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4-2-1 4-2 Question 「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」の活用方法について教え て下さい。 Question の意味と背景 提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』 1) のなかで、「河川環境を評価し、具体的 な改善に結びつけていくことを実践していくことが必要」とされ、その具体的な評価手法とし て「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」 2) (以下、「本手引き」という)が作成され た。 本手引きは、令和元年 8 月の事務連絡 3) により、河川整備計画の河道計画に関する資料のと りまとめに当たって、「現況河道の環境情報」の検討に活用される手法として位置付けられ、 その考え方や活用方法を理解することは、河川法の目的である「河川環境の整備と保全」を行 う上で重要となっている。 また、本手法は各河川の特徴に応じて柔軟に活用することが許容されている 2) 。実際、各現 場において、それぞれの河川の状況によって、評価項目や評価距離などが適宜調整され、その 活用は河川環境の管理だけにとどまらず、維持管理や治水事業など、その他計画との整合性の チェックなどに活用されつつある 4)

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Page 1: 4-2 Question4-2-1 4-2 Question 「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」の活用方法について教え て下さい。 Questionの意味と背景 提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』1)のなかで、「河川環境を評価し、具体的

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4-2 Question

「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」の活用方法について教え

て下さい。

■Question の意味と背景

提言『持続性ある実践的多自然川づくりに向けて』1)のなかで、「河川環境を評価し、具体的

な改善に結びつけていくことを実践していくことが必要」とされ、その具体的な評価手法とし

て「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」2)(以下、「本手引き」という)が作成され

た。

本手引きは、令和元年 8 月の事務連絡 3)により、河川整備計画の河道計画に関する資料のと

りまとめに当たって、「現況河道の環境情報」の検討に活用される手法として位置付けられ、

その考え方や活用方法を理解することは、河川法の目的である「河川環境の整備と保全」を行

う上で重要となっている。

また、本手法は各河川の特徴に応じて柔軟に活用することが許容されている 2)。実際、各現

場において、それぞれの河川の状況によって、評価項目や評価距離などが適宜調整され、その

活用は河川環境の管理だけにとどまらず、維持管理や治水事業など、その他計画との整合性の

チェックなどに活用されつつある 4)。

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Answer

本手引きを活用して、河川環境を定量的に把握し、河川改修・自然再生・

維持管理などあらゆる場面で、河川環境の整備と保全を検討しましょう。

■Answer の概要と基本的考え方

本手引きは、直轄河川を対象に河川水辺の国勢調査の河川環境基図作成調査等から得られ

る生息場情報を中心に簡易的かつ定量的に河川環境を評価し、その結果を用いて区間別(標準

1km)の河川環境の特性と経年変化を把握し、その改善をはかることを目的として作成された

ものである。直接コントロールできない生物そのものよりも河川管理者の操作性の高い「場」

に着目して評価していることが特徴である。

評価は、原則 1km のキロポスト(KP)毎に行う。小セグメント程度の環境が似通っている区

間を河川環境区分とし、区分ごとに も環境が「良好な場」として代表区間(1km 区間)を設

定する。「河川環境の整備と保全」を実現する目標としては、この代表区間を保全するととも

に、その他の区間はこの代表区間を参考として、少しでも良くすることを目指す。つまり、「良

好な状態にある生物の生育、生息、繁殖環境を保全するとともに、そのような状態に無い河川

の環境についてはできる限り向上させる」1)という考え方を基本として、河川環境を管理する

こととなる。

上記の基本的な考え方のもと、河川環境を定量的に把握し、自然再生事業だけでなく、河川

改修や樹木伐採等の維持管理においても、少しでも河川環境の整備と保全が実現できるよう

河川管理を行うことが大切である。

■Answer の詳細

手法の詳細については、本手引き 2)を参照してほしいが、分量も多いので、本稿を読めばお

およその概要が分るように以下に記載する。また、本手法は現場で様々な工夫を加えて活用さ

れている 4)ので、その具体例についても紹介する。本手法については参考文献 5)、6)も参考に

してもらいたい。

(1)基本的な考え方

河川の環境目標を設定することは容易でない。河川整備計画などでは 20~30 年後の環境目

標となるため、定性的な書きぶりとなりがちで、河川の現場においては、具体に何をやるのか

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明らかでない場合がある。また、時間的にも空間的にも短いスケールであれば、「〇ha のヨシ

原の再生」など具体的な目標は設定できるが、河川環境全体を捉えた目標とはならない。そこ

で、本手引きでは、「良好な状態にある生物の生育、生息、繁殖環境を保全するとともに、そ

のような状態に無い河川の環境についてはできる限り向上させる」という考え方を基本とし

て、河川環境の管理を実施することとする。もちろん、コウノトリなどのシンボル的な生物が

おり、具体的な目標が設定できる河川においては、その目標を活用してもらって結構であるが、

具体的な目標が設定しにくい河川においては、この基本的な考え方に沿って、本手法を活用し

て河川管理を実施するものとする。

(2)評価の方法

河川環境の評価は、既存資料や現地踏査により河川全体の環境を踏まえた上で、「河川環境

管理シート」と呼ばれるシート群を用いて行う。「河川環境管理シート」は「①河川環境区分

シート」、「②代表区間選定シート」、「③河川環境経年変化シート」の3つからなる(図-1)。

図-1 河川環境管理シートを用いた河川環境評価と代表区間の設定の流れ

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1)河川環境区分

評価は、原則として縦断方向 1 ㎞毎に行い、セグメント・小セグメントなどの河道特性や生

息場の分布状況、汽水の影響、横断構造物の影響などを加味していくつかの河川環境に区分す

る。ひとつの河川環境区分は類似した環境と考えられ、大まかには小セグメント程度と認識し

てもらってよい。

河川環境区分の設定に用いる生息場の分布状況には、図-2 および表-1 に示す生息場や物理

環境指標など典型性の観点から 12 の指標を用いる。生息場としては典型的な生息場の他に例

えば塩性湿地のように特殊性の観点から保全すべきものもあり、それらについても整理する

(ただし有無のみ)(図-3)これらの指標を図-3 のように整理する。典型的な環境要素 12 に

ついては指標毎に平均値(中央値を使用)より大きければ〇、少なければ△、存在しなければ

空白としている。外来種のようにマイナス評価のものは、平均値より大きければ×とする。〇

を 1 点、×を-1 点とし、生息場の概略評価として用いる。この段階では河川単位で平均値を

求め〇×などの評価を行う。〇△×は環境を認識しやすくするための道具であり、実際は定量

的な生データもあるので、そちらも活用しながら実務では検討する。

図-2 河川環境の評価に用いる 12 の環境要素(図)

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表-1 河川環境の評価に用いる 12 の環境要素(概要説明)

図-3 生物の生息場の分布状況

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2)代表区間の選定

上記で区分した河川環境区分ごとに河川環境を評価・改善する上で目安となる良好な場(代

表区間)を設定する。代表区間を選定するときには、上記の生息場の評価を河川環境区分ごと

に平均値(中央値)を求めて、再度点数付けを行う(これは河川環境区分内で差が出やすいよ

うに行う)。さらに、その河川環境区分に生息する重要種が利用する生息場を河川環境管理シ

ートなどから特定し、その生息場についても別途点数付けを行い評価する(図-4)。これは、

重要種の生息場を改めて評価することにより、重要種に重みを付けた評価とするためである。

このように求められた生息場の点数の評価結果、生息場の経年変化、現地踏査の結果、専門家

の意見さらに観測するための視点場(橋梁等)の有無などを加味して、代表区間を設定する。

図-4 代表区間選定のための概略フロー

(3)評価を活用した環境改善

評価の結果、代表区間に選ばれた地点は保全が原則である。その河川環境区分を代表する環

境の良好な場は、巡視のときに確認して、当該河川の典型的な良好な場を体感しておくことが

大事である。河川改修においては、代表区間は極力改変しないことが原則で、治水上やむを得

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ない場合は、その環境保全や代替地の創出などに努めるべきである。

代表区間以外の区間については、河川環境管理シートを参考にしながら代表区間と比較し、

河川環境の改善に努めることとする。具体的には、代表区間に劣る環境要素などについて代表

空間の数値を参考にして、改善することを検討する。例えば、水際の自然度が代表区間に劣る

のであれば、河川改修の機会を利用して、低水護岸を水制に変えて、水際の自然度を上げる。

自然裸地が少ないのであれば、維持管理の樹木伐採に合わせて、礫河原を再生する、などの検

討を行う。これらは、自然再生事業だけでなく、河川環境管理シートを参考に常に河川環境の

状況を頭に入れておき、河川改修、維持管理などあらゆるタイミングを活用して、現状より一

歩でも改善することを心がけることが重要である。

一般的には、河川改修の機会を活用して、環境改善が可能であるのであれば、それを上手く

使う。河川改修の予定がなく、かつ環境改善が必要な箇所においては自然再生事業や維持管理

を通じた環境改善を検討する。ちょっとした連続性の回復などであれば、小さな自然再生など

流域住民や市民団代と協力した自然再生もメニューとして考えると良い。

(4)拡がる活用の場面

本手法は全国 28 水系 33 河川(2019 年秋時点)において活用されている。活用目的として

は、河川環境の概況把握、河道掘削時の配慮事項や掘削時の環境改善の設定根拠、自然再生の

目標設定や優先順位・事業範囲の絞り込み、個別事業(河原再生、樹木管理、外来植物除去)

の評価など多岐にわたる。

原則としての河川環境管理シートの評価手法や活用法は本稿で述べたとおりであるが、実

際には、それぞれの河川のおかれた状況によって、さまざまなアレンジが加えられている。さ

らに、この手法を参照に治水の検討や人の利用など生活環境としての水辺の検討に使用され

ている事例もある。1 ㎞毎の評価は河川管理の基本であるので、本手法の(自然)環境評価に合

わせて、治水事業や人の利用に関する指標などを組み合わせることにより、実践的な河川管理

の評価指標としても活用できる。

さまざまな工夫や活用の例を以下に列挙する。

・左岸と右岸を分けて集計する

・自然再生の効果を評価できるよう水生植物帯に含む種を再生対象に限定して評価する

・工事区間の環境変化を評価するため、左右岸分けて 200m 間隔で作成する

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・(評価項目の)レーダーチャートを用いて河川環境の変化を見やすくする

・生息適地モデルで予測したポテンシャルと生息場評価値の変化との関係を分析

・自然再生事業の優先整備箇所を選定する

・多自然川づくりの掘削時の配慮対象となる生息場を検討する

・整備計画のメニューや人の利用の情報も入れ、総合的に河川管理を概観できるようにする

本手法は比較的導入されてからの歴史が浅いので、今後上記のような活用事例などの情報

共有を図り、手法の改善や活用が必要である。

■より深く知りたい技術者のための参考図書等

中村圭吾、服部敦、福濱方哉、萱場祐一:河川の環境管理を推進するための課題と方向性、

河川技術論文集、第 21 巻、pp.31-36、2015.

中村太士、辻本哲郎、天野邦彦監修 河川環境目標検討委員会編集:「川の環境目標を考え

る-川の健康診断-」、技法堂出版、2008.

中村圭吾、服部敦、福濱方哉、萱場祐一、堂薗俊多、金縄健一、福永和久: 河川環境管理

の実効性を高める考え方と取組み、雑誌河川 10 月号、No.831、 pp.50-54、2015.

「河川における実践的な環境管理の手法」の適用例:加古川について、国土交通省近畿地

方整備局、http://www.kkr.mlit.go.jp/river/kankyou/tashizen_10.html.

■参考文献

1) 河川法改正20年 多自然川づくり推進委員会:提言『持続性ある実践的多自然川づくり

に向けて』

2017、https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tashizen/pdf/01honbun.pdf.

2) 公益財団法人リバーフロント研究所:実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)(案)、

2019、http://www.rfc.or.jp/result4.html.

3) 河川環境課・治水課、事務連絡:河川整備計画に関する資料の取りまとめと確認の補足

について、2019.8.8.

4) 中村圭吾,甲斐崇,早坂裕幸,竹内えり子,平田真二,黒石和宏,後藤勝洋,福島雅紀,舟橋

弥生:

「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)(案)」の活用状況と課題(速報)、応用生態

工学会第 23 回研究発表会講演集, p.47, 2019.

5) 早坂ら:河川における環境目標の設定と環境管理の取り組み、I-NET、Vol.47、pp.4-5、

2017、 http://ideacon.jp/technology/inet/vol47/vol47_wr01s.pdf.

6) 福島雅紀、鈴木淳史、諏訪義雄、川瀬功記、田中孝幸、堂薗俊多(2017)環境管理にお

ける対策実施優先区間の選定について、河川技術論文集、第 23 巻、pp.609-614、2017、

http://www.nilim.go.jp/lab/fbg/info/thesis/kankyoukanri.pdf.

2020 年(令和 2 年)3 月 新規追加