も多かったのですが、難しい ( 専門的過ぎる ) という指摘もありました。一般向けではないので、多少難しいのは仕方ないと思いますが、実は編集をしていても同様の事を感じることがあります。特に、当事者が解説を書くとどうも難しくなる傾向があるように思えます。他研究室の院生が取材して書くとわかりよいようです。( なかなか興味深い傾向です。)なるべく取材形式をとるのがよいと考えていますが、記者不足もあり、あまり容易ではありません。

回答して下さった方のほぼ全てが、「面白い」または「まあまあ面白い」という回答でしたので ( 回答する人なので明らかにバイアスがかかっていますが、回答数が心の支えです )、何がしかの役にはたっているということで今後も励んでいきたいと思います。むろん、皆様の御協力あってのでニュースレターですので今後ますますの御支援をお願いする次第です。

(宇宙物理学教室 太田耕司)

編集後記

  21COE 物理学の多様性と普遍性の探求拠点  CDUP NEWS LETTER 編集委員会

 柴田 一成      [email protected] 犬塚修一郎     [email protected] 国友 浩        [email protected] 野村 正        [email protected] 太田 耕司 [email protected] 田中耕一郎 (編集長 ) [email protected]