3 果樹農業の現状と課題③(長い ... - maff.go.jp

7
果樹農業の現状と課題 ③(長い労働時間) 一方、高品質な果実生産は、労働生産性を犠牲にして手間をかけること(手作業)により実現 されており、他品目 と比較して労働時間が長く 、労働集約的な構造 となっている。 さらに、労働ピークが収穫時期等の短期間に集中 しており、臨時的な雇用の確保が必要 な構造となっている。 0 150 300 450 稲作 ばれいしょ みかん もも かき りんご なし ぶどう 施肥 整枝・せん定 除草・防除 授粉・摘果 管理・袋掛け・除袋 収穫・調製 包装・荷造・搬出・出荷 管理・間接労働 ○ 主要果樹、水稲及びばれいしょの作業別部門労働時間(10a当たり) 整枝・せん定 授粉・摘果 収穫・調製 427 389 273 264 19(北海道) 254 32 果樹: (時間/10アール) 206 資料:農林水産省「平成24年営農類型別経営統計」 10 15 20 6 45 64 10 5 15 29 60 15 0 20 40 60 80 100 1234567891011125 16 15 2 1 7 24 14 4 2 90 0 0 20 40 60 80 100 123456789101112うんしゅうみかん (早生種)の月別作業時間(10aあたり) 年間計 180時間 収穫・調 製・出荷 りんご (ふじわい化)の月別作業時間(10aあたり) 年間計 294時間 収穫・調 製・出荷 摘果・袋かけ 0 2 21 0 34 162 1 81 1 1 20 28 0 40 80 120 160 123456789101112ぶどう (シャインマスカット)の月別作業時間(10aあたり) 年間計 351時間 16 17 17 38 44 36 8 38 54 7 11 16 0 20 40 60 80 100 123456789101112なし (幸水・豊水)の月別作業時間(10aあたり) 年間計 302時間 ジベ処理・摘粒 収穫・調製 ・出荷 授粉・摘果 収穫・調製 ・出荷 授粉 ○月別作業時間

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Page 1: 3 果樹農業の現状と課題③(長い ... - maff.go.jp

3 果樹農業の現状と課題 ③(長い労働時間)

○ 一方、高品質な果実生産は、労働生産性を犠牲にして手間をかけること(手作業)により実現されており、他品目

と比較して労働時間が長く、労働集約的な構造となっている。

○ さらに、労働ピークが収穫時期等の短期間に集中しており、臨時的な雇用の確保が必要な構造となっている。

0 150 300 450

稲作

ばれいしょ

みかん

もも

かき

りんご

なし

ぶどう施肥

整枝・せん定

除草・防除

授粉・摘果

管理・袋掛け・除袋

収穫・調製

包装・荷造・搬出・出荷

管理・間接労働

果樹

○ 主要果樹、水稲及びばれいしょの作業別部門労働時間(10a当たり)

整枝・せん定 授粉・摘果 収穫・調製427

389

273

264

19(北海道)

254

32

果樹:

(時間/10アール)

206

資料:農林水産省「平成24年営農類型別経営統計」

摘果・袋かけ

10 15 20 6

45 6410 5 15 29

60

15

0

20

40

60

80

100

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

5 16 15 2 1 724 14 4 2

90

00

20406080

100

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

うんしゅうみかん(早生種)の月別作業時間(10aあたり)

年間計 180時間収穫・調製・出荷

りんご(ふじわい化)の月別作業時間(10aあたり)年間計 294時間

収穫・調製・出荷

摘果・袋かけ

0 2 21 034

162

1

81

1 1 20 28

0

40

80

120

160

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

ぶどう(シャインマスカット)の月別作業時間(10aあたり)

年間計 351時間

16 17 1738 44 36

838 54

7 11 16

020406080

100

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

なし(幸水・豊水)の月別作業時間(10aあたり)年間計 302時間

ジベ処理・摘粒 収穫・調製・出荷

授粉・摘果

収穫・調製・出荷

授粉

○月別作業時間

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3 果樹農業の現状と課題 ④(経営規模構造の推移)

○ このため、他品目と比較して農地集積・規模拡大が進んでいない状況であり、全体の経営体数が大きく減少する中、

2ha以上の大規模層の増加はほとんどみられない。

○ 担い手が小規模層で営農を継続しない園地の受け皿となり、全体の栽培面積の減少に歯止めをかけるためには、同

じ労働力、時間でより大きな面積を管理する必要があり、労働生産性の向上が急務といえる。

10

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

0.3ha未満 0.3~0.5ha 0.5~1.0ha 1.0~2.0ha 2.0ha以上

1990 1995 2000 2005 2010 2015

資料:農林水産省「農林業センサス」

0

50

100

150

200

250

300

0.3ha未満 0.3~0.5ha 0.5~1.0ha 1.0~2.0ha 2.0ha以上

1990 1995 2000 2005 2010 201530

10

15

20

5

25

(万戸、万経営体) (ha)

H17 H22 H27H12H7H2H17 H22 H27H12H7H2

注:H2、H7及びH12は果樹栽培農家数、H17、H22及びH27は果樹栽培経営体数 注:H2~H12は果樹園面積、H17~H27は販売目的の果樹栽培面積

○販売目的で栽培した果樹の栽培経営体数・農家数と栽培面積の推移

(参考)販売目的で栽培した水稲の栽培経営体数・農家数と栽培面積の推移

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

0.5ha未満 0.5~1.0 1.0~2.0 2.0~3.0 3.0~5.0 5.0ha以上

H17 H22 H27(経営体・戸)

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

0.5ha未満 0.5~1.0 1.0~2.0 2.0~3.0 3.0~5.0 5.0ha以上

H17 H22 H27(ha)

注:H17は水稲栽培農家数、H22及びH27は水稲栽培経営体数 資料:農林水産省「農林業センサス」

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3 果樹農業の現状と課題 ⑤(生産量、栽培面積、年齢別従事者数)

○ 生産量及び栽培面積は、長期的に減少傾向で推移しており、ピーク時の昭和50年代と比較して、現在は約半減した。

○ 果樹農業者の減少と高齢化が深刻化しており、果樹の販売農家数は平成17~27年の10年間で約2割減少し、60歳以

上の占める割合も16ポイント上昇し、約8割となっている。

11

337(0.1%)

289(0.1%)

363(0.1%)

5,422(2.0%)

2,971(1.2%)

2,667(1.3%)

30,778(11.1%)

70,749(25.6%)

53,287(22.0%)

35,023(16.6%)

77,051(27.9%)

73,908(30.5%)

73,485(34.9%)

92,211(33.3%)

94,858(39.1%)

89,053(42.3%)

0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000

17年

22年

27年

(戸)

29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上

69.6%

210,714

242,344

77.1%10,123(4.8%)

17,031(7.0%)

276,548

61.2%

○経営者年齢別果樹の販売農家の割合

○果樹の栽培面積の推移

※その他:ぶどう、かき等、主要な果樹 資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

○果樹の生産量の推移

資料:農林水産省「食料需給表」

14.0 11.3 8.1 7.1 6.2 5.5 4.9 4.8 4.7 4.6 4.5 4.5 4.4 4.3 4.2

5.1 5.4

5.4 5.1 4.7 4.3 4.1 4.0 4.0 3.9 3.9 3.9 3.8 3.8 3.8

21.4 21.5

20.7 18.9

17.3 16.1 15.1 14.9 14.7 14.5 14.3 14.0 13.8 13.5 13.3

40 38

34 31

28 26 24 24 23 23 23 22 22 22 21

0

10

20

30

40

50

55 60 H2 7 12 17 22 23 24 25 26 27 28 29 30

栽培面積(万

ha)

系列5りんご

うんしゅうみかん

その他果樹

289 249165 138 114 113 79 93 85 90 88 78 81 74 77

9691

10596

80 8279 66 79 74 82 81 77 74 76

234235

219190

190 175139 137 142 140 142 138 135 132 130

620575

490

424385 370

296 295 306 304 311 297 292 279 283

0

200

400

600

800

S55 60 H2 7 12 17 22 23 24 25 26 27 28 29 30

生産量(万t)

その他果樹

りんご

うんしゅうみかん

資料:農林水産省「農林業センサス」

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3 果樹農業の現状と課題 ⑥(まとめ)

12

〈現状と課題〉・高品質な国産果実の国内ニーズは高く、輸出品目としてのポテンシャルも高い

・一方で、農家数の減少や高齢化等の生産基盤の弱体化により、生産量は減少しており、国内外の需要に対応できていない(供給不足)

〈検討の方向性〉・国内外の需要に対応していくためには、供給過剰を前提とした需給安定対策から、供給不足を踏まえた生産力増強への転換が必要ではないか

・生産基盤が弱体化する中で、産地の生産力を増強し、需要に応じた生産量を確保していくためには、労働生産性の抜本的な向上が必要ではないか

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○ 労働生産性の向上のため、主要品目で省力樹形の開発が進んでいる。○ 省力樹形の導入により労働時間の削減や早期成園化が可能である。

(参考1) 労働生産性の向上に向けて ①(省力樹形の導入による省力化)

13

省力樹形

〇小さな木を密植して直線的な植栽様式とするため、作業動線が単純で効率的

〇数年で成木化するため、未収益期間が短い

〇均一な日当たりとなり、品質が揃いやすい

〇密植することで、高収量化が可能

なしのジョイント仕立て(省力樹形)

慣行樹形

〇大木が圃場内に散在する形になり、作業動線が複雑となるため効率的な作業が困難

〇成園まで10年近くかかり未収益期間が長い

〇樹冠内部等への日当たりが悪く、品質が揃いにくい

なしの3本主枝仕立て(慣行樹形)

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(参考1) 労働生産性の向上に向けて ②(果樹で開発された省力樹形の例)

ジョイント仕立て 根圏制御(根域制限)栽培 高密植わい化栽培

特徴

〇複数樹種に対応した省力樹形

〇接ぎ木により樹を直線的に連結

〇収穫等の機械化に適したV字ジョイント樹形を開発中

メリット

〇均一な樹勢となり、安定した果実品質を得ることが可能

〇結果枝をV字に配置することで反収の向上が可能

特徴

〇複数樹種に対応した省力樹形

〇遮根シート上の盛土で栽培

〇自動かん水装置を用いたドリップかん水により、生育ステージに合わせた精密な養水分コントロールが可能

メリット

〇遮根シート上で栽培するため、土壌病害の発生リスクが高い園地でも導入可能

〇慣行の2倍程度の超多収が可能普及樹種・日本なし・かき・りんご・うめ

実証中樹種・ぶどう・もも・すもも

普及樹種・かんきつ・日本なし・ぶどう

実証中樹種・醸造ぶどう

等日本なしのV字ジョイント栽培

特徴

〇りんごの省力樹形

〇樹高3m程度の円錐状の樹形

〇収穫等の作業に高所作業車を利用

メリット

〇慣行比1.4倍以上の超多収(4.5t/10a)

りんごでは、積雪の多少等の地域特性に合わせ、朝日ロンバス方式等の複数樹形を実証中

双幹形仕立て

特徴

〇かんきつの省力樹形〇2本主枝(双幹)のY字樹形

メリット

〇受光態勢が良く、高品質果実の安定生産が可能

〇定植5年目で、慣行比1.4倍の早期多収(3.3t/10a)

熟練者、初心者いずれも、剪定作業において40%程度の作業時間短縮が可能

根圏制御栽培と慣行樹形の収量の推移(日本なし「幸水」)

植え付け5年目から、慣行の約2倍の収量確保が可能

かんきつの双幹形仕立て 双幹形の模式図

りんごの高密植わい化栽培

ぶどうの根域制限栽培

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(参考1) 労働生産性の向上に向けて ③(基盤整備による労力削減)

○ 急傾斜地が多く、機械化や省力化が困難な地域においては、基盤整備を行うことで労働生産性の向上が可能となる。

更に、担い手への園地集積にも繋がり、一層の効率的経営が可能となる。

○ 省力樹形導入と基盤整備を連携して行うことによって、労働生産性の向上を効率的に行うことが可能となる。

【実施前

【実施後

従来の防除作業 狭く未舗装の農道

園地横付けして積み込み可能

○畑地かんがい施設と農道の整備(静岡県三ヶ日地区)

地区内認定農業者数

69

132

0

20

40

60

80

100

120

140

160

H12 H22

(人)

労働時間の比較

187200

7 17

0

50

100

150

200

250

かん水 防除

(hr/ha/年)実施前

実施後

スプリンクラーによる散水・防除、マルドリシステムの導入

事業の効果

○ かん水、防除等の共同作業体制が確立され、大幅に営農労力を節減。

○ 農地の集積や担い手農家の育成が図られ、認定農業者数が事業実施後69人(平成12年)から132人(平成22年)に増加。

農道整備畑地かんがい整備

15