5. conclusions table 5. the ratios between the velocity at

4
黒田真央、内田圭一、東海正(東京海洋大学)、向井徹、今井圭理(北海道大学)森井康宏、八木光晴、清水健一(長崎大学)、三橋廷央、内山正樹、東隆文(鹿児島大学) 近年、海洋ごみ問題が大きく取り上げられ、世界的に 注目されている。2016 1 月にスイスのダボスで開催 された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議) では、海洋に流出するプラスチックごみに対して何の 対策も講じなければ、2050 年までにその量が海洋中の 魚の量(重量)を上回るという報告 1) がなされた。 海洋ごみは、漂流ごみ、漂着ごみ、海底ごみに分けら れ、その中でも海底ごみは、底びき網漁業における漁獲 物との分別労力発生による操業漁獲効率の低下や漁獲 物の損傷、底生生物の生息環境に及ぼす影響が懸念さ れている 2) 。また、海底ごみは、底びき網漁業によって 引き上げられる以外に日常的に目につくことはなく、 海岸に漂着するごみのように清掃によって除去するこ とも困難であり、どの程度海底に沈積しているのかも 定かではない 3) 。日本では環境省が主体となり、これま での漂流、漂着ごみの実態把握調査に加えて、平成 23 年度から海底ごみの実態把握調査に取り組みはじめた。 平成26 年度からは沿岸海域と沖合海域で海底ごみの実 態把握調査が実施され、沿岸海域では内湾域で操業す る小型底びき網漁船、沖合域では東京海洋大学練習船 により、底びき網を用いた調査が行われてきた 4) 。また、 平成 29 年度からは、北海道大学、長崎大学、鹿児島大 学の練習船も加わり、調査範囲を広げている。海底ごみ の実態把握が進めば、その結果を基にして、対策を講じ ることが可能となると考えられる。 本研究では、日本周辺の沖合域において練習船など により実施された底びき網を用いた調査結果から、海 域別の海底ごみの実態把握に取り組み、その特徴を明 らかにすることを目的とした。 調 2014 年~2018 年の 7 月~10 月に練習船などで底びき 網による海底ごみの回収調査を行った。調査地点は 5 年間で、日高湾 4 地点( 1)、常磐沖 13 地点( 2) 鹿児島周辺 5 地点( 薩摩半島南方沖 1 地点、鹿児島湾内 4 地点) 、東シナ海46 地点( 3) の計68 地点となった。 1 日高湾調査地点 2 常磐沖調査地点 苫小牧 青森 銚子 大洗 -85- 2019年度日本水産工学会学術講演会

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Page 1: 5. Conclusions Table 5. The ratios between the velocity at

日本周辺沖合域における海底ごみの現状

黒田真央、内田圭一、東海正(東京海洋大学)、向井徹、今井圭理(北海道大学)、

森井康宏、八木光晴、清水健一(長崎大学)、三橋廷央、内山正樹、東隆文(鹿児島大学)

1.はじめに

近年、海洋ごみ問題が大きく取り上げられ、世界的に

注目されている。2016年 1月にスイスのダボスで開催

された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)

では、海洋に流出するプラスチックごみに対して何の

対策も講じなければ、2050 年までにその量が海洋中の

魚の量(重量)を上回るという報告1)がなされた。

海洋ごみは、漂流ごみ、漂着ごみ、海底ごみに分けら

れ、その中でも海底ごみは、底びき網漁業における漁獲

物との分別労力発生による操業漁獲効率の低下や漁獲

物の損傷、底生生物の生息環境に及ぼす影響が懸念さ

れている 2)。また、海底ごみは、底びき網漁業によって

引き上げられる以外に日常的に目につくことはなく、

海岸に漂着するごみのように清掃によって除去するこ

とも困難であり、どの程度海底に沈積しているのかも

定かではない 3)。日本では環境省が主体となり、これま

での漂流、漂着ごみの実態把握調査に加えて、平成 23

年度から海底ごみの実態把握調査に取り組みはじめた。

平成26年度からは沿岸海域と沖合海域で海底ごみの実

態把握調査が実施され、沿岸海域では内湾域で操業す

る小型底びき網漁船、沖合域では東京海洋大学練習船

により、底びき網を用いた調査が行われてきた 4)。また、

平成29年度からは、北海道大学、長崎大学、鹿児島大

学の練習船も加わり、調査範囲を広げている。海底ごみ

の実態把握が進めば、その結果を基にして、対策を講じ

ることが可能となると考えられる。

本研究では、日本周辺の沖合域において練習船など

により実施された底びき網を用いた調査結果から、海

域別の海底ごみの実態把握に取り組み、その特徴を明

らかにすることを目的とした。

2.調査方法

2014年~2018年の7月~10月に練習船などで底びき

網による海底ごみの回収調査を行った。調査地点は 5

年間で、日高湾 4地点(図 1)、常磐沖 13地点(図 2)、

鹿児島周辺5地点(薩摩半島南方沖1地点、鹿児島湾内

4地点)、東シナ海46地点(図3)の計68地点となった。

図1 日高湾調査地点

図2 常磐沖調査地点

苫小牧

青森

銚子

大洗

-85-

Table 5. The ratios between the velocity at each point and assumed free flow velocity 𝑣𝑣𝑣𝑣𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓 𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓,𝑖𝑖𝑖𝑖Point Period 1 Period 2 Period 3 Period 4C8 0.59 0.57 0.76 0.57C9 0.24 0.37 0.45 0.31C10 0.30 0.53 0.61 0.43C11 0.37 0.41 0.47 0.30

Table 6. The relative turbulence intensity at each point during each periodPoint Period 1 Period 2 Period 3 Period 4C8 0.09 0.14 0.13 0.16C9 0.68 0.63 0.63 0.68C10 0.65 0.39 0.36 0.37C11 0.15 0.19 0.21 0.17

Due to the drag of the stocked cage, the current velocity at C11 is lower than that at C8. During the periods, the fish might not revolve together since the workers was not feeding fish. Accordingly, the relative turbulence intensities at C9 and C10 are similar. Because the points C9 and C10 are closer to the fish than the point C11, the higher turbulence intensity was observed. Because the rear netting of the cage was located between the point C9 and C11, the velocity at C11 should be lower than that at C9or C10 if the netting exerts drag. However, because thefish make turbulent flow, the drag of the rear netting significantly decreased as observed in the CWC test.

The qualitatively similar results were obtained for the inside and wake velocities between CWC test and field measurement. So the similar equations can be applied to the drag (𝐷𝐷𝐷𝐷𝑠𝑠𝑠𝑠.𝑐𝑐𝑐𝑐.) of the cage and stocked fish (Eq. 3 - 4). However, more detailed comparisons and verifications are required to get the quantitatively consistent results due to the numerous variables of a school of farmed fish such asswimming speed, swimming depth, strength of thrust, shape of fish, and vertical biomass distribution.

𝐷𝐷𝐷𝐷𝑓𝑓𝑓𝑓.𝑓𝑓𝑓𝑓. = 𝐶𝐶𝐶𝐶𝑓𝑓𝑓𝑓𝑖𝑖𝑖𝑖 ∙ 𝜌𝜌𝜌𝜌𝑠𝑠𝑠𝑠 ∙ (𝑉𝑉𝑉𝑉𝑓𝑓𝑓𝑓𝑖𝑖𝑖𝑖 ∙ 𝑣𝑣𝑣𝑣𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖2 ) 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓� (3) 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑠𝑠𝑠𝑠.𝑐𝑐𝑐𝑐. = 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑓𝑓𝑓𝑓.𝑖𝑖𝑖𝑖. + 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑦𝑦𝑦𝑦.𝑡𝑡𝑡𝑡. (4)

where, 𝐷𝐷𝐷𝐷𝑓𝑓𝑓𝑓.𝑖𝑖𝑖𝑖. is the calculated drag of the front netting [1],𝐷𝐷𝐷𝐷𝑓𝑓𝑓𝑓.𝑓𝑓𝑓𝑓. is the drag exerted by farmed fish. 𝐶𝐶𝐶𝐶𝑓𝑓𝑓𝑓𝑖𝑖𝑖𝑖 is the drag coefficient which can be determined by such factors that movement and shape of the fish. 𝜌𝜌𝜌𝜌𝑠𝑠𝑠𝑠 is the sea water density, 𝑉𝑉𝑉𝑉𝑓𝑓𝑓𝑓𝑖𝑖𝑖𝑖 is the displacement of farmed fish, 𝑣𝑣𝑣𝑣𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 is the current velocity inside of the fish cage, and 𝑑𝑑𝑑𝑑𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓𝑓 is the fork length of the fish.

5. ConclusionsThe velocity distribution around the stocked model

cage corresponded to that around the full-scale fish cage. The flow velocity inside and in the wake of the cage was reduced and turbulent. The significant drag decrease of the rear netting under the turbulent flow was observed in the CWC test. The same phenomenon is expected for the drag of the stocked full-scale cage. Based on the qualitative similarity between them, the equations to estimate the drag of a cage with stocked fish were proposed and will be inserted as an external force of the governing equations for numerical simulation in the future.Acknowledgments

This research was supported by grants from the Project of the NARO Bio-oriented Technology Research Advancement Institution (R&D matching funds on the field for knowledge integration and innovation). References [1] Kristiansen, Trygve; Faltinsen, Odd M. “Modelling of current loads on aquaculture net cages”. Journal of Fluids and Structures, 2012, 34: 218-235.[2] Gansel, L. C., Rackebrandt, S., Oppedal, F., & McClimans, T. A. (2014). Flow fields inside stocked fish cages and the near environment. Journal of Offshore Mechanics and Arctic Engineering, 136(3), 031201.[3] Johansson, D., Juell, J. E., Oppedal, F., Stiansen, J. E., & Ruohonen, K. (2007). The influence of the pycnocline and cage resistance on current flow, oxygen flux and swimming behaviour of Atlantic salmon (Salmo salar L.) in production cages. Aquaculture, 265(1-4), 271-287.[4] T. Shiraishi, S. Ohshima, and R. Yukami, “Age, growth and reproductive characteristics of yellowtail (Seriola

quinqueradiata) caught in the waters off western kyushu” Bull. Jpn. Soc. Fish. Oceanogr, vol. 75, pp. 1-8, 2011.[5] Tang, Ming-Fu, et al. "Numerical simulation of the effects of fish behavior on flow dynamics around net cage." Applied Ocean Research 64 (2017): 258-280.[6] M. Nakamura, Suisandobokugaku [Fisheries engineering], vol. 486. 1991.[7] G. Loland, Current force on and flow through fish farms. PhD thesis, Division of marine hydrodynamics, The Norwegian Institute of Technology, 1991.

-84-

2019年度日本水産工学会学術講演会

Page 2: 5. Conclusions Table 5. The ratios between the velocity at

表3 海域別の海底ごみの種別組成

ここで漁具類に注目すると、東シナ海では個数密

度が上位となったのに対して、日高湾と常磐沖では

重量密度が上位となった。東シナ海で回収された漁

具類が、テグスや漁網の切れ端など重量の軽いもの

が多かったのに対して、日高湾や常磐沖では、個数こ

そ少ないものの沈子が付いていたり大きな塊であっ

たりして個々の重量が重かったため、このような違

いが見られたと考えられた。今後は、回収された漁具

が当該海域で行われている漁業で用いられているか

などを検討していく必要がある。

3)国別海底ごみ量

得られた海底ごみの表面に記載された情報から製

造国が明らかとなったものについて、その個数を海

域ごとに示す(表4)。

表4 海域別、製造国が明らかとなった人工物の個数

外国製のごみが、最も多く回収されたのは東シナ

海であった。製造国と流出国は必ずしも一致するわ

けではないが、結果的に日本、韓国、中国、台湾が面

している東シナ海において、それらの国々が製造国

となる製品が回収された(図 4)。このことから、こ

れらの国々から流出したごみが、東シナ海に集積し

ている可能性が示唆された。また、東シナ海では中国、

韓国の漁船が多数操業しており、これら漁船が発生

源の一つとなっている可能性も考えられた。また、常

磐沖でも外国製の海底ごみが確認された。外国製の

ごみが、日本の海岸に漂着することは広く知られて

いる 6)。今回、常磐沖で見られた外国製のごみは、食

品包装材や日用品の包装などのプラスチック製品で

あった(図5)。一方で、日本製であることが確認でき

た海底ごみには、金属製の飲料缶が多く見られた(図

6)。こうした傾向は、比重の小さいプラスチック製の

包装材は海流に乗って漂流しやすく、比重の大きい

金属製品は流出源の近くに留まりやすいことを裏付

ける結果といえる。このことから、日本沖合海域で見

られる外国製のごみは、外国から海流によって日本

周辺に運ばれ、海底に沈積した可能性が考えられた。

このように、海洋に流出したごみは、他国の海岸に漂

着するだけではなく、海底にも広く拡散し沈積して

いる可能性が示唆された。一方で常磐沖は、外航船が

多数往来する航路上でもあることから、これらの船

舶から発生したものが海中に沈み、航路周辺に沈積

している可能性も考えられる。

図4 東シナ海で回収されたプラスチック製品の一例

図5常磐沖で回収された韓国語表記のある食品包装材

海域 種類 割合(%) 種類 割合(%)日高湾 破片類 46 漁具類 21常磐沖 袋類 23 漁具類 25

鹿児島周辺 その他人工物 34 袋類 70東シナ海 漁具類 16 その他人工物 25

個数密度 重量密度

-87-

図3 鹿児島周辺、東シナ海調査地点

調査に使用した船舶と調査年度、海域は以下の表の

通りである(表1)。

表1 使用船舶と調査年度、海域、水深

*1東京海洋大学、*2久慈町漁業協同組合、*3茨城水産試験

場、*4北海道大学、*5長崎大学、*6鹿児島大学

2015年度は、台風の影響により東京海洋大学の練習

船で調査できなかった地点を、忠宝丸、いばらき丸、

南星丸の調査によって補完した。

底びき網を用いた調査によって回収した海底ごみは、

種類別に分別した後、自然乾燥させ、デジタルカメラ

で撮影するとともに、種類と長さ、重量を記録した。

分類は、環境省の海底ごみ分類区分 5)を基に行い、

袋類、ペットボトル、容器、ひも類、シート、漁具類、

破片類、ゴム類、発泡スチロール、紙類、布類、ガラ

ス・陶器、金属類、その他人工物、その他(不明)を人

工物とし、海藻や流木、その他生物の死骸などを自然

物として扱った。また、流出源に関連する記載事項な

どがあれば、備考として野帳に記録した。本調査では、

底びき網を投入し曳網を開始(着底)してから、網を

巻き上げるまでの間(離底まで)を曳網とし、GPSで

測位したそれぞれの緯度経度から曳網距離を算出し

た。そして、底びき網の網口幅と曳網距離から、曳網

面積を割り出し、調査地点の海底ごみ分布密度を面

積あたりの個数と重量で求めた。海底ごみの量と合

わせて漁獲量も記録できた調査地点(日高沖 3 地点、

常磐沖 3 地点、東シナ海 44 地点)では、漁獲密度

(kg/km²)に対する人工物密度(kg/km²)の比も求めた。

ここでの漁獲量とは、底びき網で得られた生物(水産

有用魚種以外も含む)の総量とする。

3.結果と考察

1)海域別の海底ごみ量

今回の調査で得られた海底ごみの分布密度を海域

別に求めた(表2)。

表2 海域別の海底ごみ分布密度

今回の調査結果では、個数密度と同様に日高湾の

密度が最も高い結果となった。これは、日高湾の調査

地点が他の調査地点(水深 67 m~523 m)と比べて水

深の深い湾の谷底(水深707 m~830 m)であったため、

海底ごみが集積しやすくなっていた可能性が考えら

れる。さらに、日高湾は対馬海流と親潮の合流付近に

近く、海流に乗ってきたごみが、集積しやすい場所で

あることも一因として考えられる。

2)海域別の海底ごみ組成

海域別の海底ごみの種別組成(%)を示す。ここで

は、各海域で最も割合の多かったものを以下の表に

示す(表3)。

船舶名 トン数(t) 調査年度 調査海域 水深(m)

海鷹丸*1 1,886 t201420162017

東シナ海 120-523

神鷹丸Ⅲ*1 649 t201420152016

東シナ海常磐沖

神鷹丸Ⅳ*1 986 t20172018

東シナ海常磐沖

忠宝丸*2 14 t 2015 常磐沖 78-253いばらき丸*3 179 t 2015 常磐沖 67-148

おしょろ丸*4 1,598 t20172018

日高湾 707-830

長崎丸*5 842 t20172018

東シナ海 133-148

鹿児島丸*6 935 t20172018

東シナ海 123-151

南星丸*6 175 t 2015 鹿児島周辺 80-104

100-151108-168

海域 平均個数密度(個/km²) 平均重量密度(kg/km²)日高湾 2926.1 52.8常磐沖 325.6 2.2

鹿児島周辺 564.1 2.2東シナ海 81.5 10

九州

東シナ海 太平洋

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2019年度日本水産工学会学術講演会

Page 3: 5. Conclusions Table 5. The ratios between the velocity at

表3 海域別の海底ごみの種別組成

ここで漁具類に注目すると、東シナ海では個数密

度が上位となったのに対して、日高湾と常磐沖では

重量密度が上位となった。東シナ海で回収された漁

具類が、テグスや漁網の切れ端など重量の軽いもの

が多かったのに対して、日高湾や常磐沖では、個数こ

そ少ないものの沈子が付いていたり大きな塊であっ

たりして個々の重量が重かったため、このような違

いが見られたと考えられた。今後は、回収された漁具

が当該海域で行われている漁業で用いられているか

などを検討していく必要がある。

3)国別海底ごみ量

得られた海底ごみの表面に記載された情報から製

造国が明らかとなったものについて、その個数を海

域ごとに示す(表4)。

表4 海域別、製造国が明らかとなった人工物の個数

外国製のごみが、最も多く回収されたのは東シナ

海であった。製造国と流出国は必ずしも一致するわ

けではないが、結果的に日本、韓国、中国、台湾が面

している東シナ海において、それらの国々が製造国

となる製品が回収された(図 4)。このことから、こ

れらの国々から流出したごみが、東シナ海に集積し

ている可能性が示唆された。また、東シナ海では中国、

韓国の漁船が多数操業しており、これら漁船が発生

源の一つとなっている可能性も考えられた。また、常

磐沖でも外国製の海底ごみが確認された。外国製の

ごみが、日本の海岸に漂着することは広く知られて

いる 6)。今回、常磐沖で見られた外国製のごみは、食

品包装材や日用品の包装などのプラスチック製品で

あった(図5)。一方で、日本製であることが確認でき

た海底ごみには、金属製の飲料缶が多く見られた(図

6)。こうした傾向は、比重の小さいプラスチック製の

包装材は海流に乗って漂流しやすく、比重の大きい

金属製品は流出源の近くに留まりやすいことを裏付

ける結果といえる。このことから、日本沖合海域で見

られる外国製のごみは、外国から海流によって日本

周辺に運ばれ、海底に沈積した可能性が考えられた。

このように、海洋に流出したごみは、他国の海岸に漂

着するだけではなく、海底にも広く拡散し沈積して

いる可能性が示唆された。一方で常磐沖は、外航船が

多数往来する航路上でもあることから、これらの船

舶から発生したものが海中に沈み、航路周辺に沈積

している可能性も考えられる。

図4 東シナ海で回収されたプラスチック製品の一例

図5常磐沖で回収された韓国語表記のある食品包装材

海域 種類 割合(%) 種類 割合(%)日高湾 破片類 46 漁具類 21常磐沖 袋類 23 漁具類 25

鹿児島周辺 その他人工物 34 袋類 70東シナ海 漁具類 16 その他人工物 25

個数密度 重量密度

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図3 鹿児島周辺、東シナ海調査地点

調査に使用した船舶と調査年度、海域は以下の表の

通りである(表1)。

表1 使用船舶と調査年度、海域、水深

*1東京海洋大学、*2久慈町漁業協同組合、*3茨城水産試験

場、*4北海道大学、*5長崎大学、*6鹿児島大学

2015年度は、台風の影響により東京海洋大学の練習

船で調査できなかった地点を、忠宝丸、いばらき丸、

南星丸の調査によって補完した。

底びき網を用いた調査によって回収した海底ごみは、

種類別に分別した後、自然乾燥させ、デジタルカメラ

で撮影するとともに、種類と長さ、重量を記録した。

分類は、環境省の海底ごみ分類区分 5)を基に行い、

袋類、ペットボトル、容器、ひも類、シート、漁具類、

破片類、ゴム類、発泡スチロール、紙類、布類、ガラ

ス・陶器、金属類、その他人工物、その他(不明)を人

工物とし、海藻や流木、その他生物の死骸などを自然

物として扱った。また、流出源に関連する記載事項な

どがあれば、備考として野帳に記録した。本調査では、

底びき網を投入し曳網を開始(着底)してから、網を

巻き上げるまでの間(離底まで)を曳網とし、GPSで

測位したそれぞれの緯度経度から曳網距離を算出し

た。そして、底びき網の網口幅と曳網距離から、曳網

面積を割り出し、調査地点の海底ごみ分布密度を面

積あたりの個数と重量で求めた。海底ごみの量と合

わせて漁獲量も記録できた調査地点(日高沖 3 地点、

常磐沖 3 地点、東シナ海 44 地点)では、漁獲密度

(kg/km²)に対する人工物密度(kg/km²)の比も求めた。

ここでの漁獲量とは、底びき網で得られた生物(水産

有用魚種以外も含む)の総量とする。

3.結果と考察

1)海域別の海底ごみ量

今回の調査で得られた海底ごみの分布密度を海域

別に求めた(表2)。

表2 海域別の海底ごみ分布密度

今回の調査結果では、個数密度と同様に日高湾の

密度が最も高い結果となった。これは、日高湾の調査

地点が他の調査地点(水深 67 m~523 m)と比べて水

深の深い湾の谷底(水深707 m~830 m)であったため、

海底ごみが集積しやすくなっていた可能性が考えら

れる。さらに、日高湾は対馬海流と親潮の合流付近に

近く、海流に乗ってきたごみが、集積しやすい場所で

あることも一因として考えられる。

2)海域別の海底ごみ組成

海域別の海底ごみの種別組成(%)を示す。ここで

は、各海域で最も割合の多かったものを以下の表に

示す(表3)。

船舶名 トン数(t) 調査年度 調査海域 水深(m)

海鷹丸*1 1,886 t201420162017

東シナ海 120-523

神鷹丸Ⅲ*1 649 t201420152016

東シナ海常磐沖

神鷹丸Ⅳ*1 986 t20172018

東シナ海常磐沖

忠宝丸*2 14 t 2015 常磐沖 78-253いばらき丸*3 179 t 2015 常磐沖 67-148

おしょろ丸*4 1,598 t20172018

日高湾 707-830

長崎丸*5 842 t20172018

東シナ海 133-148

鹿児島丸*6 935 t20172018

東シナ海 123-151

南星丸*6 175 t 2015 鹿児島周辺 80-104

100-151108-168

海域 平均個数密度(個/km²) 平均重量密度(kg/km²)日高湾 2926.1 52.8常磐沖 325.6 2.2

鹿児島周辺 564.1 2.2東シナ海 81.5 10

九州

東シナ海 太平洋

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2019年度日本水産工学会学術講演会

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ビデオカメラを用いた海洋ごみ調査の基礎的研究

鈴木稜平(東京海洋大学海洋資源環境学専攻)、内田圭一(東京海洋大学学術研究院)、

黒田真央(東京海洋大学応用環境システム学専攻)、

塩出大輔、宮本佳則(東京海洋大学学術研究院)

1.はじめに

近年、海洋ごみ問題が世界中で高い関心を集めてお

り、その実態の把握が進められている。目に見えるサ

イズの漂流ごみの観測は、航走する船舶から目視によ

って観測を行うのが一般的である。目視観測は航走す

る船舶のデッキ上で、長時間にわたり行われるため、

多大な労力が必要となる。また、人によっては船酔い

などで発見の精確性に欠ける可能性がある。また、漂

流ごみは海面に一様に分布しているわけではなく、潮

目に大量に集積する 1)ことが分かっており、このよう

な地点ではその量を正確に記録することは難しい。こ

れらの問題の解決策としてビデオカメラの映像を用い

た手法を考案した。航行中の海面を撮影し持ち帰り、

その映像から漂流ごみを検出することができれば、船

上での労力軽減と見落としの問題を解決できると考え

た。そこで本研究では、目視観測による調査結果とビ

デオの映像から得られた結果を比較し、映像を用いた

調査の有用性を明らかにすることを目的とした。 2.調査方法

調査は2018年11月6日~7日に本大学の練習船青

鷹丸(総トン数:170 t)の相模湾調査航海時に行った。

調査時の船速は約10ノット、観測時の風は風速0m/s~8m/s で、比較的穏やかな海況であった。調査では、

本学練習船で 2014 年から実施している目視観測と同

じ方法で漂流ごみを記録すると同時に、船体横から 5~20mの距離の範囲をビデオカメラで撮影した。下船

後にその映像から漂流ごみをカウントし、目視観測で

得られた結果のうち 5~20mの距離の範囲に漂流して

いたものと比較した。 目視観測は、青鷹丸の船舶のミドルデッキ(眼高4m)

から行った。発見した漂流ごみは、サイズ、色、種類、

船体からの最接近距離などを記録した。サイズは

20cm未満をSS、20~50cmをS、50~100cmをM、

100~200cmをL、200cmより大きいものをLLサイ

ズとした。 ビデオカメラによる観測では、Kenuoデジタルビデ

オ(1080P)に広角レンズと偏光レンズを装着して使

用した。映像上の漂流ごみの大きさと船体との最接近

距離は、陸上で観測時と同じ4mの高さにカメラを設

置し、サイズ計測済みの物を、距離を変えながら撮影

することで基準となるデータを作成した。 3.結果、考察

1)潮目における発見数の比較 今回の調査ではその他天然物(陸上から流入した葉

っぱや枯れ草など)を主とする潮目が確認された。潮

目を通過した際の、その他天然物の SS サイズの発見

数を比較したところ、目視観測が619個に対し、ビデ

オカメラの映像からは 1755 個と約 3 倍の数を確認す

ることができた(図1)。映像では、再生の際に、スロ

ーにしたり、一時停止をさせたりしながら、記録漏れ

が無いように解析を進めることができる。一方で目視

観測では、一度に多数の漂流物が出現した場合、それ

らの記録が追い付いていなかったり、カウントしきれ

ていなかったりする可能性がある。そのために、ビデ

オカメラの方が確認できたその他自然物が多くなった

ものと考えらえた。 2)サイズによる発見数の比較 次に、サイズ別の発見個数の比較を行う。ここでは、

発見された漂流物の個数をサイズ別に目視観測とビデ

オカメラで比較した(図 2)。その結果、SS サイズは

ビデオ映像から確認された個数の方が多いが、サイズ

が大きくなるにつれて、目視観測での発見数が、ビデ

オカメラでの発見数を若干上回る傾向が見られた。特

に、SSサイズの漂流ごみの、その他天然物と発泡スチ

ロール以外のものについては、ビデオカメラの映像か

ら発見された個数より目視観測で発見された個数の方

が多かった。このようになった理由については、以下

に示す色の影響が考えられた。 3)色による発見数の比較 目視観測とビデオカメラで記録した漂流ごみの個数

を、色別に比較したものが次のグラフである(図 3)。透明な漂流物では、目視観測の発見個数が 98 個、ビ

デオ映像からの発見個数が5個と大きく異なっていた。

透明の漂流物は、主に水面下を漂う食品包装材になり、

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図6 日本製の飲料缶

4)漁獲量に対する海底ごみ量の比

背景で述べたように、2050年には海洋中の魚の重量

をプラスチックごみの量が上回るという報告がなされ

ている。

そこで、今回調査を行った海域における、漁獲物に

対する海底ごみの比について考察した。本調査で、海

底ごみの占める比(人工物密度/漁獲密度)が最も高

かったのは、東シナ海の0.28であった。これには、金

属類も含まれていたため割合が高くなっているが、50

測点中 38測点は 0.01以下となった。今回の結果から

は経年的に海洋ごみ量が増加していく傾向は捉えられ

なかった。同海域においても調査地点が年度によって

異なるため、経年的変化については言及できない。今

後経年変化を捉えるためには、同一調査地点での底び

き網を用いた調査を継続して行っていくことが求めら

れる。

4.まとめ

今回の調査結果では、個数密度と重量密度の両方で、

日高湾が高い結果となった。この結果から、海底ごみ

の集積には海流と海底地形が関わっている可能性が示

唆された。また、今回の調査では漁具類が多く確認さ

れたことから、海底ごみの流出源として、陸からの流

出だけでなく、その海域で行われている漁業活動も発

生源の一つとして考えられた。また、東シナ海、常磐

沖は、ともに外航船舶が多く航行する海域でもある。

今後は、調査海域に面する国々だけでなく、その海域

を航行する船舶の状況なども併せて検討する必要があ

るだろう。

東シナ海では、この海域に面する国で製造されたご

みが回収されたことから、それぞれの国から流出した

ごみが集積しているものと考えられた。特に、東シナ

海は、日本、中国、韓国の漁船が操業していることか

ら、これらの船も発生源の一つと考えられた。

漁獲密度(kg/km²)に対する人工物量密度(kg/km²)

の比は、最も高かったところでは 0.28 であったが、

多くの測点は0.01以下であり、魚の量に対するプラ

スチックごみの量は、極めて少ないものと考えられ

た。経年的な海洋ごみ量の増減は、今回の調査では捉

えられなかったが、今後も継続的に調査を行い注視

していく要がある。

今回の調査では海底ごみにのみ着目したが、今後

は経年変化を明らかにしていく上でも、これら海域

での漂流ごみや漂着ごみにも着目し、海岸、海中、海

底とすべてのごみの量を比較しながら実態を明らか

にしていく必要があると考える。

参考文献

1)World Economic Forum, Ellen MacArthur

Foundation and McKinsey & Company (2016) The New

Plastics Economy — Rethinking the future of

plastics.(http://www.ellenmacarthurfoundation.

org/publications).

2)藤枝 繁,大富 潤,東 政能,幅野明正.(2009).鹿児

島湾における海底堆積ごみの分布と実態. 日本水産

学会誌, 75(1), 19-27.

3) 栗山雄司,東海正,田畠健治,兼廣春之.(2003).

東京湾海底におけるごみの組成・分布とその年代分

析.日本水産学会誌, 69(5), 770-781.

4) 兼廣 春之, 東海 正, 松田 皎.(1996) 東京湾小

型底曳網漁場におけるゴミの分布. 32 (3); 211-217.

5)環境省(2016)平成28年度 沖合海域における漂流・

海底ごみ実態把握調査業務報告書.資料24.

6)藤枝繁,小島あずさ,兼広春之.ディスポーザブル

ライターを指標とした海岸漂着ごみのモニタリング.

廃棄物学会論文誌, 2006, 17.2: 117-124.

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2019年度日本水産工学会学術講演会