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1.NMR 測定
ここではスピン系に対するパルス NMRから得られる信号(FID)、スピンエコーおよび NMRスペクト
ルについて述べる。ヘリウム 3は核スピンをもっているので NMR測定を行うことができる。
1.1 ブロッホ方程式
まず、スピン𝑆が磁場下でどのような運動をするのかを説明する。ハミルトニアンとしてゼーマンエネ
ルギーのみを考える。𝐻 = −�� ∙ �� = −𝛾ℏ ∑ 𝑆𝑖𝐵𝑖に対するスピンのハイゼンベルグ方程式から𝑆に対する運
動方程式は
𝑑𝑆𝑖
𝑑𝑡=
1
𝑖ℏ[𝑆𝑖 , 𝐻] = 𝛾(𝑆 × ��)
𝑖
となる。これは個々のスピンに対する方程式であるが、これを粗視化することで全体の平均としての磁
化に対する方程式が導かれる。すなわち�� = ⟨��⟩ = ⟨𝛾ℏ𝑆⟩として
𝑑��
𝑑𝑡= 𝛾(�� × ��)
となる。これにより磁化は磁場によりトルクを受け、歳差運動をすることが分かる。この方程式に現象
論的に緩和項を考え
𝑑��
𝑑𝑡= 𝛾(�� × ��) −
𝑀𝑥�� + 𝑀𝑦��
𝑇2−
𝑀𝑧 − 𝑀0
𝑇1��
としたものをブロッホ方程式と呼び、磁化の運動を考える基礎方程式となる。ただし、�� = (0,0, 𝐵)とし
た。
1.1.1 FID
ブロッホ方程式によれば、磁場をかけることで磁化を回転させることができる。90°だけ磁化を回転さ
せるような磁場をパルス的にかけることができ、これを 90°パルスと呼ぶ。90°パルスを照射した後の
磁化の運動をブロッホ方程式に従って求める。90°パルスを照射した後の初期状態を𝑀𝑥 = 𝑀0 , 𝑀𝑦 = 0と
すると𝑥𝑦面内の運動方程式の解は
𝑀𝑥 = 𝑀0𝑐𝑜𝑠(𝜔𝑡)𝑒−
𝑡𝑇2
𝑀𝑦 = 𝑀0𝑠𝑖𝑛(𝜔𝑡)𝑒−
𝑡𝑇2
(1.1)
(1.2)
(1.3)
(1.4)
となる。したがって、磁化は磁場と垂直な面内では周波数ω = γBで振動しながら減衰していくことがわ
かる。これを自由減衰振動(Free induction decay, FID)と呼ぶ。このような信号の減衰は本質的に回復不
可能なものと、技術的に回復可能なものとが存在する。1.2節では信号の回復手段としてのスピンエコー
を紹介する。
1.1.2 NMRスペクトル
FIDをフーリエ変換することにより周波数の情報として NMRスペクトルを得ることができる。減衰の
ない理想的な場合は共鳴周波数の位置にデルタ関数的なスペクトルが得られるが、実際の FID には減衰
が起こり、共鳴周波数の周りにある線幅を持ったローレンチアン型のスペクトルになる。簡単のために
共鳴周波数で回転している系で考えるとスペクトルは
∫ 𝑒𝑥𝑝 (−𝑡
𝑇2)
∞
0
cos(𝜔𝑡)𝑑𝑡 =𝑇2
1 + (𝜔𝑇2)2
となる。これより半値全幅がΔω = 2 𝑇2⁄ となり、減衰が速く𝑇2が短いほどスペクトルの線幅が広くなるこ
とが分かる。ここで磁場として静磁場��0に加えて、ある方向に沿った一様な磁場勾配��(𝑟)をかける状況
を考える。磁場勾配の方向を𝑥軸に取ると
B = 𝐵0 + 𝐺 ∙ 𝑥
であるから共鳴周波数は
ω = γB
= γ(𝐵0 + 𝐺 ∙ 𝑥)
= 𝛾𝐵0 + 𝛾𝐺 ∙ 𝑥
となる。ここで静磁場に対する共鳴周波数𝜔𝐿 = γ𝐵0をラーモア周波数と呼ぶ。このように一様な磁場勾
配をかけることで共鳴周波数ωと空間での試料の位置𝑥とを対応付けることが可能であり、これが 1次元
MRIの原理となっている。
1.2 スピンエコー法
スピンエコー法とは、複数のパルス系列を組み合わせることで FID 信号を回復させる手法である。ま
た、磁場勾配のもとでスピンエコーの減衰を調べることで試料中の拡散の様子を知ることができる。な
お、以下の議論は回転系でのものである[1]。
まず、スピンが感じている磁場が時間不変である場合について考える。ただし、完全な均一磁場では
なく一様な静磁場𝐵0に加えて、スピンは各々の位置によった磁場の不均一さ𝑏𝑗を感じているとする。この
時 FIDの信号は
𝑀(t) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝(−𝑖𝛾𝑏𝑗𝑡)
𝑁
𝑗=1
𝑀(0)
(1.5)
(1.6)
(1.7)
となる。ここで𝑀(𝑡) = 𝑀x + 𝑖𝑀𝑦である。また𝑒𝑥𝑝(−𝑖𝛾𝑏𝑗𝑡)は歳差運動の位相がスピンによって異なるこ
とを示している。次にx軸方向に 180°パルスを照射することを考える。ブロッホ方程式からもわかるよ
うに、このパルスで𝑀𝑥 → 𝑀𝑥、𝑀𝑦 → −𝑀𝑦となるので、今の表記では 180°パルスを打つことは複素共役
をとることに対応する。したがって、180°パルスを打った直後の信号は
𝑀(t) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝(+𝑖𝛾𝑏𝑗𝑡)
𝑁
𝑗=1
𝑀∗(0)
となり、そのあとに時間τだけ経過すると、再び磁場の不均一により位相がずれるため
𝑀(t + τ) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝(−𝑖𝛾𝑏𝑗𝜏)𝑒𝑥𝑝(+𝑖𝛾𝑏𝑗𝑡)
𝑁
𝑗=1
𝑀∗(0)
のように発展する。ここでτ = tのときを考えると
𝑀(2𝜏) = 𝑀∗(0)
となり信号が回復する。この信号をスピンエコーと呼ぶ(図 1.1)。
90°パルス 180°パルス
τ τ
図 1.1:スピンエコー
(1.8)
)
(1.9)
(1.10)
1.2.1 スピンエコーの減衰
前節のように歳差運動の位相がずれていく効果はスピンエコーにより回復することができる。しかし、
粒子が拡散によって磁場の異なる場所に移動してしまうとスピンエコーは信号を回復することができな
い。特に、外部から磁場勾配をかけているときの自己拡散による信号の減衰を考える。
一般に FIDの信号はそれぞれのスピンが感じる磁場の不均一を反映し
𝑀(τ) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝 (−𝑖𝛾 ∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡)
𝑁
𝑗=1
𝑀(0)
のように表すことができる。ここで𝑏𝑗(𝑡)の項が磁場の不均一性を表しており、ここでは粒子の移動に対
応する時間依存性も考慮する。前節と同様に 180°パルスの直後の信号は
𝑀(τ) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝 (+𝑖𝛾 ∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡)
𝑁
𝑗=1
𝑀∗(0)
となる。したがって、スピンエコーとして得られる信号は
𝑀(2τ) =1
𝑁∑ 𝑒𝑥𝑝 (−𝑖𝛾 ∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡
2𝜏
𝜏
) 𝑒𝑥𝑝 (+𝑖𝛾 ∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡𝜏
0
)
𝑁
𝑗=1
𝑀(0)
= ⟨𝑒𝑥𝑝(+𝑖𝜙𝑗)⟩𝑀(0)
となる。
ここで磁場の不均一性の影響については
𝜙𝑗 = −𝛾 [∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡 − ∫ 𝑏𝑗(𝑡)𝑑𝑡𝜏
0
2𝜏
𝜏
]
と位相として表している。粒子の拡散がランダムな運動によるもの、すなわち⟨𝜙𝑗⟩ = 0であると仮定すれ
ば減衰を表わす項は
(1.11)
(1.12)
(1.13)
(1.14)
⟨exp(+𝑖𝜙𝑗)⟩ = ⟨1 + 𝑖𝜙𝑗 −𝜙2
𝑗
2!+ ⋯ ⟩
= 1 −⟨𝜙2
𝑗⟩
2!− ⋯
= exp (−⟨𝜙2
𝑗⟩
2)
のようにガウシアンとして近似的に表すことができる。ここで具体的にz軸方向に正弦波的な磁場変化を
外部から与えることを考える。最後にq → ∞の極限をとることで一様な磁場勾配をかけた状態を再現でき
る。したがって磁場の不均一性が
b(z) =√2
𝑞𝐺 sin (𝑞𝑧)
と表されている場合を考える。この磁場中を粒子が拡散運動で移動していくときの減衰項は
exp (−⟨𝜙2
𝑗⟩
2) = exp [−
𝛾2𝐺2
𝑞4𝐷2{4𝑒𝑥𝑝 (−
𝑞2𝐷𝑡
2) − 𝑒𝑥𝑝(−𝑞2𝐷𝑡) − 3 + 𝑞2𝐷𝑡}]
= exp (−𝛾2𝐺2𝐷𝑡3
12) (𝑞 → ∞)
となる。したがって一様な磁場勾配中の粒子拡散により減衰したスピンエコーは拡散係数を用いて
𝑀(2τ) = 𝑀(0)exp (−𝛾2𝐺2𝐷𝑡3
12)
= 𝑀(0)exp (−2𝛾2𝐺2𝐷𝜏3
3)
となる。ここでt = 2τはエコーが出る時刻、また Δz = z(t) − z(0)としたとき⟨Δ𝑧2⟩ = 2𝐷𝑡によって拡散係
数を定義している。実際には磁場勾配による減衰のほかに先に見たような磁場勾配に依存しない固有の
減衰が考えられるため測定されるスピンエコーは
𝑀(2𝜏) = 𝑀(0)exp (−2𝜏
𝑇2−
2𝛾2𝐺2𝐷𝜏3
3)
のように表される。
(1.15)
(1.16)
(1.17)
(1.18)
(1.19)
2.超流動ヘリウム 3
超伝導現象が BCS理論によって説明されたことにより、電子と同じフェルミオンである 3Heについて
もクーパー対を作ることによる超流動が可能であると考えられていたが、冷凍技術の問題で観測できな
いでいた。しかし、ポメランチュクセルを用いた Osheroffらの実験によって 1972年に 3Heの超流動転
移が初めて観測された。ポメランチュクセルは固液共存状態の 3He を加圧することで冷却する手法を用
いたものである。3He は図 2.1 のような相図を持ち、M 点以下では圧力を上げるほどに温度が下がるこ
とが分かる。Osheroffらの実験では固液共存 3Heの融解曲線状に相転移を示す特徴的な振る舞いが発見
され、その後すぐに行われた NMR の実験[2]によりこの現象は液体 3He 起源であることが分かった(図
2.2)。この実験もポメランチェックセルで行われたため固液共存状態である。また 1.1.2節で述べたよう
に磁場勾配をかけることにより位置の分解を行っている。図 2.2では温度を下げることによる固体磁化率
の上昇(b、c)、液体 3He超流動転移による周波数シフト(e)、AB転移による磁化率の減少(f)などが確認で
きる。この実験結果は Leggettによりスピン三重項状態であるとした理論で見事に説明された。
図 2.1:3Heの相図。A = (2.49mK,3.4338MPa)、B=(1.932mK,34.358MPa)、
S=(0.931mK,3.439.52MPa)、PCP=(2.273mK,2.122MPa)、M=(318mK,2.93175MPa)
C=(3.32,0.116MPa)[3]
2.1 秩序変数
一般に無秩序な状態から秩序のある状態に相転移する相転移点以下で値を持ち、転移点以上では値が
ゼロであるような物理量を秩序変数と呼ぶ。ここでは超流動 3Heの秩序変数についてみていこう。
超流動 3He のクーパー対にはスピンのアップ・ダウンの組み合わせにより 4種類のものが考えられ、
それぞれのクーパー対の振幅をまとめた次のような秩序変数を考える。↑はアップスピン、↓はダウン
スピンを表すとする。
��(��) = (𝛹↑↑ 𝛹↑↓
𝛹↓↑ 𝛹↓↓)
この行列をパウリ行列で展開する。この展開では超流動 3He がスピン三重項状態であることから非等方
性を表す部分のみを使って
𝛹𝛼𝛽 = 𝑖 ∑(𝜎𝑗𝜎𝑦)𝛼𝛽
𝑑𝑗(��)
𝑗
とする。ここで𝑑(��)は展開係数であり、 kは波数空間での単位ベクトルである。これを改めて行列表示
図 2.2.各温度における NMRスペクトル。磁場勾配により位置分解を行っている。
破線は全量が液体のときのスペクトル[2]。
(2.1)
(2.2)
で書くと
��(��) = (−𝑑𝑥 + 𝑖𝑑𝑦 𝑑𝑧
𝑑𝑧 𝑑𝑥 + 𝑖𝑑𝑦)
となり、これが秩序変数の一般的な形である。なお、𝑑(��)と kの関係を次のように書く。
𝑑𝑖(��) = ∑ 𝐴𝑖𝜌
𝜌
��𝜌
ここで𝐴𝑖𝜌は二次の複素行列である。𝐴𝑖𝜌の形を具体的に仮定することで様々な秩序状態を調べることがで
きる。しかし、まずは𝑑(��)についての重要な性質を確認しておく。
2.1.1 秩序変数の性質
ここでは前節で定義した秩序変数の性質を調べ、𝑑(��)の意味するところを確認する。
まず、秩序変数の振幅は
𝛹𝛹+ =1
2𝑇𝑟(𝛹𝛹+) = |𝑑(��)|
2
となるので、𝑑(��)はフェルミ面上の kの点でのクーパー対の凝縮振幅を表すことがわかる。
次に、スピン𝑆との関係を調べる。まず、秩序変数をここでは
𝛹 = 𝛹↑↑|1,1⟩ + √2𝛹↑↓|1,0⟩ + 𝛹↓↓|1, −1⟩
と書く。ここで|1,1⟩、|1,0⟩、|1, −1⟩はそれぞれ|↑↑⟩、|↑↓ +↓↑⟩、|↓↓⟩の状態に対応している。また𝑆± = 𝑆𝑥 ± 𝑖𝑆𝑦
および𝑑± = 𝑑𝑥 ± 𝑖𝑑𝑦を用いて
𝑑 ∙ 𝑆 =1
2(𝑑+𝑆− + 𝑑−𝑆+) + 𝑑𝑧𝑆𝑧
書けることに注目する。これらの演算子を用いると
𝑆+|𝑆, 𝑚𝑠⟩ = 𝑐|𝑆, 𝑚𝑠 + 1⟩
𝑆−|𝑆, 𝑚𝑠 + 1⟩ = 𝑐|𝑆, 𝑚𝑠⟩
である。ここで、c = √𝑆(𝑆 + 1) − 𝑚𝑠(𝑚𝑠 + 1)とおいている。これらの関係式を用いると(𝑑 ∙ 𝑆)𝛹 = 0であ
(2.3)
(2.4)
(2.5)
(2.6)
(2.7)
(2.8)
ることが容易にわかる。これが任意の秩序変数について成立するためフェルミ面上の任意の点で𝑑 ⊥ 𝑆で
あることが結論される。以下では、実際に秩序変数を具体的に設定し超流動 3He でどのような相が考え
られるかを見ていく。
2.1.2 ABM状態
Anderson、Brinkman、Morel によって提案された ABM 状態はすべての波数において𝑑(��)が同じ方
向を向いている状態、つまり𝑑(��) = 𝑑(��)��という状態である。ここで��は波数ベクトルとは独立であり
𝑑(��)は複素数である。このとき行列𝐴𝑖𝜌は
𝐴𝑖𝜌 = √3
2 Δ (��)
𝑖(��1 + 𝑖��2)𝜌
となる。ここで 1n、 2n
は波数空間の単位ベクトルであり��1 ∙ ��2 = 0、��1 × ��2 = 𝑙、を満たしている。𝑙は
クーパー対の角運動量を表している単位ベクトルである。もう少し具体的に、秩序変数が x軸方向を向
いている場合�� = (1,0,0)を考える。また、��1 = (1,0,0)、��2 = (0,1,0)とする。このとき行列の各要素を考
えると
𝐴 = √3
2 Δ (
1 𝑖 00 0 00 0 0
)
となり xd は波数ベクトルにより
𝑑𝑥 = √3
2 Δ (𝑘1 + 𝑖𝑘2)
と表現される。したがってこの場合の秩序変数は
��(��) = √3
2 Δ (
−𝑘1 − 𝑖𝑘2 00 𝑘1 + 𝑖𝑘2
)
となる。これにより ABM状態はスピンの方向がそろったクーパー対しか持たないことが分かる。これを
Equal Spin Pairingと呼ぶ。さらに
(2.9)
(2.10)
(2.11)
(2.12)
𝑑𝑥 = √3
2 Δ (𝑘1 + 𝑖𝑘2) = √
3
2 Δ |��|𝑠𝑖𝑛𝜃 𝑒𝑥𝑝(𝑖𝜙)
と書けることからクーパー対の凝縮振幅について
|𝑑(��)|2
=3
2 Δ2𝑠𝑖𝑛2𝜃
という関係が成立する。ここでθは��3方向からの偏角であるが、これにより ABM状態には凝縮振幅がゼ
ロになる方向(ノード)が存在することが分かる。超流動 3He の A 相はこの ABM 状態であることが分か
っている。
2.1.3 BW状態
超流動 3Heの B相は次の秩序変数で記述される BW状態であることが分かっている。
𝐴𝑖𝜌 = Δ𝑒𝑖𝜙𝑅𝑖𝜌
ここで iR は回転行列であり、ABM状態と同様にクーパー対の凝縮振幅を計算すると
|𝑑(��)|2
= (Δ𝑒𝑖𝜙𝑅𝑖𝜌)(Δ𝑒𝑖𝜙𝑅𝑖𝜌)+
= Δ2
となり、BW状態の場合は等方的な凝縮振幅を持っておりノードは存在しないことが分かる。
(2.13)
(2.14)
(2.15)
(2.16)
2.2 周波数シフト[4]
次に 3Heの間に働く dipole相互作用について記す。dipole相互作用はスピンをσ(𝑟)として
𝑓𝐷 =(𝛾ℏ)2
8∫ 𝑑𝑟3 ∫ 𝑑��3 (
𝜎(𝑟) ∙ 𝜎(��)
|𝑟 − ��|3 − 3
(𝑟 − ��) ∙ 𝜎(𝑟) (𝑟 − ��) ∙ 𝜎(��)
|𝑟 − ��|5 )
となり秩序変数を用いると
𝑓𝐷 =1
5𝑔𝐷(𝐴𝜇𝜇
∗𝐴𝑖𝑖 + 𝐴𝜇𝑖∗𝐴𝑖𝜇)
となる。
��𝟏 ��𝟐
図 3.3:ABM および BW 状態でのギャップ構造。ABM 状態では北極と南極に
ノードが存在する。一方、BW状態では等方的な構造を持つ。
(2.17)
(2.18)
ここで秩序変数として ABMおよび BW状態のものを用いて具体的に計算すると
𝑓𝐴𝐵𝑀𝐷
= −1
5𝑔𝐷Δ𝐴
2(𝑇)(𝑑 ∙ 𝑙)2
= −1
2𝜒𝐴 (
Ω𝐴
𝛾)
2
(𝑑 ∙ 𝑙)2
𝑓𝐵𝑊𝐷
=8
5𝑔𝐷Δ𝐵
2(𝑇) (𝑐𝑜𝑠𝜃 +1
4)
2
=8
15𝜒𝐵 (
Ω𝐵
𝛾)
2
(𝑐𝑜𝑠𝜃 +1
4)
2
となる。ここでθは適当な軸周りの回転角である。これにより ABM状態では𝑑 ∥ 𝑙となるような状態、ま
た BW状態ではcosθ = −1
4となる角度がエネルギーを最小にすることが分かる。ここで
Ω𝐴 =2
5𝑔𝐷Δ𝐴
2(𝑇)𝛾2
𝜒𝐴
Ω𝐵 = 3𝑔𝐷Δ𝐵2(𝑇)
𝛾2
𝜒𝐵
を dipole周波数と呼び、次に見るように超流動 3Heの共鳴周波数における周波数シフトと密接な関わり
がある。ここで𝜒𝐴、𝜒𝐵は磁化率であり、これについては次の節で扱う。
それでは dipole 相互作用が働くときにスピンが従う運動方程式をみていこう。1.1 節ではゼーマンエ
ネルギーのみを考えブロッホ方程式を導いた。ここでは、さらにクーパー対を作る粒子間の dipole 相互
作用も考えた Leggettハミルトニアン
𝑓𝐿 = 𝑓𝑚 + 𝑓𝐷
を用いて超流動 3Heの運動方程式を求める。ここで𝑓𝐷は dipole相互作用、𝑓𝑚は全体の磁場のエネルギー
でゼーマンエネルギーと自己エネルギーにより
𝑓𝑚 = −𝛾ℏ𝑆 ∙ �� +1
2(𝛾ℏ)2𝑆𝜒−1𝑆
となる。自己エネルギーは平衡状態で適切な磁化を持つように導入されている。
(2.19)
(2.20)
(2.21)
(2.22)
Leggettハミルトニアンを用いてハイゼンベルグ方程式を考えることにより、スピン𝑆と𝑑(��)に対する連
立の運動方程式
𝑑𝑆
𝑑𝑡= γ𝑆 × �� + 𝑅𝐷
𝑑
𝑑𝑡𝑑(��) = 𝛾𝑑(��) × (�� −
𝛾ℏ
𝜒𝑆)
𝑅𝐷 = −
1
ℏ∫
𝑑Ω
4𝜋(𝑑(��) ×
𝜕𝑓𝐷{��(��)}
𝜕𝑑(��))
が得られる。ここで𝑅𝐷 は dipoleトルクと呼ばれ ABMおよび BW状態ではそれぞれ
��𝐴𝐵𝑀𝐷 =
𝜒𝑁
𝛾Ω𝐴
2(𝑇)(𝑑 ∙ 𝑙)(𝑑 × 𝑙)
��𝐵𝑊𝐷 = −
4
15
𝜒𝐵
𝛾Ω𝐵
2(𝑇)sinθ(1 + cos𝜃)
となる。ABMおよび BW状態についてそれぞれの dipoleトルクを用いて Leggett方程式を解くと ABM
状態では横共鳴の共鳴周波数ωに対して
𝜔2 = 𝜔𝐿2 + Ω𝐴
2(𝑇)
という関係が導かれる。ここで𝜔𝐿はラーモア周波数である。したがって𝜔𝐿 ≫ Ω𝐴となる状況においては
ω ≅ 𝜔𝐿 +Ω𝐴
2
2𝜔𝐿
と近似でき、これより測定された周波数のラーモア周波数からのずれ
δω = ω − 𝜔𝐿 =Ω𝐴
2
2ω𝐿
を周波数シフトとして観測することができる。このように dipole トルクが働くことにより周波数シフト
が起こることが分かる。周波数シフトはクーパー対の形成を示す重要な量である。
(2.23)
(2.24)
(2.25)
(2.26)
(2.27)
2.3 磁化率[5]
まずノーマル状態の液体 3He の磁化率を考える。液体 3Heはフェルミ液体であるので、3He原子単体
ではなく周囲の 3He を身にまとった準粒子として考え、フェルミ気体についての議論を応用していく。
すなわち液体 3Heを議論する際には 3He原子の質量𝑚ではく準粒子の質量𝑚∗を用いる。また、準粒子間
の相互作用も考えることにする。この相互作用があるとき、準粒子一つのエネルギーをε(𝑝)、スピンを𝑆(𝑝)
とすると全体のエネルギーが
E = ∑ ε(𝑝)𝛿𝑛(𝑝) +1
2∑{𝑓(𝑝, ��)𝛿𝑛(𝑝)𝛿𝑛(��) + 𝑔(𝑝, ��)𝑆(𝑝) ∙ 𝑆(��)}
𝑝��𝑝
となる。このように相互作用はスピンに依存する部分としない部分に分けて考えるが、フェルミ縮退し
ている場合運動量はフェルミ運動量になるため相互作用の大きさは実質的に𝑝と��のなす角𝜃のみの関数
となる。そこでこれらをルジャンドル多項式で展開する。
(𝑑𝑛
𝑑휀 ) 𝑓(𝑝, ��) = ∑ 𝐹𝑙𝑃𝑙(𝑐𝑜𝑠𝜃)
𝑙
(𝑑𝑛
𝑑휀) 𝑔(𝑝, ��) = ∑ 𝑍𝑙𝑃𝑙(𝑐𝑜𝑠𝜃)
𝑙
展開係数𝐹𝑙、𝑍𝑙をランダウパラメータと呼び、フェルミ液体補正を考える際の重要な量である。ここで
(𝑑𝑛
𝑑휀) =
3𝑁𝑚
𝑝𝐹2
はフェルミ面上での状態密度であり、フェルミ気体での磁化率は状態密度を用いて
χ =1
4(𝛾ℏ)2 (
𝑑𝑛
𝑑휀)
である。したがって、フェルミ液体補正を考えるとノーマル状態での液体 3Heの磁化率は
𝜒𝑁 =𝑚∗
𝑚𝜒 (1 +
𝑍𝑙
4)
−1
となる。これよりフェルミ縮退している場合の磁化率は温度依存しないことが分かる。
(2.28)
(2.29)
(2.30)
(2.31)
(2.32)
次に、超流動状態での磁化率について考える。ABM状態ははじめにみたように異方的であり、したが
って磁化率も異方性を持つ。フェルミ面上である方向を向いている𝑑により特徴づけられる状態を考える
とその磁化率は
𝜒𝐴𝑖𝑗 = 𝜒𝑁(𝛿𝑖𝑗 − 𝑑𝑖𝑑𝑗) + 𝑑𝑖𝑑𝑗 {(1 +
1
4𝑍0) 𝑌(𝑇) (1 +
1
4𝑍0𝑌(𝑇))⁄ }
となる。ここで𝑌(𝑇)は芳田関数であり準粒子の励起割合を表す関数である。しかし、実際はゼーマンエ
ネルギー−γℏ𝑆 ∙ ��により𝑆 ∥ ��となる状態になり、𝑑 ⊥ 𝑆であることから𝑑 ⊥ ��の状態が実現する。したがっ
て磁場の方向に z軸をとると𝑑3 = 0なので磁化率は
𝜒𝐴33 = 𝜒𝑁(𝛿33 − 𝑑3𝑑3) + 𝑑3𝑑3 {(1 +
1
4𝑍0) 𝑌(𝑇) (1 +
1
4𝑍0𝑌(𝑇))⁄ }
= 𝜒𝑁
となりノーマルの磁化率と等しくなる。これは ABM状態が Equal Spin Pairingの状態であることに対
応している。一方で BW状態での磁化率は
𝜒𝐵 = 𝜒𝑁
(1 +14
𝑍0) [23
+13
𝑌(𝑇)]
1 +14
𝑍0 [23
+13
𝑌(𝑇)]
となる。したがって BW状態での磁化率は温度低下とともに低下することが分かる。
また固体 3Heの磁化率はキュリー・ワイス則にしたがって
𝜒𝑠𝑜𝑙𝑖𝑑 =𝐶
𝑇 − 𝜃𝑤
のように低温ほど大きくなっていく。𝜃𝑤はワイス温度である。
(2.33)
(2.34)
(2.35)
(2.36)
2.4 サイズ効果
ここでは 3He を制限空間に閉じ込めた際のサイズ効果、特に転移温度の低下について考えていく。特
に今回は、制限空間として細長い円筒状の空間を取り扱う。
まず、凝縮振幅についてのギャップ方程式は秩序変数についての方程式として
𝐴𝑖𝜌(𝑟) = ∑ ∫ 𝑑3�� 𝐾𝑗𝜌(𝑟, ��)𝐴𝑖𝑗(��)
𝑗
となる。ここで 𝐾𝑗𝜌(𝑟, ��)はポテンシャル項で、粒子同士の相互作用と円筒の壁が作るポテンシャルという
二つの効果を表しているものである。この項は非常に複雑な形になるが、転移温度の低下というサイズ
効果を生じさせるポイントはこれらの式にあらわれる空間積分の範囲が容器のサイズによって有限に抑
えられるというところにある。積分区間の制限と容器壁面での境界条件により転移温度が求められる。
まずは境界条件として diffusiveな場合について考える。このような境界条件は壁では秩序変数が完全
にゼロになることに対応する(図 2.4)。さらに円筒の半径が十分大きく、ギャップ方程式において、秩序
変数の変化が 𝐾𝑗𝜌(𝑟, ��)よりもゆっくりと変化している状況を考える。このような Ginzbrug-Landauの極
限においてはギャップ方程式を次のように近似することができる[6]。
ln𝑇𝑐
0
𝑇𝑐 𝐴𝑖𝜌(𝑟) +
3
5𝜉𝑠
2 ∑(𝛿𝑗𝜌∇2 + 2∇𝑗∇𝜌)𝐴𝑗𝜌(𝑟)
𝑗
= 0
𝜉𝑠 = 7𝑣𝐹2휁(3) [48𝜋2(𝑇𝑐
0)2
]⁄
この方程式を diffusiveな境界条件
𝐴𝑖𝜌(𝑟) = 0
のもとに解くことで細長い半径 Rの円筒中での 3Heの超流動転移温度が
𝑇𝑐 = 𝑇𝑐0 𝑒𝑥𝑝 (−
3
5 𝜉𝑠
2𝛼2
𝑅2 )
であることを導くことができる。ここでα = 2.4048。これはゼロ次のベッセル関数の最初のゼロ点である。
ただし、半径が小さくなっていくとこの近似は成り立たない。図 2.5に近似計算の結果と厳密な数値計算
の結果を示す。数値計算の結果から超流動転移が起こらなくなる臨界サイズが存在することが分かる。
一方で、境界条件として specularな場合には超流動転移温度はバルクの場合とまったく同じになる。
(2.37)
(2.38)
(2.39)
(2.40)
【参考文献】
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図 2.4:diffusive な壁。壁に沿った成
分はキャンセルされゼロになる。
[6]
図 2.5:diffusive な境界での転移温度と半径Rの関係。点線は GL
近似、実践は数値計算の結果[6]。