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2011年度数学 I演習第 10回理 II・III 17, 18, 19組
12月 1日 清野和彦
問題 1. [0, 1] × [0, 1] 上の 2変数関数 f を
f(x, y) =
y x ∈ Q
1 − y x ̸∈ Q
とする。
(1) f(x, y) は重積分できないことを定義に従って証明せよ。
(2) y で先に積分する累次積分∫ 1
0
(∫ 10
f(x, y)dy)
dx は可能か? 可能なら値を求
め、不可能ならそのことを証明せよ。
(3) x で先に積分する累次積分∫ 10
(∫ 10
f(x, y)dx)
dy は可能か? 可能なら値を求
め、不可能ならそのことを証明せよ。
問題 2. 次の重積分を累次積分によって計算せよ。
(1)
∫∫D
(x + y2)2dxdy D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 1}
(2)
∫∫D
x2y3dxdy D = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ x, 0 ≤ x ≤ 1}
(3)
∫∫D
x sin π(x + y)dxdy D =
{(x, y)
∣∣∣∣ 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 12}
(4)
∫∫D
(3 − x − y)dxdy D = {(x, y) | y ≤ 2x, x ≤ 2y, x + y ≤ 3}
(5)
∫∫D
(x + y)dxdy D ={(x, y)
∣∣ 0 ≤ x ≤ y ≤ √x ≤ 1}
(6)
∫∫D
xydxdy D ={(x, y)
∣∣ (x − 2)2 + y2 ≤ 1, y ≥ 0}
(7)
∫∫D
xy2dxdy D ={(x, y)
∣∣ x2 + y2 ≤ a2, x ≥ 0} (a > 0)
-
(8)
∫∫D
(1 − x − y)dxdy D = {(x, y) | x + y ≤ 1, x ≥ 0, y ≥ 0}
(9)
∫∫D
xdxdy D = {(x, y) | y2 ≤ x, x − 2 ≤ y}
(10)
∫∫D
(x2− y)
dxdy D =
{(x, y)
∣∣∣∣ x2 ≤ y ≤ x2 , 0 ≤ x ≤ 12}
(11)
∫∫D
x3ydxdy D ={(x, y)
∣∣ x2 + y2 ≤ 1, 0 ≤ x ≤ y}
(12)
∫∫D
(x − 3y)2dxdy D = {(x, y) | |x + 2| ≤ 2, |x − 3y| ≤ 2}
問題 3. 次の累次積分で積分する変数の順序を入れ替えよ。ただし、a, m, n は正定数で n > m とする。
(1)
∫ 10
(∫ 2xx
f(x, y)dy
)dx (2)
∫ 10
(∫ 1−y−√
1−y2f(x, y)dx
)dy
(3)
∫ a0
(∫ √a2−x2a2−x2
2a
f(x, y)dy
)dx (4)
∫ a0
(∫ y0
f(x, y)dx
)dy
(5)
∫ 2a0
(∫ 2ax−x20
f(x, y)dy
)dx (6)
∫ a0
(∫ nxmx
f(x, y)dy
)dx
(7)
∫ π2
π4
(∫ 2sin θ
f(r, θ)dr
)dθ
問題 4. 次の累次積分の値を計算せよ。
(1)
∫ a0
(∫ ay
e−x2
dx
)dy (a > 0) (2)
∫ 10
(∫ 21
xydy
)dx
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2011年度数学 I演習第 10回解答理 II・III 17, 18, 19組
12月 1日 清野和彦
計算問題の答
問題 2 (1)1315
(2)128
(3)1π2
− 2π3
(4)32
(5)320
(6)43
(7)215a5 (8)
16
(9)365
(10)1
1920(11)
196
(12)649
問題 3 (1)∫ 1
0
(∫ yy2
f(x, y)dx
)dy +
∫ 21
(∫ 1y2
f(x, y)dx
)dy
(2)∫ 0−1
(∫ √1−x20
f(x, y)dy
)dx+
∫ 10
(∫ 1−x0
f(x, y)dy)dx
(3)∫ a
2
0
(∫ √a2−y2√a2−2ay
f(x, y)dx
)dy+
∫ aa2
(∫ √a2−y20
f(x, y)dx
)dy (4)
∫ a0
(∫ ax
f(x, y)dy)dx
(5)∫ a2
0
(∫ a+√a2−ya−
√a2−y
f(x, y)dx
)dy (6)
∫ ma0
(∫ ym
yn
f(x, y)dx
)dy +
∫ nama
(∫ ayn
f(x, y)dx
)dy
(7)∫ 1
1√2
(∫ sin−1 rπ4
f(r, θ)dθ
)dr +
∫ 21
(∫ π2
π4
f(r, θ)dθ
)dr
問題 4 (1)1 − e−a2
2(2) log 3 − log 2 = log 3
2
前書き
重積分の定義とそれにかかわる一般的な事柄の証明は 1変数関数の場合とほとんど変わりません。そのことを強調するために、それに関する部分はできるだけ「第 8回解説」の文章と同じになるように書きました。(つまり「第 8回解説」のファイルを流用したということです (^^;)時間的に余裕のある人は「第 8回解説」も参照しながら読んでいただくと良いと思います。
目 次
1 多変数関数の積分はどうあるべきか 2
1.1 累次積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.2 累次積分の問題点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.3 累次積分と重積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
2 重積分 6
2.1 重積分の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.2 問題 1(1)の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82.3 有界な関数に限って積分の定義を言い換える . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
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第 10 回解答 2
3 累次積分との関係 11
3.1 問題 1(2)(3)の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
4 連続関数の可積分性 14
4.1 分割を細分する . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 144.2 連続関数の一様連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 164.3 連続関数の可積分性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
5 可積分条件と積分の性質 19
5.1 ダルブーの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 195.2 可積分条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 205.3 重積分の一般的な性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
6 一般の積分領域での重積分 21
6.1 定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 216.2 積分範囲が「面積を持つ」ということ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 216.3 縦線集合上の関数の重積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 236.4 問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 236.5 問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 286.6 問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
1 多変数関数の積分はどうあるべきか
この節は概略ですので、新出の用語を説明抜きで使います。それらについては後の節で説明しま
すので、この節は何をやろうとしているのかを大雑把に把握することを目標に、細かいことは気に
せずに読んで下さい。
1.1 累次積分
回転体の体積を求めるとき、ごく自然に「x =一定という平面で立体を切った断面の面積を x について積分する」という方法を採るでしょう。高校の教科書にも、� �定積分と体積. 次の図のような立体の体積 V は V =
∫ baS(x)dx である。
S(x)
a x b
� �と書いてあります。図は回転体ですが、教科書の記述はもっと一般の図形で書いてありますし、そ
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第 10 回解答 3
ういう練習問題も載っています。
この考え方は、y = f(x) のグラフと x 軸とで挟まれた部分の面積を「x =一定という直線で切ったときの切り口の長さを x について積分する」という方法で定義したことの拡張として、自然に
受け入れられるでしょう。一般に、f が [a1, b1] × · · · × [an, bn] で定義された n 変数関数のとき、∫ b1a1
(∫ b2a2
(· · ·
(∫ bnan
f(x1, x2, · · · , xn)dxn
)· · ·
)dx2
)dx1
のことを f の積分と定義しても何の問題もないように思えます。
この方法による多変数関数の積分を累次積分1と言います。
1.2 累次積分の問題点
累次積分とは、「ある変数以外は定数だと思って 1変数関数の積分をする」ことを繰り返すことです。これは、「ある変数以外は定数だと思って 1変数関数の微分をする」という偏微分を思い起こさせるでしょう。実際、連続関数 f が
f(x, y) =∂
∂y
(∂F
∂x
)となっていたとすると、微分積分の基本定理により、∫ d
c
f(x, y)dy =∂F
∂x(x, d) − ∂F
∂x(x, c)
となり、もう一度微分積分の基本定理を使うと、∫ ba
(∫ dc
f(x, y)dy
)dx = (F (b, d) − F (b, c)) − (F (a, d) − F (a, c))
となって F の値たちで書けますので、累次積分はまさに「逆偏微分」と言えます。
そうすると、偏微分で問題になった事柄は累次積分でもやはり問題になるでしょう。それは積分
する変数の順番をかえられるかどうかです。y で積分してから x で積分することはできる関数に
ついて考えられるケースを列挙すると、
(1) x で積分してから y で積分することもできて値も一致する。
(2) x で積分してから y で積分することもできるが値が一致しない。
(3) x で積分してできた y の関数が積分できない。
(4) x での積分がそもそもできない。
となります。すべての関数が (1)を満たすなら幸せなのですが、問題 1の関数が (4)の例を与えてしまっています。実は (2)や (3)の例もあるらしいのですが、私には見つけられませんでした。こうなると、多変数関数の積分として累次積分しか考えないというのは少々危険な気がしてきま
す。すくなくとも理屈をスッキリさせるのは困難だろうと予想できるでしょう。微分のときは、「2階偏導関数が連続」という概念も重要でしたが、その前に、偏微分より多変数関数に相応しい微分
可能性の概念がありました。それは1iterated integral または repeated integral の訳です。逐次積分、反復積分、繰り返し積分などと訳すこともあります。
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第 10 回解答 4
どの変数も特別扱いせず平等に扱った場合の微分可能性
というような概念でした。積分の場合にも「そもそも変数に順番をつけないで定義をしそれが累次
積分に一致する」という話の筋道なら、よりスッキリと理解できるはずです。
なお、累次積分のもう一つの問題点として、
変数を混ぜ合わせるような変数変換が行えない
ということもあります。それについては次回扱う予定です。
1.3 累次積分と重積分
回転体の体積を求めるときのように、累次積分は「体積」を求める方法として極自然に思い付く
ものと言えるでしょう。しかし、面積という概念でもそうであったように、「体積とは何か」とい
う問題もこれまでは不問に付してきました。微分積分を成り立たせている根本である実数の性質を
知ってしまい、問題 1のような関数を扱うことができるようになってしまった以上、「体積」に対して今までのような態度をとり続けるわけにはいきません。
幸いにも 1変数関数の積分の定義を面積の一般化として行ってあるので、それをまねすれば変数の順番を使わない多変数関数の積分の定義を作ることができます。詳細についてはあとの節に回
し、ここでは証明などをすべて省いて結果のみ紹介しますので、大体の筋道を掴んでもらえたらと
思います。
面倒なので 2変数関数で書きます。話の都合上、重積分の定義をここにも書いておきますが、より詳しくは 6ページで書き直しますので、ここでは「こんなふうな定義なのか」という感じだけつかんでもらえれば十分です。� �定義 1. [a, b] の分割 a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = bと [c, d] の分割 c = y0 < y1 <· · · < ym−1 < ym = dから得られる [a, b]× [c, d] の部分集合 [xk−1, xk]× [yl−1, yl]たち全体を[a, b]× [c, d] の分割といい、∆ 一文字で表す。また、各 [xk−1, xk]× [yl−1, yl] の対角線の長さの最大値を分割の幅といい |∆| と書く。xk−1 ≤ ξkl ≤ xk と yl−1 ≤ ηkl ≤ yl をみたす任意のξkl, ηkl の組 (ξkl, ηkl) のことを [xk−1, xk] × [yl−1, yl] の代表点という。[a, b] × [c, d] で定義された 2変数関数 f(x, y) に対し、
lim|∆|→0
∑1≤k≤n1≤l≤m
f(ξkl, ηkl)(xk − xk−1)(yl − yl−1)
が存在するとき f は(重)積分可能であるといい、この極限値のことを∫∫[a,b]×[c,d]
f(x, y)dxdy
と書く。� �これは、「体積のハッキリしている立体は直方体しかない」ということを出発点にして、1変数関数のときの積分の定義をまねして作った定義です。
1変数関数のときと同様に、有界でない関数は重積分不可能になり、過剰和と不足和による定義に言い換えができ、連続関数は常に重積分可能になり、ダルブーの定理による可積分性判定条件が
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第 10 回解答 5
得られます2。違いは、微積分の基本定理がない3ことと、累次積分という別の概念との関係がでて
くるということです。
というわけで、累次積分と重積分との関係を書いておきましょう。実は、期待どおりにスッキリ
というわけにはいかないのです。重積分可能な関数に対しても、次の場合が起こり得ます。
(i) x で積分してから y で積分することも y で積分してから x で積分することもでき、どちらも重積分の値と一致する。
(ii) x で積分してから y で積分することができ値も重積分と一致するが、最初に y で積分することはできない。(またはその逆。)
(iii) 最初に x で積分することも y で積分することもできない。
重要なことは、
• 累次積分できるが、積分の値が重積分と一致しない。
• y で積分することはできるが、∫ dcf(x, y)dy を xで積分することができない。(またはその逆。)
というケースが絶対に起こらないことです。重積分可能な関数については 3ページの (2)や (3)は起こり得ないのです。このことだけでも重積分の方が累次積分より基本的な概念であることが感じ
られると思います。
もちろん、(ii)や (iii)のケースがなければ、もっと「重積分は偉い」という感じが増すのでしょうが、(ii)や (iii)の具体例は簡単に作れてしまいます。作ってみましょう。上にも述べたように、多変数関数においても連続関数は重積分可能になります。1変数関数の場合と同様に、重積分においても連続性というのは可積分性よりずっと強い性質で、結構不連続なところのある関数も積分
可能になってしまいます。大体、1変数関数においては「不連続なところの長さが 0」、2変数関数においては「不連続なところの面積が 0」なら積分可能である、と標語的には表現できます。すると、たとえば、[0, 1]× [0, 1] で定義された関数 f(x, y) が x = 12 という線分の上でのみ不連続だとすると、2変数関数としての不連続点は「面積が 0」なので重積分可能ですが、f( 12 , y) という 1変数関数の不連続点は「長さが 0」でない可能性があるので、
∫ 10f( 12 , y)dy があるとは限らないわけ
です。実際、
f(x, y) =
{0 x = 12 かつ y ∈ Q1 その他
という関数は、まさにそのような例であって、∫∫[0,1]×[0,1]
f(x, y)dxdy =∫ 1
0
(∫ 10
f(x, y)dx)dy = 1
ですが、∫ 10f( 12 , y)dy が存在しないので、y を先にした累次積分はできません。これを使えば (iii)
の例も簡単で、
g(x, y) =
{0 x = 12 かつ y ∈ Q、または x ∈ Q かつ y =
12
1 その他
とすればよいだけです。
なお、問題 1の関数は重積分不可能ですので (ii)の例ではありません。それでは、次の節から以上の話を細かく見て行きましょう。2先ほども書いたように、詳しくは後で論じます。3そもそも不定積分に当たるものがありません。
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第 10 回解答 6
2 重積分
2.1 重積分の定義
重積分の定義は 4ページに書きましたが、議論をするには登場人物たちに記号を付けておいた方が便利なので、ここでもう一度定義を書き直しておきましょう。なお、できるだけ講義と同じ記号
を使うように努めましたが、若干違っているところがあるかもしれません。あしからずご了承くだ
さい。� �定義 2. xy 平面において、x 軸上の有界閉区間 I = [a, b] とその分割
∆x : a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
および y 軸上の有界閉区間 J = [c, d] とその分割
∆y : c = y0 < y1 < · · · < ym−1 < ym = d
に対し、xy 平面における長方形4Kij (1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m) を
Kij = [xi−1, xi] × [yj−1, yj ]
と定義し、すべての Kij の集合
∆ = {Kij | 1 ≤ i ≤ n, 1 ≤ j ≤ m}
を長方形 K = I × J の分割という。小長方形 Kij の対角線の長さの最大値、つまり
|∆| =√
(|∆x|)2 + (|∆y|)2
のことを ∆ の幅という。また、分割 ∆ に対し、xi−1 ≤ ξij ≤ xi, yj−1 ≤ ηij ≤ yj を満たす Pij = (ξij , ηij) のことを小長方形 Kij の代表点という。� �
定義をじっくり読むより図 1を見た方が早いでしょう。分割 ∆ とその代表点の集合 {Pij} を決めるごとに「近似値」が決まります。その「近似値」のことをリーマン和と言います。きちんとした定義は次です。� �定義 3. 長方形 K = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f と、K の分割 ∆ およびその代表点の集合 {Pij} に対し
R [f,∆, {Pij}] =∑
1≤i≤n1≤j≤m
f(ξij , ηij) (xi − xi−1) (yj − yj−1)
を (∆, {Pij}) に対する関数 f のリーマン和という。� �そして、分割の幅 |∆| をどんどん小さくしていったときに、すべての「近似値」が一つの値に収束するなら、それが欲しかった積分です。
4講義と同様「長方形」という言葉を辺が軸に平行なものに限定して使うことにします。
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第 10 回解答 7
� �
x0 x1 x2 x3 x4
c = y0
y1
y2
d = y3
∥ ∥a b
(ξ32, η32)
図 1: K = [a, b] × [c, d] の分割。� �� �定義 4. K = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f に対し、
lim|∆|→0
R [f,∆, {Pij}] = S
を満たす実数 S が存在するとき、f は K で可積分あるいは(重)積分可能であるといい、S を
f の K での(重)積分という。
S =∫∫K
f(x, y)dxdy
と書く。� �ここで、「|∆| → 0」は
どんなに小さな正実数 ε を与えられても十分小さな正実数 δ を取れば |∆| < δ を満たす任意の分割 ∆ とその任意の代表点の集合 {Pij} に対して
|R [f,∆, {Pij}] − S| < ε
が成り立つ。
という意味です。あらゆる分割とあらゆる代表点の取り方で同じ値に収束しなければならないとい
う、大変厳しい条件です。
注意. リーマン和や重積分のイメージとして、次のような具体例を考えるとしっくり来るかも知れ
ません。
f(x, y) を、(x, y) で指定される場所で一年間に降った雨の量とします。すると、重積分とは、積分範囲内に一年間に降った雨の総量のこととなります。そして、リーマン和とは、積分範囲を適当
にいくつかの小さな部分に分けて、その一つ一つの小さな部分に一ヶ所ずつ測定地点を指定して、
その地点で観測された降水量でその小部分の降水量を代表させることによって得られる総雨量の近
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第 10 回解答 8
似値のことです。つまり、天気予報に出てくるアメダスの雨量の棒グラフのすべての棒の体積を足
したもので総雨量の近似値とする、という考え方がまさにリーマン和の考え方と同じなのです。そ
して、すべての小部分が 1点になる極限、つまりアメダスの観測地点をどんどん増やしていった極限をとると、近似値ではない本当の正確な降雨量がわかる、これが重積分だというわけです。★
1変数関数の積分のときにも散々言ったように、「積分可能でないこと」を示すとか、「積分可能であることを仮定して値を求める区分求積法」とかについては、勝手な一つの分割列についてのみ
議論すれば良いだけなので、問題 1の (1)のようにかなり簡単になります。
2.2 問題 1(1)の解答
[0, 1] × [0, 1] の分割 ∆n を
xi = yi =i
2n(0 ≤ i ≤ 2n)
で定めます。各 [xi−1, xi] × [yj−1, yj ] から代表点 (ξij , ηij) を
ξij =
{有理数 j ≤ n無理数 j > n
ηij =
{yj−1 j ≤ nyj j > n
というように選ぶと、それに関するリーマン和の極限は
R [f,∆, {Pij}] =∑
1≤i,j≤2n
f(ξij , ηij)(xi − xi−1)(yj − yj−1)
=2n∑i=1
n∑j=1
yj−112n
12n
+2n∑
j=n+1
(1 − yj)12n
12n
=
14n2
2n∑i=1
n∑j=1
j − 12n
+2n∑
j=n+1
2n− j2n
=
14n2
2n∑i=1
n∑j=1
j − 1n
=1
4n22nn(n− 1)
21n
=n− 14n
n→∞−−−−→ 14
となります。(つまり、
f1(x, y) =
{y y ≤ 12
1 − y y > 12という関数のグラフと xy 平面内の [0, 1] × [0, 1] とで挟まれた部分の体積と一致するわけです。)一方、ξij の取り方の有理数と無理数を逆にすると、極限は 34 になって一致しません。(つまり、
f2(x, y) =
{1 − y y ≤ 12y y > 12
という関数のグラフと xy 平面内の [0, 1]× [0, 1]とで挟まれた部分の体積と一致してしまうのです。)このように、|∆| → 0 としたとき一つの値に収束しないので f は重積分不可能です。 □
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第 10 回解答 9
2.3 有界な関数に限って積分の定義を言い換える
重積分の定義の不便さはあらゆる分割とあらゆる代表点を相手にしなければならないところにあ
ります。そこで 1変数関数のときのように過剰和と不足和を考えることで代表点の煩わしさから解放されましょう。ただし、そのためには有界でない関数が重積分可能でないことを示しておかなけ
ればなりません。� �定理 1. K = [a, b] × [c, d] で定義された関数 f が有界でないなら、つまり、どんなに大きな正実数 M に対しても |f(x, y)| > M を満たす (x, y) が K に存在するなら、f は積分可能でない。� �
証明. 1変数関数の場合と全く同様に、どんな分割を与えられてもうまく代表点を取ることでリーマン和の大きさをいくらでも大きくできることを示しましょう。
f が上に有界でないと仮定します。(下には有界でも非有界でも構いません。)分割 ∆ と正実数M が任意に与えられたとします。まず、Kij 全体で f が負の値しかとらないところの代表点を任
意に決めます。そしてその部分だけのリーマン和の値を −R とします。(R > 0 です。)次に、
|x1 − x0|, . . . , |xn − xn−1|, |y1 − y0|, . . . , |ym − ym−1|
のうち最小値を δ として、
f(x, y) >M +Rδ2
となる (x, y) の存在する Kij を一つ選び(f は上に有界でないので、このような Kij が必ずあります。)、この式を満たす代表点 (x∗, y∗) をとります。残った小長方形には必ず 0以上の値をとる点があるので、その点を代表点に選びます。すると、
R [f,∆, {Pij}] > −R+ f(x∗, y∗)δ2 > −R+M +Rδ2
δ2 = M
となり、リーマン和が上に有界でないことが示せました。 □
さて、積分可能性を考える限り有界な関数しか扱わなくてよいことが分かりました。そこで、有
界な関数に限って積分の定義を言い換えることで、もう少しリーマン和が積分値に収束する状況を
見やすくしましょう。代表点を取らずにすむ定義に書き換えようというわけです。� �定義 5. K で定義された有界な関数 f と K の分割 ∆ に対し、
S∆[f ] =∑
1≤i≤n1≤j≤m
sup(x,y)∈Kij
f(x, y)(xi − xi−1)(yj − yj−1)
s∆[f ] =∑
1≤i≤n1≤j≤m
inf(x,y)∈Kij
f(x, y)(xi − xi−1)(yj − yj−1)
をそれぞれ f の ∆ に対する過剰和および不足和と呼ぶ。� �f は各小長方形で最大値や最小値があるとは限らないので、その上限と下限は小長方形の代表点
における値となるとは限りません。しかし、定義から直ちに
s∆[f ] ≤ R [f,∆, ξ] ≤ S∆[f ] (1)
-
第 10 回解答 10
が分かりますので、はさみうちの原理によって� �定理 2. K 上の有界関数 f に対して
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
が成り立つなら、f は積分可能であって、共通の極限値が∫∫Kf(x, y)dxdy である。� �
となります。
一方、f が連続なら過剰和と不足和は本当にリーマン和なのでこの定理の逆が成立することは自
明ですが、1変数の場合と同様、実は f が連続でなくても逆が成り立ちます。� �定理 3. K 上の有界関数 f が積分可能ならば、
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ] =∫∫K
f(x, y)dxdy
が成り立つ。� �証明. どちらでも同じなので、
lim|∆|→0
S∆[f ] =∫∫K
f(x, y)dxdy
を示しましょう。つまり、どんなに小さな正実数 ε が与えられても十分小さな正実数 δ を選んで、
|∆| < δ を満たす任意の分割に対して∣∣∣∣S∆[f ] − ∫∫K
f(x, y)dxdy∣∣∣∣ < ε
が成り立つようにできることを示します。
分割 ∆ を任意に取りましょう。上限の定義から
sup(x,y)∈Kij
f(x, y) − f(ξij , ηij) <ε
2(b− a)(d− c)
を満たす (ξij , ηij) が Kij に存在します。各小長方形の代表点として、この点を選びましょう。すると、
0 ≤ S∆[f ] −R [f,∆, {Pij}] <∑
1≤i≤n1≤j≤m
ε
2(b− a)(d− c)(xi − xi−1)(yj − yj−1) =
ε
2
となります。
一方、f(x, y) は積分可能なのですから、ある十分小さな正実数 δ で、|∆| < δ を満たす任意の分割とその任意の代表点の取り方 {Pij} に対して∣∣∣∣R [f,∆, {Pij}] − ∫∫
K
f(x, y)dxdy∣∣∣∣ < ε2
の成り立つものが存在します。
この二つの不等式をあわせると、|∆| < δ を満たす任意の分割に対して∣∣∣∣S∆[f ] − ∫∫K
f(x, y)dxdy∣∣∣∣ ≤ |S∆[f ] −R [f,∆, {Pij}] | + ∣∣∣∣R [f,∆, {Pij}] − ∫∫
K
f(x, y)dxdy∣∣∣∣ < ε
となります。これで示せました。 □
-
第 10 回解答 11
定理 2と定理 3により、有界な関数に限れば積分を過剰和と不足和だけで定義できることが分かりました。後で参照しやすいように、定理 2と定理 3をあわせたものを「定義の言い換え」としてきちんと書き記しておきましょう。� �定理 4. (積分の定義の言い換え)K 上の有界な関数 f に対して、f が積分可能であることと
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
が成り立つこととは同値であり、その極限値は∫∫Kf(x, y)dxdy に一致する。� �
3 累次積分との関係
このプリントの目標の一つは、
重積分可能な関数においては累次積分の積分順序は入れ替え可能
であることを示すことでした。このことは重積分の定義をちょっと言い換えただけの今の段階で示
せてしまいます。� �定理 5. K = [a, b]× [c, d] で定義された重積分可能な関数 f(x, y) が任意の x ∈ [a, b] に対してy で積分可能なら、f(x, y) は y で積分してから x で積分するという順番の累次積分が可能で∫ b
a
(∫ dc
f(x, y)dy
)dx =
∫∫K
f(x, y)dxdy (2)
が成り立つ。� �注意. 累次積分において、x での積分範囲を表す
∫ baと x での積分であることを表す dx が離れす
ぎるのを嫌って、 ∫ ba
(∫ dc
f(x, y)dy
)dx =
∫ ba
dx
∫ dc
f(x, y)dy
という記号(右辺のことです)を使うことがあります。★
証明. 式が長くなるのを避けるために、各 Kij における f の上限と下限をそれぞれ Mij ,mij とし
ましょう。
Mij = sup(x,y)∈Kij
f(x, y) mij = inf(x,y)∈Kij
f(x, y)
です。
特に xi−1 ≤ ξi ≤ xi を満たす任意の ξi を固定しても
mij ≤ f(ξi, y) ≤Mij (yj−1 ≤ ∀y ≤ yj)
を満たすので、y について yj−1 から yj まで積分して、
mij(yj − yj−1) ≤∫ yjyj−1
f(ξi, y)dy ≤Mij(yj − yj−1) (3)
-
第 10 回解答 12
となります。
F (x) =∫ dc
f(x, y)dy
とおくと、上の不等式 (3)を j = 1 から j = m まで足すことにより、
m∑j=1
mij(yj − yj−1) ≤ F (ξi) ≤m∑j=1
Mij(yj − yj−1)
となります。これに (xi − xi−1) をかけて i について 1から n まで足すと、
s∆[f ] ≤n∑i=1
F (ξi)(xi − xi−1) ≤ S∆[f ] (4)
となります。
さて、ξi は xi−1 ≤ ξi ≤ xi を満たす任意の実数でしたので、この不等式は F (ξi)たちを [xi−1, xi]における上限や下限に取り替えても成り立ったままです。よって、
s∆[f ] ≤ s∆x [F ] ≤ S∆x [F ] ≤ S∆[f ]
が成り立ちます。(同じ記号なので紛らわしいですが、真ん中の二つは x だけを変数とする 1変数関数の過剰和と不足和です。)
今、関数 f は重積分可能であると仮定しているので、定理 4から |∆| → 0 のとき両端はどちらも∫∫Kf(x, y)dxdy に収束します。よって、はさみうちの原理から
lim|∆x|→0
s∆x [F ] = lim|∆x|→0S∆x [F ] =
∫∫K
f(x, y)dxdy
となります。この式は、F (x) という [a, b] で定義された 1変数関数の過剰和と不足和が∫ baF (x)dx
という同じ値に収束するという意味ですので、1変数関数の「言い換えられた積分の定義」から、F は積分可能で ∫ b
a
F (x)dx =∫∫K
f(x, y)dxdy
が成り立ちます。
これで示せました。 □
結局何をやったのか考えてみましょう。不等式 (4)の意味は、|∆y| → 0 という極限を先にとってしまったものを ∆ に対する過剰和と不足和で評価できる、ということです。しかる後に |∆| → 0とすれば、|∆x| → 0 ともなるので、はさみうちの原理から結論が導かれるというわけです。つまり、(一般には正しくないですが、)今の場合には
lim|∆|→0
R [f,∆, {Pij}] = lim|∆x|→0
(lim
|∆y|→0R [f,∆, {Pij}]
)という「2重添数付き極限の分解」が成り立っているということです。
注意. 「|∆y| → 0 としてから |∆x| → 0」 とする極限の取り方は「|∆| → 0」 という極限の取り方の特別の場合ではありません。なぜなら ∆ において |∆y| → 0 としてしまったものは、もはやK の分割ではないからです。∆ というのはあくまでも「有限分割」ですので、|∆x| も |∆y| も 0
-
第 10 回解答 13
ではあり得ないのです。つまり |∆| → 0 という極限の中に「先に |∆y| → 0 としてしまう」という操作の入り込む余地はありません。だから、
lim|∆|→0
R [f,∆, {Pij}] = S
が成り立っている、つまり重積分可能だったとしても、このことから議論なしに
lim|∆x|→0
(lim
|∆y|→0R [f,∆, {Pij}]
)= S
を結論することはできません。(この式の左辺は、累次積分をリーマン和にばらして書いたもので
す。この場合の代表点の取り方は図 2のようなものだけになります。)� �
x0 x1 x2 x3 x4
c = y0
y1
y2
d = y3
∥ ∥a b
η3
η1
ξ1 ξ2 ξ3 ξ4
η2
図 2: 累次積分を K の分割を使ってリーマン和の極限に書き直したときの代表点の取り方。これでまず y 軸方向の分割の幅を 0にし、その後で x 軸方向の分割の幅を 0にするのが累次積分である。� �このギャップを回避するために過剰和と不足和による積分の定義の言い換えを使ったというわけ
です。★
3.1 問題 1(2)(3)の解答
(2) x を定数と思って y で積分すると、
∫ 10
f(x, y)dy =
∫ 10
ydy =12
x ∈ Q
∫ 10
(1 − y)dy = 12
x ̸∈ Q
-
第 10 回解答 14
つまり、x によらずに 12 となります。よって、∫ 10
(∫ 10
f(x, y)dy)dx =
∫ 10
12dx =
12
です。 □
(3) y = a に固定したとき、x の関数 f(x, a) は
f(x, a) =
{a x ∈ Q
1 − a x ̸∈ Q
ですので、a = 12 のときのみ∫ 10f(x, a)dx = 12 と積分が存在しますが、a ̸=
12 のときは積分が存
在しません。実際、a < 12 なら [0, 1] の任意の分割に対して、f(x, a) の過剰和は 1 − a で不足和は a、a > 12 のときはその逆で、どちらにせよ過剰和と不足和は同じ値に収束しません。よって、
f(x, y) を x から先に積分することはできません。(詳しくは、演習第 8回の問題 3とその解答を参照してください。) □
問題 1の (2)は「y で積分してから x で積分する順序の累次積分ができる」と言っています。しかし、(1)で既に示したように、問題 1の f は重積分可能ではありません。定理 5の逆である「累次積分可能ならば重積分可能」が成り立たない例になっているわけです。
4 連続関数の可積分性
4.1 分割を細分する
「定理 4のように積分の定義を言い換えたおかげで、リーマン和が積分値に収束する状況がわかりやすくなった。なぜって、不等式 (1)があるので、定理 4の左辺は下から右辺は上から収束する、つまり、任意の分割 ∆ に対して
s∆[f ] ≤∫∫K
f(x, y)dxdy ≤ S∆[f ] (5)
が成立するから」と思うかもしれません。事実としては正しいのですが、不等式 (1)だけから不等式 (5)を証明することはできません。異なる二つの分割 ∆1, ∆2 に対しても
s∆1 [f ] ≤ S∆2 [f ] (6)
の成り立つことを示さなければならないのです。そのために細分という考え方を導入しましょう。� �定義 6. ∆ と ∆′ がともに K の分割で、∆′x, ∆
′y の分点の集合がそれぞれ ∆x, ∆y のすべて
の分点を含むとき、∆′ は ∆ の細分であるという。� �1変数のときと同様、細分すると過剰和はより小さく、不足和はより大きくなります。� �定理 6. ∆′ が ∆ の細分のとき、任意の有界関数 f に対して
s∆[f ] ≤ s∆′ [f ] ≤ S∆′ [f ] ≤ S∆[f ]
が成り立つ。� �
-
第 10 回解答 15
証明. ∆x や ∆y に分点を一つずつ加えていって ∆′ に達したと考えればよいので、∆′ は ∆ において ∆x に分点を一つ付け加えたものとして証明すれば十分です。真ん中の不等号は (1)ですので、両端の不等号のみ示すことになります。どちらでも同じですので、過剰和について示しましょう。
付け加えられた分点を x∗ とし、∆x の小区間で x∗ を含むものを [xk−1, xk] とします。すると、∆′x において [xk−1, x
∗] は k 番目の、[x∗, xk] は k + 1 番目の小区間です。よって、∆′ の小長方形を K ′ij と書くことにすると、
K ′kj = [xk−1, x∗] × [yj−1, yj ] K ′k+1j = [x∗, xk] × [yj−1, yj ]
となります。
supK′kj
f(x, y) ≤ supKkj
f(x, y) supK′k+1j
f(x, y) ≤ supKkj
f(x, y)
なので、
S∆[f ] − S∆′ [f ] = supKkj
f(x, y)(xk − xk−1)(yj − yj−1)
−
(supK′kj
f(x)(x∗ − xk−1)(yj − yj−1) + supK′k+1j
f(x)(xk − x∗)
)(yj − yj−1)
≥ 0
です。 □
これで、不等式 (6)が分かります。∆1 と ∆2 の分点をすべてあわせた分割を ∆3 とすれば、∆3は ∆1 の細分でもあり ∆2 の細分でもあるので、
s∆1 [f ] ≤ s∆3 [f ] ≤ S∆3 [f ] ≤ S∆2 [f ]
となるからです。
このことから、不等式 (5)も分かります。実際、|∆| → 0 のとき s∆[f ] →∫∫Kf(x, y)dxdy なの
ですから、s∆[f ] が∫∫Kf(x, y)dxdy にいくらでも近い分割 ∆ があるので、もし
S∆′ [f ] <∫∫K
f(x, y)dxdy
となる分割 ∆′ があったとすると、S∆′ [f ] < s∆[f ]
となってしまって矛盾します。
さて、不等式 (5)が示されたことにより、重積分の値を気にせず重積分可能かどうかだけを問題にする場合には、s∆[f ] と S∆[f ] の極限を別々に考えなくても判定できることが示せます。� �定理 7. (中途半端な可積分条件)K 上の有界な関数 f に対して、f が積分可能であることと
lim|∆|→0
(S∆[f ] − s∆[f ]) = 0 (7)
が成り立つこととは同値である。� �
-
第 10 回解答 16
証明. 重積分可能なら式 (7)の成り立つことは定理 4で左辺を右辺に移項しただけですので、逆を示しましょう。
すべての分割についての s∆[f ] の上限を M とすると、不等式 (6)から、任意の分割 ∆ に対して
s∆[f ] ≤M ≤ S∆[f ]
となります。よって、
S∆[f ] − s∆[f ] ≥M − s∆[f ] ≥ 0
ですので、式 (7)が成り立つなら、はさみうちの原理により、|∆| → 0 のとき s∆[f ] は M に収束します。これを式 (7)に足して、S∆[f ] も M に収束します。 □
「中途半端」とつけた理由は 1変数のときと全く同じです。中途半端でない可積分条件は第 5.2節で出てきます。
4.2 連続関数の一様連続性
上の定理 7のことを「中途半端」と名付けましたが、連続関数と積分の相性の良さから、この定理で十分「連続関数が重積分可能である」ことを示すことができるのは 1変数のときと全く同様です。ただし、これまた 1変数のときと同じく「K 上の連続関数は一様連続である」ということを使わなければなりません。
2変数関数 f(x, y) が一様連続であるとは、
∀ε∃δ∀(x, y)∀(x′, y′)[√
(x− x′)2 + (y − y′)2 < δ =⇒ |f(x, y) − f(x′, y′)| < ε]
が成り立つことで、普通の連続性とは ∃δ と ∀(x, y) の順番が逆になっています。つまり、場所によらずに δ が取れるのが一様連続なのです。
例によって C1 級なら一様連続であることは簡単に示せます。実際 0次のテイラー近似式、すなわち平均値の定理から
f(x′, y′) − f(x, y) = fx(a, b)(x′ − x) + fy(a, b)(y′ − y)
を満たす a と b がそれぞれ x と x′ の間および y と y′ の間にありますが、fx と fy が連続であ
ることから、それらの K における最大値の大きい方を M とすると、
|f(x′, y′) − f(x, y)| ≤ |fx(a, b)||x′ − x| + |fy(a, b)||y′ − y| ≤ 2M√
(x′ − x)2 + (y′ − y)2
となるので一様連続です。
一般的には次が成り立ちます。� �定理 8. 有界閉集合上の連続関数は一様連続である。� �
証明. 1変数関数のときと全く同じです。点を (x, y) などと書くとかえってわかりにくくなるので、ここでは x などと一文字で表すことにします。また 2点 x と y の間の普通の距離を ∥x − y∥ と書くことにします。
D を有界閉集合、f を D 上の連続関数とします。
-
第 10 回解答 17
任意の正実数 ε を与えられたとしましょう。ただし、ε は小さいときが問題なのですから、ε <
maxD f(x) − minD f(x) としておきます。D の点 x と正実数 r に対して、D に含まれる有界閉集合 Br(x) を、
Br(x) = D ∩ {y | ∥x − y∥ < r}
と定義します。
D の任意の点 x に対し、実数 r(x) を
y, z ∈ Br(x) ⇒ |f(y) − f(z)| < ε
を満たす r の上限とします。ε につけた条件により、r(x) は有限です。さらに、r(x) > 0 です。実際、f は連続なのですから、r が十分小さければ、Br(x) に含まれる任意の y に対して
|f(x) − f(y)| < ε2
を満たしますので、Br(x) に含まれる任意の 2点 y, z に対して、
|f(y) − f(z)| ≤ |f(y) − f(x)| + |f(x) − f(z)| < ε (8)
を満たします。
r(x) が連続関数であることを示しましょう。y を ∥x − y∥ < r(x) であるようにとります。すると、r(x)− ∥x− y∥ より小さい r に対し、Br(y) は Br(x)(x) の内部に含まれますので、Br(y)の任意の 2点 z, z′ に対し
|f(z) − f(z′)| < ε
が成り立ちます。よって、
r(y) ≥ r(x) − ∥x − y∥
です。また、r(x) + ∥x − y∥ より大きい r に対し、Br(y) は Br(x)(x) を内部に含みますので、Br(y) の 2点 z, z′ で
|f(z) − f(z)′| ≥ ε
を満たすものが存在します。よって、
r(y) ≤ r(x) + ∥x − y∥
です。
この二つの不等式により、
|r(x) − r(y)| ≤ ∥x − y∥
となって、r(x) が連続なことが示せました。r(x) は有界閉集合 D 上の連続関数ですので、最小値を持ちます。その最小値を r0 としましょう。r0 > 0 です。∥x − y∥ < r0 を満たす任意の x, y ∈ D に対して、r0 ≤ r(x) ですので
|f(x) − f(y)| < ε
となります。これで示せました。 □
とてもわかりにくいだろうと思います。もう一度トライする人は是非 Br(x) たちの図を書きながら読んでください。
-
第 10 回解答 18
4.3 連続関数の可積分性
第 4.1節最後の「中途半端な可積分条件」を ε-δ 式に書き直すと、任意の正実数 ε に対してある正実数 δ があって、
|∆| < δ =⇒ S∆[f ] − s∆[f ] < ε
が成り立つこと、となります。ここで、左辺の S∆[f ] − s∆[f ] を定義にバラして書いてみると、
S∆[f ] − s∆[f ] =∑
1≤i≤n1≤j≤m
sup(x,y),(x′,y′)∈Kij
(f(x, y) − f(x′, y′))(xi − xi−1)(yj − yj−1)
となります。だから、(x, y) と (x′, y′) が Kij という狭い範囲を動くときに f(x, y) と f(x′, y′) がほんのちょっとしか離れられなければ、具体的には
|f(x, y) − f(x′, y′)| < ε(b− a)(d− c)
(9)
が満たされれば、S∆[f ] − s∆[f ] は ε 以下になります5。これで一様連続な関数が重積分可能であることの証明は終わったも同然です。前節で K 上の連続関数が一様連続であることを見てあるの
で、結局任意の連続関数は重積分可能となります。大変重要ですので、定理としてキチンと書いて
おきましょう。� �定理 9. (連続関数の可積分性)K 上の連続関数は重積分可能である。� �
証明. f を長方形 K で連続な関数としましょう。前節で見たように f は一様連続です。よって、
どんなに小さな正実数 ε が与えられても十分小さな正実数 δ をうまくとって、K に含まれる任意
の 2点 (x, y), (x′, y′) に対して∣∣∣√(x′ − x)2 + (y′ − y)2∣∣∣ < δ ⇒ |f(x, y) − f(x′, y′)| < ε(b− a)(d− c)
が成り立つようにできます。∆ を |∆| < δ を満たす任意の分割とすると、
S∆[f ] − s∆[f ]
=∑
1≤i≤n1≤j≤m
max(x,y)∈Kij
f(x, y)(xi − xi−1)(yj − yj−1) −∑
1≤j≤n1≤j≤m
min(x,y)∈Kij
f(x, y)(xi − xi−1)(yj − yj−1)
=∑
1≤j≤n1≤j≤m
max(x,y),(x′,y′)∈Kij
(f(x, y) − f(x′, y′))(xi − xi−1)(yj − yj−1)
<∑
1≤i≤n1≤j≤m
ε
(b− a)(d− c)(xi − xi−1)(yj − yj−1) = ε
となりますので、f は「中途半端な可積分条件」を満たします。 □
5十分だと言っているだけで必要だとは言っていないことを心に留めておいてください。(一様)連続性は重積分可能であるためのかなり強い十分条件です。
-
第 10 回解答 19
5 可積分条件と積分の性質
5.1 ダルブーの定理
さて、1変数関数のときと同様、重積分においても勝手な分割列についての収束だけで積分可能かどうかが判定できるのでしょうか? もちろん結論は「Yes」となります。この節では、それを証明するための準備をしましょう。
第 2.3節の定理 4 「有界な関数に対する積分の定義の言い換え」で、
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
が可積分であるための条件としてでてきました。この式は一つの式のようですが、実際には
• |∆| → 0 のとき s∆[f ] が収束する。
• |∆| → 0 のとき S∆[f ] が収束する。
• それらが一致する。
という三つのことを言っています。しかし、1変数関数のときと同様、上の二つは任意の有界関数に対して常に成り立ってしまうのです。この節ではそれについて説明しましょう。
「言い換えられた積分の定義」(定理 4)は「中途半端な可積分条件」(定理 7)と同値なのでした。こちらの方は 2つの部分、すなわち「S∆[f ]− s∆[f ] が収束する」と「その収束先が 0である」しか含んでいません。それでも同値になってしまったのはなぜだったかというと、S∆[f ] の世界とs∆[f ] の世界がそれぞれの下限と上限によって完全に隔てられてしまっていて、S∆[f ]− s∆[f ] → 0という状況が起こるためには、その下限と上限が一致し、S∆[f ] と s∆[f ] のそれぞれがその一致した値に収束するほかないからです。
そこで、S∆[f ] や s∆[f ] が(それぞれ別々に)収束するなら、その収束先はすべての ∆ についてのそれぞれの下限と上限ではなかろうかと思えます。� �定義 7. f が K 上の有界関数のとき、すべての分割に対する過剰和の下限を上積分、すべて
の分割に対する不足和の上限を下積分と言う。上積分を S[f ] と書き、下積分を s[f ] と書く。すなわち
S[f ] = inf∆S∆[f ] s[f ] = sup
∆s∆[f ]
と定義する。� �上積分や下積分は、ものとしてはとっても「超越的」です。代表点を取らなくて済むものの、
|∆| → 0 という条件もなしに「すべての分割について」考えなければならないからです。しかし、ありがたいことが一つあります。それは、上積分も下積分も必ず存在するということです。有界な
関数しか考えていないのですから、任意の分割 ∆ に対して
infKf(x, y)(b− a)(d− c) ≤ s∆[f ] ≤ S∆[f ] ≤ sup
Kf(x, y)(b− a)(d− c)
ですので、上積分も下積分も発散せずちゃんと有限の値です。
さて、重積分可能なら、つまり「言い換えられた定義」の等号が成り立つなら、過剰和の極限が
上積分、不足和の極限が下積分であることは示してあります。そして、実際にはたとえ重積分不可
能でも上(下)リーマン和は上(下)積分に収束します。
-
第 10 回解答 20
� �定理 10 (ダルブーの定理). K 上の任意の有界関数 f に対して
lim|∆|→0
s∆[f ] =∫∫
K
f(x, y)dxdy lim|∆|→0
S∆[f ] =∫∫
K
f(x, y)dxdy
が成り立つ。� �完全に 1変数関数のときと同じことが成り立つのです。
5.2 可積分条件
さて、前節の最初にあげた 3つの条件のうち上の 2つが常に成り立つことがわかったので、重積分可能であるための必要十分条件は最後の一つが成り立つことと同値になってしまいました。つ
まり、� �定理 11 (可積分条件:分割列バージョン). K 上の有界関数 f が重積分可能であるための必要十分条件は、|∆n| → 0 となる分割の列 ∆1, ∆2, . . .で
limn→∞
(S∆n [f ] − s∆n [f ]) = 0 (10)
となるものが存在することである。� �あるいは、� �定理 12 (可積分条件:ε-δ バージョン). [a, b] 上の有界関数 f が可積分であるための必要十分条件は、任意の正実数 ε に対し
S∆[f ] − s∆[f ] < ε
となる分割 ∆ が存在することである。� �です。下の方はリーマンの判定法と呼ばれることもあります。
5.3 重積分の一般的な性質
重積分が線形性を持つことや平行移動で不変なことはもはや説明する必要もないでしょう。積や
商、|f | の可積分性も簡単に証明できます。大小関係についても同様です。積分範囲の分割や合併に対する積分の振る舞いも明らかです。つまり、a < α < b, c < β < d を満たす 2実数 α, β によって
K1 = [a, α] × [c, β] K2 = [α, b] × [c, β] K3 = [a, α] × [β, d] K4 = [α, b] × [β, d]
としたとき、∫∫K
fdxdy =∫∫K1
fdxdy +∫∫K2
fdxdy +∫∫K3
fdxdy +∫∫K4
fdxdy
が成り立ちます。(証明は「可積分条件」定理 12を使わないと難しいでしょう。)
-
第 10 回解答 21
以上、興味のある方は「第 8回解説」の 1変数の場合を参考にしながら自分で考えてみてください。
6 一般の積分領域での重積分
ここまでは積分範囲が K = [a, b]× [c, d] という、各辺が x 軸や y 軸と平行な長方形しか考えませんでした。しかし、実際に出会う積分範囲は円とか三角形とかその他諸々いろいろとあります。
そのような一般の積分範囲 D を考えましょう。(ただし D は有界閉集合とします。)D を定義域
とする関数 f(x, y) の重積分はどのように定義したらよいでしょうか。
6.1 定義
もっとも安直な方法は、D をすっぽりと含んでしまう長方形 K を勝手にとってきて、f を D
以外では恒等的に 0として拡張し、それを K で重積分することです。積分の値が D を含む長方形の取り方によらないことは納得できるでしょう。(もちろん、証明は必要です。かなり形式的な
ものですが。)そこで、この「安直な積分」を重積分の定義として採用し、長方形のときと同じ記
号で書くことにしましょう。� �定義 8. f を D 上で定義された関数とする。D を含む長方形 K を一つ取り、K 上の関数 f̃
を
f̃(x, y) =
f(x, y) (x, y) ∈ D
0 (x, y) ̸∈ D
として、f の D における重積分を∫∫D
f(x, y)dxdy :=∫∫J
f̃(x, y)dxdy
によって定義する。� �6.2 積分範囲が「面積を持つ」ということ
問題が一つあります。たとえ f が連続でも、拡張された関数 f̃ は不連続になってしまって積分
できないかも知れないということです。実際積分できなくなってしまう場合があります。しかし、
積分領域 D が面積を持つならば上のように連続関数を拡張した f̃ は必ず K で重積分可能になり
ます。(申し訳ありませんが、時間の都合で証明は省略します。)ここで、� �定義 9. R2 の部分集合 D が面積を持つとは、D 上恒等的に 1をとる関数が、上の安直な意味で重積分可能であることをいう。� �
つまり、D で定義された任意の連続関数が重積分可能であることと、「恒等的に 1」という関数だけが重積分可能であることとは同値だということです。
-
第 10 回解答 22
何故これが「面積を持つ」ということの定義なのかと言えば、恒等的に 1という関数を D で積分した値は「D の面積× 1」と解釈できるので、まさに D の面積にふさわしいからです。
D の面積 =∫∫D
1dxdy.
結局、どのような D が面積を持つかということをハッキリさせておけば、安心して重積分を使
うことができることになります。D をすっぽり含む長方形 K を一つとって、χD を D 上では 1、D の外では 0という K 上の関数としましょう。(関数 χD を D の定義関数と呼ぶことがあります。)定義から ∫∫
D
1dxdy =∫∫K
χD(x, y)dxdy
です。重積分の値とは、過剰和と不足和の共通の極限でした。K の分割 ∆ を一つとったとき、∆に属する小長方形 Kij で「D の境界」に引っ掛かっているもの、つまり、
D に含まれる点も含まれない点も含むもの
の全体を適当に並べて Kk (1 ≤ k ≤ N) と番号を振りましょう(図 3)。 すると、� �
K1 K2
K4 K6
K7
K8
K5
K3
x
y
K9
K11K12K13K14
K15
K16
K10
図 3: D の「境界」に引っ掛かっている小長方形たち。� �S∆[χD] = D と共通部分のある Kij の面積の和
s∆[χD] = D にすっぽり含まれる Kij の面積の和
なので、
S∆[χD] − s∆[χD] =N∑k=1
Dk の面積
となります。つまり、|∆| → 0 としたときに Dk たちの面積の和が 0になることと D が面積を持つこととが同値です。(このことを「D の境界が零集合である」と言うことがあります。)
D の「境界」が無限に振動しているような汚いものだとこの条件は満たされないのですが、多
角形や円のように「有限個の角を除いて C1 級の曲線に囲まれた図形」なら大丈夫です。(証明は
省略します。)結局、我々が普通に思いつくような積分範囲では、すべての連続関数が重積分可能
となります。
-
第 10 回解答 23
6.3 縦線集合上の関数の重積分
重積分が一定の手順で計算できる積分範囲の例として縦線集合(と横線集合)があります。
ψ(x) < φ(x) を満たす二つの関数によって、
D = {(x, y) ∈ R2 |ψ(x) ≤ y ≤ φ(x), a ≤ x ≤ b} (11)
となっている集合(図 4)を縦線集合といい、x と y の役割を取り替えた式で定義される集合を横線集合といいます。前小節の話と定理 5から、積分範囲が (11)で与えられる縦線集合のとき、∫ b
a
(∫ φ(x)ψ(x)
f(x, y)dy
)dx
という今まで普通にやってきた計算はちゃんと重積分と一致することになります。� �
O
y
x
D
図 4: 二つの関数のグラフによって挟まれた積分領域。� �このことを使って重積分を計算する問題が問題 2です。また、累次積分は積分する順序によって計算が簡単になったり難しくなったりします。(下手をすると計算不能になったりもします。)そこ
で、与えられた累次積分の変数の順序を交換する問題も出題しました。問題 3です。
6.4 問題 2の解答
すべて定理 5を使って累次積分として計算します。x で先に積分するのと y で先に積分するのとを比べてどちらが計算が楽か(下手をすると計算できなくなることもあります)ということだけ
がポイントで、あとは 1変数関数の定積分の計算に過ぎません。最初の三つだけ x で先に積分する計算と y で先に積分する計算の両方を書きましたが、残りについては片方しか書きませんでし
た。あしからずご了承ください。
(1) x で先に積分してみましょう。∫∫D
(x+ y2)2dxdy =∫ 1
0
(∫ 10
(x+ y2)2dx)dy =
∫ 10
[13(x+ y2)3
]10
dy
=∫ 1
0
(1 + y2)3 − (y2)3
3dy =
13
∫ 10
(1 + 3y2 + 3y4
)dy =
13
[y + y3 +
35y5]10
=1315
-
第 10 回解答 24
となります。
y で先に積分すると、∫∫D
(x+ y2)2dxdy =∫ 1
0
(∫ 10
(x2 + 2xy2 + y4)dy)dx =
∫ 10
[x2y +
23xy3 +
15y5]10
dx
=∫ 1
0
(x2 +
23x+
15
)dx =
[13x3 +
13x2 +
15x
]10
=1315
となります。
(2) y で先に積分してみましょう。∫∫D
x2y3dxdy =∫ 1
0
(∫ x0
x2y3dy
)dx =
∫ 10
x2(∫ x
0
y3dy
)dx
=∫ 1
0
x2[y4
4
]x0
dx =14
∫ 10
x6dx =14
[x7
7
]10
=128
となります。
次に x で先に積分してみましょう。
D = {(x, y) | y ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 1}
なので(図 5)、∫∫D
x2y3dxdy =∫ 1
0
(∫ 1y
x2y3dx
)dy =
∫ 10
y3(∫ 1
y
x2dx
)dy =
∫ 10
y3[x3
3
]1y
dy
=13
∫ 10
(y3 − y6
)dy =
13
[y4
4− y
7
7
]10
=112
− 121
=128
となります。
(3) x で先に積分すると、∫∫D
x sinπ(x+ y)dxdy =∫ 1
2
0
(∫ 10
x sinπ(x+ y)dx)dy
=∫ 1
2
0
([−x 1
πcosπ(x+ y)
]10
+1π
∫ 10
cosπ(x+ y)dx
)dy
=∫ 1
2
0
(− 1π
cosπ(1 + y) +1π
[1π
sinπ(x+ y)]10
)dy
=1π2
∫ 12
0
(sinπ(1 + y) − sinπy − π cosπ(1 + y)) dy
=1π2
[− 1π
cosπ(1 + y) +1π
cosπy − sinπ(1 + y)] 1
2
0
=1π2
− 2π3
となります。
-
第 10 回解答 25
� �
x
y
1
1
図 5: 問題 2(2)の積分範囲 D。� �y で先に積分すると、∫∫
D
x sinπ(x+ y)dxdy =∫ 1
0
(∫ 12
0
x sinπ(x+ y)dy
)dx =
∫ 10
[− 1πx cosπ(x+ y)
] 12
0
dx
=1π
∫ 10
x
(cosπx− cosπ
(x+
12
))dx
=1π
[x
(1π
sinπx− 1π
sinπ(x+
12
))]10
− 1π
∫ 10
(1π
sinπx− 1π
sinπ(x+
12
))dx
=1π2
− 1π2
[− 1π
cosπx+1π
cosπ(x+
12
)]10
=1π2
− 2π3
となります。
(4) y で先に積分してみましょう。
D ={
(x, y)∣∣∣ x
2≤ y ≤ 2x, y ≤ 3 − x
}={
(x, y)∣∣∣ x
2≤ y ≤ 2x, 0 ≤ x ≤ 1
}∪{
(x, y)∣∣∣ x
2≤ y ≤ 3 − x, 1 ≤ x ≤ 2
}なので(図 6)、∫∫
D
(3 − x− y)dxdy =∫ 1
0
(∫ 2xx2
(3 − x− y)dy
)dx+
∫ 21
(∫ 3−xx2
(3 − x− y)dy
)dx
=∫ 1
0
[3y − xy − y
2
2
]2xx2
dx+∫ 2
1
[3y − xy − y
2
2
]3−xx2
dx
=∫ 1
0
(92x− 27
8x2)dx+
∫ 21
(92− 9
2x+
98x2)dx
=[94x2 − 9
8x3]10
+[92x− 9
4x2 +
38x3]21
=32
となります。
(5) x で先に積分してみましょう。
D ={(x, y)
∣∣ 0 ≤ y2 ≤ x ≤ y ≤ 1}
-
第 10 回解答 26
� �
x
y
3
3
x = 2y
y = 2x
図 6: 問題 2(4)の積分範囲 D。� �なので、∫∫
D
(x+ y)dxdy =∫ 1
0
(∫ yy2
(x+ y)dx)dy =
∫ 10
[12x2 + xy
]yy2dy
=∫ 1
0
(12y2 + y2 − 1
2y4 − y3
)dy =
[32
13y3 − 1
215y5 − 1
4y4]10
=320
となります。
(6) y で先に積分してみましょう。
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤√1 − (x− 2)2, 1 ≤ x ≤ 3}
なので、 ∫∫D
xydxdy =∫ 3
1
x
(∫ √1−(x−2)20
ydy
)dx =
∫ 31
x
[12y2]√1−(x−2)20
dx
=12
∫ 31
(−3x+ 4x2 − x3
)dx =
12
[−3
2x2 +
43x3 − x
4
4
]31
=43
となります。
(7) x で先に積分してみましょう。
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ x ≤√a2 − y2, −a ≤ y ≤ a}
なので、 ∫∫D
xy2dxdy =∫ a−ay2
(∫ √a2−y20
xdx
)dy =
∫ a−ay2[x2
2
]√a2−y20
dy
=12
∫ a−a
(a2y2 − y4
)dy =
12
[a2y3
3− y
5
5
]a−a
=215a5
となります。
(8) x で先に積分してみましょう。
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1 − y, 0 ≤ y ≤ 1}
-
第 10 回解答 27
ですので、∫∫D
(1 − x− y)dxdy =∫ 1
0
(∫ 1−y0
(1 − x− y)dx)dy =
∫ 10
[x− x
2
2− xy
]1−y0
dy
=∫ 1
0
(12− y + y
2
2
)dy =
[y
2− y
2
2+y3
6
]10
=16
(9) x で先に積分しましょう。
D = {(x, y) | y2 ≤ x ≤ y + 2, −1 ≤ y ≤ 2}
ですので(図 7)、∫∫D
xdxdy =∫ 2−1
(∫ y+2y2
xdx
)dy =
∫ 2−1
[x2
2
]y+2y2
dy
=∫ 2−1
(y2
2+ 2y + 2 − y
4
2
)dy =
[y3
6+ y2 + 2y − y
5
10
]2−1
=365
� �
O
y
x2
図 7: 問題 2(9)の積分範囲 D。� �(10) y で先に積分しましょう。∫∫
D
(x2− y)dxdy =
∫ 12
0
(∫ x2
x2
(x2− y)dy
)dx =
∫ 12
0
[xy
2− y
2
2
] x2
x2dx
=∫ 1
2
0
(x2
8− x
3
2+x4
2
)dx =
[x3
24− x
4
8+x5
10
] 12
0
=1
1920
(11) y で先に積分してみましょう。
D ={
(x, y)∣∣∣∣ x ≤ y ≤√1 − x2, 0 ≤ x ≤ 1√2
}ですので、∫∫
D
x3ydxdy =∫ 1√
2
0
x3
(∫ √1−x2x
ydy
)dx
=∫ 1√
2
0
x3[y2
2
]√1−x2x
dx =∫ 1√
2
0
(x3
2− x5
)dx =
[x4
8− x
6
6
] 1√2
0
=196
-
第 10 回解答 28
(12) y で先に積分しましょう。
D ={
(x, y)∣∣∣∣ −4 ≤ x ≤ 0, x− 23 ≤ y ≤ x+ 23
}なので、 ∫∫
D
(x− 3y)2dxdy =∫ 0−4
(∫ x+23
x−23
(x− 3y)2dy
)dx
=∫ 0−4
[− (x− 3y)
3
9
] x+23
x−23
dx =∫ 0−4
169dx =
[169x
]0−4
=649
6.5 問題 3の解答
(1) 積分範囲を D とすると、
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x ≤ y ≤ 2x}
です(図 8)。 二つの条件式から 0 ≤ y ≤ 2 です。また、二番目の y に関する条件式を x につい� �y
x1
図 8: 問題 3(1)の積分範囲 D。� �て解くと
y
2≤ x ≤ y
となります。しかし、0 ≤ x ≤ 1 という条件があるので、1 ≤ y ≤ 2 では、この条件式は
y
2≤ x ≤ 1
となります。よって、
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤ 1, y
2≤ x ≤ y
}∪{
(x, y)∣∣∣ 1 ≤ y ≤ 2, y
2≤ x ≤ 1
}となります。このことから、∫ 1
0
(∫ 2xx
f(x, y)dy)dx =
∫ 10
(∫ yy2
f(x, y)dx
)dy +
∫ 21
(∫ 1y2
f(x, y)dx
)dy
となります。
-
第 10 回解答 29
� �
O
y
x1−1
図 9: 問題 3(2)の積分範囲 D。� �(2) 積分範囲を D とすると、
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤ 1, −√1 − y2 ≤ x ≤ 1 − y}
です(図 9)。 二つの条件式から −1 ≤ x ≤ 1 がわかります。、二つ目の条件式を y について解きましょう。右側の不等式は
y ≤ 1 − x
となります。また左側の不等式は、−√
1 − y2 ≤ 0 なので x ≥ 0 のときは何の条件も与えていません。x ≤ 0 のときは
y ≤√
1 − x2
となります。(y ≥ 0 に注意してください。)以上より、
D ={
(x, y)∣∣∣ −1 ≤ x ≤ 0, 0 ≤ y ≤√1 − x2} ∪ {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, ≤ y ≤ 1 − x}
となります。このことから∫ 10
(∫ 1−y−√
1−y2f(x, y)dx
)dy =
∫ 0−1
(∫ √1−x20
f(x, y)dy
)dx+
∫ 10
(∫ 1−x0
f(x, y)dy)dx
となります。
(3) 積分範囲を D とすると、
D ={
(x, y)∣∣∣∣ 0 ≤ x ≤ a, (a2 − x2)2a ≤ y ≤√a2 − x2
}となります(図 10)。 二つの条件式より 0 ≤ y ≤ a です。二番目の条件式を y について解きましょう。左側の不等式は
a2 − 2ay ≤ x2
となります。よって、a2 ≤ 2ay すなわち y ≥ a2 のときは常に成り立ち、0 ≤ y ≤a2 のときは
x ≥√a2 − 2ay
となります。一方、二番目の条件式の右側の不等式は、y ≥ 0 であることから二乗してよく
x2 ≤ a2 − y2
-
第 10 回解答 30
� �
O
y
xa
図 10: 問題 3(3)の積分範囲 D。� �となります。x ≥ 0、a2 − y2 ≥ 0 なので平方根をとっても同値で、
x ≤√a2 − y2
となります。以上より、
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤ a
2,√a2 − 2ay ≤ x ≤
√a2 − y2
}∪{
(x, y)∣∣∣ a
2≤ y ≤ a, 0 ≤ x ≤
√a2 − y2
}となります。このことから∫ a
0
(∫ √a2−x2(a2−x2)
2a
f(x, y)dy
)dx =
∫ a2
0
(∫ √a2−y2√a2−2ay
f(x, y)dx
)dy +
∫ aa2
(∫ √a2−y20
f(x, y)dx
)dy
となります。
(4) 積分範囲を D とすると、
D = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ a, 0 ≤ x ≤ y}
です(図 11)。 これは� �
x
y
a
図 11: 問題 3(4)の積分範囲 D。� �D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ a, x ≤ y ≤ a}
-
第 10 回解答 31
と書きかえられます。よって、∫ a0
(∫ y0
f(x, y)dx)dy =
∫ a0
(∫ ax
f(x, y)dy)dx
となります。
(5) 積分範囲を D とすると、
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 2a, 0 ≤ y ≤ 2ax− x2}
です(図 12)。 二つ目の不等式は、� �
O
y
x
図 12: 問題 3(5)の積分範囲 D。� �y ≥ 0 かつ a−
√a2 − y ≤ x ≤ a+
√a2 − y
と変形できます。従って、
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤ a2, a−√a2 − y ≤ x ≤ a+√a2 − y}
と書きかえられます。よって、∫ 2a0
(∫ 2ax−x20
f(x, y)dy
)dx =
∫ a20
(∫ a+√a2−ya−
√a2−y
f(x, y)dx
)dy
となります。
(6) 積分範囲を D とすると、
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ a, mx ≤ y ≤ nx}
となります(図 13)。 二つ目の不等式は、
y
n≤ x ≤ y
m
と書きかえられます。これと 0 ≤ x ≤ a の両方を満たす範囲なので、
D ={
(x, y)∣∣∣ 0 ≤ y ≤ ma, y
n≤ x ≤ y
m
}∪{
(x, y)∣∣∣ ma ≤ y ≤ na, y
n≤ x ≤ a
}
-
第 10 回解答 32
� �
O
y
xa
y = mx
y = nx
図 13: 問題 3(6)の積分範囲 D。� �となります。よって、∫ a
0
(∫ nxmx
f(x, y)dy)dx =
∫ ma0
(∫ ym
yn
f(x, y)dx
)dy +
∫ nama
(∫ ayn
f(x, y)dx
)dy
となります。
(7) 積分範囲を D とすると、
D ={
(r, θ)∣∣∣ π
4≤ θ ≤ π
2, sin θ ≤ r ≤ 2
}となります(図 14)。 これは� �
O
θ
r
π2
π4
2
図 14: 問題 3(7)の積分範囲 D。� �D =
{(r, θ)
∣∣∣∣ 1√2 ≤ r ≤ 1, π4 ≤ θ ≤ sin−1 r}∪{
(r, θ)∣∣∣ 1 ≤ r ≤ 2, π
4≤ θ ≤ π
2
}と書きかえられます。よって、∫ π
2
π4
dθ
∫ 2sin θ
f(r, θ)dr =∫ 1
1√2
dr
∫ sin−1 rπ4
f(r, θ)dθ +∫ 2
1
dr
∫ π2
π4
f(r, θ)dθ
となります。
-
第 10 回解答 33
6.6 問題 4の解答
(1) 積分する変数の順序を取り換えることで計算しましょう。∫ a0
(∫ ay
e−x2dx
)dy =
∫ a0
(∫ x0
e−x2dy
)dx =
∫ a0
[e−x
2y]x0dx =
∫ a0
xe−x2dx
=[−1
2e−x
2]a0
=1 − e−a2
2
となります。
(2) これも積分する変数の順序を入れ替えて計算しましょう。∫ 10
(∫ 21
xydy
)dx =
∫ 21
(∫ 10
xydx
)dy =
∫ 21
[xy+1
y + 1
]10
dy =∫ 2
1
(1
y + 1
)dy
=[log(y + 1)
]21
= log 3 − log 2 = log 32
となります。
注意. (1)は x で先に積分する計算は不可能です。なぜなら、e−x2は原始関数を式で書けないこと
が知られているからです。(2)も同様の理由により y で先に積分するのは無理なのだろうと思いますが、確かなことは私は知りません。★