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1. はじめに 海底ケーブルが世界で初めて商用化されたのは, 1851 年に英仏間のドーバー海峡に敷設されたもので あるが,敷設した翌日には不通になったと言われ,と ても商用と呼べるほどのものではなかった.当時のケ ーブルは, GP (ガタパーチャというゴム)絶縁海底電 線と呼ばれるもので,銅線を GP で絶縁しただけで何 ら保護被覆ないものであったため,不通となった原因 は,沿岸の漁師が珍しい海草と勘違いして切り取った とか,電線内に金があると思い込んで切り取ったから ともいわれている. 日本の海底ケーブルの歴史は, 1871 年,デンマーク の大北電信株式会社が長崎・上海間に敷設した国際海 底ケーブル,更に翌年の 1872 年,明治政府が関門海 峡に敷設した国内海底ケーブルに始まるが,いずれも 欧米技術者主導で行われたもので,本格的な国内技術 の導入は, 1906 年のケーブル敷設船「小笠原丸(1,404 ㌧)」の建造や,1935 年の国産海底ケーブルの製造を 待つことになる. 本稿では,光海底ケーブルシステムの概要に触れ, ケーブル敷設船による敷設技術について紹介する. 2. 光海底ケーブルシステム 2.1 光海底ケーブル 現在,世界の光海底ケーブルは,総延長が 100 km を超えるといわれており,国際通信の 99%以上が 光海底ケーブルを通じて提供されている.光海底ケー ブルは,光ファイバを通信媒体とする点で陸上の光ケ ーブルと基本的な概念は変わらないが,太平洋横断の ような長距離(10,000km),深海(8,000m)での敷設 を前提としていることや 25 年以上の長期安定性を確 保するという点で陸上のシステム以上に高度な信頼性 が求められる.また建設工事においては,漁業をはじ めとした社会活動や波浪などの厳しい自然環境を考慮 した設計,施工に配慮する必要がある. 光ファイバを用いた海底ケーブルは,大きく有中継 用と無中継用に分かれる.有中継用の光海底ケーブル は,中継器に実装できるシステム数に制限があるため, 同一ケーブル内に収容される光ファイバは最大で 16 心となっている.深海では水圧が 78MPa にも及ぶた め,光ファイバを防護する部材として 3 分割鉄個片が 縦添えされ,周囲にハガネ線を撚ることで敷設や引き 上げ時の張力に耐える構造となっている.光ファイバ 3 分割鉄個片の間,およびハガネ線間には水走り防 止材を充填し,ケーブル切断時の海水の浸入を防止し ている.ハガネ線の周囲を囲む銅パイプは,中継器に 電気を供給する給電路の役割をもつとともに,撚り合 わせたハガネ線を保持し内部を密閉することにより, 光ファイバに有害な水素ガスの侵入を阻止する機能を 有している.銅パイプは,周囲をポリエチレン被覆に より絶縁することで電気的に保護され,LWLight Weight)ケーブルとなる. (提供:㈱ OCC) 1 有中継用光海底ケーブルの構造(LW一方,無中継用の光海底ケーブルは,比較的近距離 にある離島の通信網整備を目的としたもので,できる だけ多くの光ファイバを同一ケーブル内に収容できる よう,4 心テープ心線をスロッドロッドに収容する構 *原稿受付 平成 30 7 31 日. ** NTT ワールドエンジニアリングマリン株式会社 光海底ケーブル敷設技術の紹介 小 森   強 ** Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第6 号(2018) ― 102 ―

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Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

1. はじめに

海底ケーブルが世界で初めて商用化されたのは,

1851 年に英仏間のドーバー海峡に敷設されたもので

あるが,敷設した翌日には不通になったと言われ,と

ても商用と呼べるほどのものではなかった.当時のケ

ーブルは,GP(ガタパーチャというゴム)絶縁海底電

線と呼ばれるもので,銅線をGP で絶縁しただけで何

ら保護被覆ないものであったため,不通となった原因

は,沿岸の漁師が珍しい海草と勘違いして切り取った

とか,電線内に金があると思い込んで切り取ったから

ともいわれている. 日本の海底ケーブルの歴史は,1871 年,デンマーク

の大北電信株式会社が長崎・上海間に敷設した国際海

底ケーブル,更に翌年の 1872 年,明治政府が関門海

峡に敷設した国内海底ケーブルに始まるが,いずれも

欧米技術者主導で行われたもので,本格的な国内技術

の導入は,1906 年のケーブル敷設船「小笠原丸(1,404㌧)」の建造や,1935 年の国産海底ケーブルの製造を

待つことになる.

本稿では,光海底ケーブルシステムの概要に触れ,

ケーブル敷設船による敷設技術について紹介する.

2. 光海底ケーブルシステム

2.1 光海底ケーブル 現在,世界の光海底ケーブルは,総延長が 100 万

km を超えるといわれており,国際通信の 99%以上が

光海底ケーブルを通じて提供されている.光海底ケー

ブルは,光ファイバを通信媒体とする点で陸上の光ケ

ーブルと基本的な概念は変わらないが,太平洋横断の

ような長距離(10,000km),深海(8,000m)での敷設

を前提としていることや 25 年以上の長期安定性を確

保するという点で陸上のシステム以上に高度な信頼性

が求められる.また建設工事においては,漁業をはじ

めとした社会活動や波浪などの厳しい自然環境を考慮

した設計,施工に配慮する必要がある. 光ファイバを用いた海底ケーブルは,大きく有中継

用と無中継用に分かれる.有中継用の光海底ケーブル

は,中継器に実装できるシステム数に制限があるため,

同一ケーブル内に収容される光ファイバは最大で 16心となっている.深海では水圧が 78MPa にも及ぶた

め,光ファイバを防護する部材として 3分割鉄個片が

縦添えされ,周囲にハガネ線を撚ることで敷設や引き

上げ時の張力に耐える構造となっている.光ファイバ

と 3分割鉄個片の間,およびハガネ線間には水走り防

止材を充填し,ケーブル切断時の海水の浸入を防止し

ている.ハガネ線の周囲を囲む銅パイプは,中継器に

電気を供給する給電路の役割をもつとともに,撚り合

わせたハガネ線を保持し内部を密閉することにより,

光ファイバに有害な水素ガスの侵入を阻止する機能を

有している.銅パイプは,周囲をポリエチレン被覆に

より絶縁することで電気的に保護され,LW(Light Weight)ケーブルとなる.

(提供:㈱ OCC)

図 1 有中継用光海底ケーブルの構造(LW)

一方,無中継用の光海底ケーブルは,比較的近距離

にある離島の通信網整備を目的としたもので,できる

だけ多くの光ファイバを同一ケーブル内に収容できる

よう,4 心テープ心線をスロッドロッドに収容する構

光海底ケーブル敷設技術の紹介*

小森 強**

*原稿受付 平成 30年 7月 31日. **NTTワールドエンジニアリングマリン株式会社

光海底ケーブル敷設技術の紹介*

小 森   強**

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 102 ―

Page 2: 0¿ /¡b) Ó - JST

和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

造となっており,国内では最大で 100 心のケーブルが

導入されている.ただし,収容スペースが比較的大き

くなるため耐水圧の観点から適用は水深 3,000m まで

となっている. 光海底ケーブルは,陸に近い浅瀬ほど錨や漁労など

により損傷を受けやすいため,ポリエチレン被覆の周

囲を鉄線で一重(SA: Single Armored)または二重

(DA: Double Armored)に保護した外装タイプのケ

ーブル構造としている.ケーブル種別によって適用最

大水深は異なるが,一例をあげると,外部からの影響

を最も受けやすい陸揚げ部から水深200mまでの浅海

域に DA,浅海域ほどではないが漁業活動等により損

傷を受ける可能性のある水深 1,500~2,000m までの

海域に SA,それよりも深い深海域に LW の光海底ケ

ーブルを採用するなどとしている.

(提供:㈱ OCC)

図 2 外装ケーブルの外観(DA)

2.2 海底中継器 海底中継器は光ファイバ内で減衰した光信号を増幅

するもので,一般に 40~100km 間隔(海底システム

により異なる)で光海底ケーブルに接続されている.

海底ケーブルと同様,最大水深 8,000m の深海に設置

されるため,高い信頼性と耐水圧性が要求される.

(提供:NEC ㈱) 図 3 海底中継器

2.3 海中分岐装置 海底ケーブルシステムは,導入当初 point-to-point

で 2 局間をつなげていたが,3 局以上を効率的につな

ぐネットワークを構築するため,ケーブル内に複数実

装されている光ファイバを海中で分岐させる海中分岐

装置が導入されている.海中分岐装置は,深海におい

ても海底ケーブルを絡ませることなく確実に海底に設

置しなければならず,高度な敷設技術が要求される.

(提供:NEC ㈱)

図 4 海中分岐装置

2.4 伝送装置類 海底ケーブルが陸揚げされる陸揚げ局には,光信号

を伝送するための光端局装置や,海底中継器を作動さ

せるために必要な電力を供給する給電装置などが設置

されており,これらの装置と海中設備を総称して光海

底ケーブルシステムという.

(提供:NEC ㈱)

図 5 光端局装置(左)と給電装置(右)

3. ケーブル敷設船の特徴

3.1 ケーブル敷設船 国内に初めて導入された海底ケーブル敷設船は英国

製の「沖縄丸」(1896 年,2,278 ㌧),国産では「小笠

原丸」(1906 年,1,404 ㌧)であるが,当時は推進用

プロペラにケーブルやロープを絡ませないよう船首か

らのみ敷設する方式であり,近年に至るまで修理工事

や洋上接続などの停船作業を行う場合には船首作業方

式が採用されてきた.ケーブル敷設船の操船能力向上

に伴い定点保持・ルート保持能力が高まると,次第に

船首シーブは廃止され,新たに建造される敷設船はす

べての作業を船尾で行う方式が主流となってきた.

ケーブル敷設船は,海底ケーブルを敷設するために

必要なケーブルタンクやシーブ,ケーブルエンジンな

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 103 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介 864

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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

どを装備しているのが特徴である.大型の船になると

数千kmの海底ケーブルを一度に搭載することが可能

となっている.

1999 年に就航した当社のケーブル敷設船

「SUBARU」(総トン数 9,557 ㌧)は典型的な船尾作

業方式となっており,海底ケーブル敷設工事のための

ケーブルタンクやケーブルエンジンはもとより,海底

ケーブルを敷設と同時に埋設する鋤式埋設機やウォー

タージェットによる後埋設機能をもった ROV(Remotely Operated Vehicle)などを装備している.

【SUBARU】 ・全長×幅×深さ:124m×21m×10m ・最大貨載喫水:7m

図 6 ケーブル敷設船「SUBARU」

また,2017 年に就航した当社のケーブル敷設船「き

ずな」(総トン数 8,598 ㌧)も SUBARU と同様に船

尾作業方式となっているが,海底ケーブル敷設作業に

加え,災害時における通信インフラの迅速な復旧を目

的とした災害対応機能も備えるなど,汎用性を高めて

多目的に作業を行えるものとなっている.

【きずな】

・全長×幅×深さ:109m×20m×12m ・最大貨載喫水:6m

図 7 ケーブル敷設船「きずな」

3.2 ケーブルタンク ケーブルタンクはケーブル敷設船の中央部に配置さ

れ,海底ケーブルを積み込んだ際に隙間ができないよ

う円筒形の形状となっている.これにより荒天時に船

が傾いても荷崩れすることなく安定的に海底ケーブル

を搭載することができ,安全かつ確実にケーブル敷設

を行うことができる.SUBARU の場合,大型のケー

ブルタンク 2 基(2,620 ㎥)と予備タンク(150 ㎥)

で合計 2,770㎥の容量を確保し,最大で約 4,000kmの

海底ケーブルを一度に搭載することが可能となってい

る.

図 8 ケーブルタンクに積み込まれた光海底ケーブル

3.3 シーブ 海底ケーブルは,船内のケーブルタンクから船尾の

「シーブ」と呼ばれる滑車を通って海底に敷設される.

シーブの形状は平型とV型とあり,張力が印加されて

いる状態で摩擦によるケーブル損傷を回避するためい

ずれも回転する構造となっている.ほとんどの海底ケ

ーブルは最小曲げ半径(張力下)が 1.5mとなってい

ることから,船内の海底ケーブルが通過する曲り部は

シーブを含めて半径 1.5m以上となるように設計され

ている.SUBARU は船尾に半径 1.6mの平型シーブ 1基とV型シーブ 2基の計 3 基を備えており,海底ケー

ブルの多様な作業に対応できる構造となっている.

図 9 平型シーブを通過中の海中機器

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 104 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介865

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和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

3.4 DPS 海底ケーブルを決められた位置に正確に敷設するた

めには,まず船を計画ルートに沿って正確に航行させ

なければならない.近年のコンピュータ制御技術の進

歩により,海上作業などの特殊用途に多数導入されて

いるのがDPS(Dynamic Positioning System)と呼

ばれる自動船位保持装置であり,近年のケーブル敷設

船には標準的に導入されている.DPS の導入によって,

かつては経験と熟練に頼っていた敷設中の操船精度が

飛躍的に向上し,船舶の安全航行にも大きく貢献する

ことになった.

図 10 DPS操作盤

3.5 スラスタ 潮流,風,波などの外力に対して高度な船位保持を

可能としているのは,DPS によって制御される推進シ

ステムである.SUBARU は船尾にアジマススラスタ

(定格出力 2,700kw) 2 基と船首にトンネルスラスタ

(同 1,600kw)1 基および格納式のアジマススラスタ

(同 1,192kw)1 基を装備しており,いずれも発電機

(同 2,800kw)4 基による電力を動力源とし,負荷変

動への対応が容易な電気推進システムとなっている.

図 11 アジマススラスタ(SUBARU 船尾)

4. ケーブル敷設用機器

4.1 ケーブルエンジン 海底ケーブルを海底面に沿って正確に敷設するには,

海底地形に応じてケーブルを精緻に繰り出さなければ

ならない.また,ケーブル修理の際などは,海底から

ケーブルを損傷しないように船上に巻き上げ回収しな

ければならない.海底ケーブルをこれらの用途に合わ

せて適切に扱うために,敷設船にはリニアケーブルエ

ンジン(LCE: Linear Cable Engine)やドラムケー

ブルエンジン(DCE: Drum Cable Engine)が装備

されている.

4.1.1 リニアケーブルエンジン(LCE) リニアケーブルエンジンは,直線状に並んだ上下の

タイヤに海底ケーブルを挟み込み,タイヤを回転させ

てケーブルを繰り出すものである.水深が深くなる程

海底ケーブルは自重で船外に繰り出されてしまうため,

タイヤで挟み込むことで繰り出し速度を制御する仕組

みとなっている.SUBARU のLCE には 21 対のタイ

ヤが装備され,変化する敷設スピードに対応可能とな

っている.

図 12 リニア式ケーブルエンジン(LCE)

4.1.2 ドラムケーブルエンジン(DCE)

ドラムケーブルエンジンは,金属ドラムに海底ケー

ブルを巻き付け,ドラムを回転させることでケーブル

の巻き上げや繰り出しを行うものである.SUBARUは最大 40 トンの張力に対応できる 2基のDCE(直径

4m)を装備し,主にケーブル巻き上げを必要とする

修理工事や撤去工事などで DCE を用いている.また

LCE を用いたケーブル敷設においても,洋上でケーブ

ル接続を行う場合など2本のケーブルを同時に扱う場

合には DCE の使用が必須となり,様々な場面で使用

する機会が多い.

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 105 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介 866

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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

図 13 ドラム式ケーブルエンジン(DCE)

4.2 鋤式埋設機 鋤式埋設機は,敷設船から牽引ワイヤーで曳航しな

がらケーブル敷設と同時に海底面下にケーブルを埋設

していくものである.鋤の先端から繰り出されるケー

ブルは底質によって 1~2m の深さに埋設されるのが

一般的であるが,海域によっては 3m の埋設が要求さ

れる場合もある.通常は 0.6~1.0km/h のスピードで

敷設同時埋設を行うが,できるだけスピードを落とさ

ず,より深い埋設深度を確保するために,鋤状の埋設

ブレードの前部にウォータージェットシステムを付加

し,土砂を流動化させて埋設し易い環境をつくり,効

率化を図る工法も採用されている.近年では漁業活動

の大型化に伴い 1,000m を超える深海においても底引

き網漁が展開されているため,そのような海域におい

ては水深 2,000m まで海底ケーブルの埋設が要求され

る場合もある.このためSUBARU に搭載されている

鋤式埋設機は水深 2,000m まで対応可能となっている.

図 14 鋤式埋設機

4.3 ROV(Remotely Operated Vehicle) ROV は,ウォータージェットシステムやソナーな

どを備え,アンビリカルケーブルを通じて船上から送

られる電力や制御信号によって水中を自在に移動する

ことができ,海底ケーブルの交差点など鋤式埋設機が

使用できない箇所やケーブル修理の際に、海底面に置

かれた状態のケーブルを後埋設するものである.また,

埋設作業以外にマニピュレーターによる海底ケーブル

の切断やケーブルグリッパーの取り付けなどを行うこ

とができ,海底ケーブル修理作業の効率化に大きく貢

献している.SUBARU のROV は水深 3,000mまで対

応可能となっており,ケーブルの最大埋設深度は 3mとなっている.

図 15 ROV

5. ケーブル敷設技術

海底ケーブルシステムは,サービス開始から 25 年

間の長期運用を前提としていることから,設置される

海域の状況を海洋調査により正確に把握し,ルート設

計や製造に反映させることが重要となる. 敷設工事を開始する前に,設計や許認可取得などの

事前準備工程を確実に進め,これらの結果を反映して

ようやく海底ケーブルや海底中継器等の製造が開始さ

れる.海底中継器は,製造工場において所定の間隔で

海底ケーブルと接続され,数百kmから時には数千kmを一本ものとして敷設船に積み込むことになる. 海底ケーブル敷設の一般的な流れとして,有中継光

海底ケーブルシステムを例とし,ケーブル陸揚げ,鋤

式埋設機を使った敷設同時埋設,ケーブル敷設,ケー

ブル接続などについて述べる.

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 106 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介867

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和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -6- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

図 16 海底ケーブル建設の流れ

5.1ルート設計および海洋調査 海底には通信ケーブル,電力ケーブルおよび送水管

などの長尺物のみならず,海洋観測装置や漁礁など,

数多くの人工構造物が設置されている.また,海底の

地形や地質は海域によって大きく異なるため,海底ケ

ーブルの敷設に際しては,あらゆる情報を入手し長期

にわたり安定した状態が維持できるよう最適なルート

を選定しなければならない.

海底ケーブルは,海底の起伏に沿って宙吊り(サス

ペンション)とならないよう敷設しなければならない

ため,水平距離に対して若干長めとなるよう設計され

ている.この長めに敷設するケーブル量をスラックと

いい,標準的な太平洋横断海底ケーブルシステムでは

平均 2%程度,つまり水平距離で 8,000km とすると,

160km がケーブルスラックとなる.このスラック量を

詳細に反映したものが,製造や敷設において指標とな

るルートポジションリスト(RPL:Route Position List)やケーブル直線図(SLD:Straight Line Diagram)と呼ばれるものであり,これらを完成させ

るための必要なデータが海洋調査結果により提供され

る.

RPL は,海底ケーブルや海底中継器が設置される場

所を詳細に示した一覧表で,緯度・経度のほか,水深・

水平距離・スラック・ケーブル長・ケーブル種別など

の敷設するケーブルに関するものに加え,敷設船が方

向を変える位置を示す変針点(AC:Alter Course)や

ケーブル交差点なども示され,敷設時の重要な指標と

なっている.

また,SLD は海底ケーブルと海底中継器のつながり

がわかるよう RPL を直線状に図面化したもので,製

造時に一連のシステムとして完成させるための指標と

なる.

図 17 海洋調査結果に基づくルート設計例

5.2 ケーブル製造と敷設船への積込み 海底ケーブルは,SLD をもとに敷設とは逆の順番で

製造され,SLD にしたがって海底中継器のつなぎこみ

が行われる.敷設中の洋上接続は工期が長期化するだ

けでなく,海気象の影響など様々なリスクを高めるこ

とにもつながるため極力工場内で接続し,洋上での接

続箇所を最小限に抑えるかたちで敷設船に積み込む.

積込み前に海底中継器を含めたケーブル全体のシステ

ム試験,更に,積込み後に海底中継器の動作確認試験

を行い,この時点で海底ケーブル等の保管管理責任が

製造会社から敷設工事会社に移ることになる.

積込み作業は昼夜連続して行い,更に効率化のため

に 2本のケーブルを同時に積み込む場合もあるが,ケ

ーブルタンク内へ整然と巻き取っていく作業は自動化

が困難であり,世界中どこへいっても人力に頼らざる

を得ない領域となっている.したがって積込みは,作

業員が安全・確実にケーブルを扱える速度に制約され

てしまうため,ケーブル種別により異なるが一本あた

り通常 2~6km/h 程度となっている.敷設船が DPSの採用で自動化されている一方で,未だマンパワー頼

みの領域が残っているのは大変興味深い.

5.3 ケーブル敷設工事

5.3.1 敷設前掃海作業 鋤式埋設機によるケーブル敷設同時埋設は,文字通

り埋設機を海底面で曳航しながらケーブルを敷設して

いく工法である.海底に不要となった漁網やワイヤー

などがあると埋設機に絡んで工事の妨げとなるばかり

でなく,海底ケーブルや埋設機を損傷することにもな

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 107 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介 868

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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -7- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

るため,鋤式埋設機を使用する区間では,あらかじめ

海底の障害物を取り除く掃海作業を行う.

5.3.2 ケーブル陸揚げ 海底ケーブルの端末を敷設船から海岸に引き上げる

ことをケーブル陸揚げといい,敷設船は船の喫水や周

囲の状況を考慮して,できるだけ陸に近い沖合に定点

保持の状態で停船する.以前はアンカーにより船固め

を行っていたが,現在は DPS による定点保持が一般

的である.

海底ケーブルを陸揚げするには,まず陸揚げロープ

を小型の作業船で引き出し,海岸に設置された滑車を

介して牽引機や重機などで牽引する工法(直接牽引法)

を用いるのが一般的であるが,船固め位置が海岸に近

い場合は陸揚げロープを海岸で折り返し,敷設船内の

ウィンチ等で牽引する工法(折り返し牽引法)も可能

である.

図 18 海底ケーブルの陸揚げ工法

陸揚げロープや海底ケーブルは,一定間隔で取り付

けられたタイヤチューブにより海面付近を浮いた状態

で陸揚げされ,一定量の海底ケーブルが海岸に到達し

たのちにダイバーが汀付近からタイヤチューブを順次

切り離すことでケーブルを海底に着底させていく.

ケーブル陸揚げは,海気象に問題がなければ敷設船

と海岸の間が 1km を超えても安全に行うことができ

るが,陸揚げ距離が長い程,敷設開始までに長時間を

要することから海気象変化の見極めが重要となる.

陸揚げ距離が極端に長い場合は,敷設船が近づける

水深までの陸揚げ部分を小型船や台船などにより先行

敷設し,後日敷設船が海底ケーブルを引き上げ,船内

の海底ケーブルと接続してから沖合に敷設していく工

法をとる.実際に陸揚げ距離が 2km を超えた実例も

あるが,先行敷設とするか否かは周囲の環境や工事時

期などを総合的に勘案して設計段階で決定し,製造工

程に反映する.

図 19 ケーブル陸揚げの模様

5.3.3 ケーブル敷設同時埋設 鋤式埋設機を敷設船で曳航しケーブル敷設と同時に

埋設を行う工法は 1960 年代に開発され,その後多く

の改良を重ねて現在に至っている.開発当初に比べて

適用される水深・埋設深度ともに格段に深くなってい

ることに加え,掘削後にケーブル上に土壌を残すよう

な鋤の構造とすることで,掘削影響幅を最小限とする

とともに確実に埋設が行えるようになっている.

ケーブル敷設同時埋設中は,海底ケーブル,埋設機

を曳航するトウワイヤ,埋設機を制御するアンビリカ

ルケーブルの3本が敷設船から同時に海中に出ること

になり,それぞれを水深や海底の起伏に合わせて繰り

出さなければならないため,操作には非常に熟練した

技能が要求される.海底ケーブルには過大に張力がか

からないようにする一方で,緩めすぎると埋設機で踏

みつける可能性があるため,ケーブル敷設速度制御に

は細心の注意が必要となる.また,水深やケーブル種

別・中継器の有無によって変わる水中重量にも配慮し

て速度制御を行わなければならない.

要求される埋設深度や海底土壌の種類にもよるが,

敷設同時埋設の速度は通常0.6~1.0km/h程度である.

確実に埋設するためには,より深く鋤を海底下に入れ

た状態で曳航することが理想であるが,そうすること

で埋設機への負荷が大きくなり損傷するリスクも高ま

るため,あらかじめ最大の牽引張力を決めておき,こ

れを超える場合は鋤の貫入深度を浅くするなどの対応

をとる.

図 20 敷設同時埋設のイメージ

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 108 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介869

Page 8: 0¿ /¡b) Ó - JST

和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -8- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)

5.3.4 ケーブル敷設 海底ケーブルは,RPL をもとに所定のルートに必要

なスラックを含めて敷設しなければならない.ケーブ

ル敷設は,敷設同時埋設の操作と異なり,敷設船から

投下されるのは海底ケーブル1本のみであることから

ケーブル制御は比較的行い易いが,敷設同時埋設の際

に考慮する必要のなかったケーブルスラックには細心

の注意を払い,確実に海底面に沿わせて敷設すること

が重要となる.

ケーブル敷設は,敷設船からケーブルが垂直方向に

保持されている状態から開始し,徐々に船速を上げる

と同時にケーブル繰り出し速度を上げ,ケーブルをカ

テナリー(懸垂線)状態にしていく.

敷設中は水面とケーブルとの角度(入水角)を監視

しながらスラックを適切に制御することで,ケーブル

のサスペンション(宙吊り)やキンクの発生を回避す

る.敷設速度はケーブル種別や水深等によって異なる

が,一般に 4~7km/h 程度である.

5.3.5 ケーブル後埋設 ROV によるケーブル後埋設は,ケーブル接続部,

鋤式埋設機で埋設できないケーブル交差箇所,あるい

は何らかの理由で鋤式埋設機を回収したことにより,

ケーブルが埋設できていない箇所で行う.2 本のジェ

ットノズルの間にケーブルを挟みこみ,堆積層を液状

化させてケーブルを埋設していく.

ROV にはケーブルトラッキングセンサーが装備さ

れているため自動でケーブルを追尾することができ,

また磁気センサーによりケーブルの埋設深度を確認す

ることも可能である.埋設速度は海底土壌の性質や埋

設深度によるが,一般に 0.6~1.0km/h程度である.

図 21 ケーブル後埋設のイメージ

5.3.6 ケーブル接続 光ファイバの接続には,陸上の光ケーブルと同様に

融着接続機を用いる.光海底ケーブルは,接続部にお

ける耐張力性などの機械的特性が劣化しないようハガ

ネ線を確実に固定する点や,給電路を含むケーブル接

続部全体を絶縁体であるポリエチレンで射出成型(モ

ールド)する点で,陸上の接続とは大きく異なる. 接続作業は,1か所あたり一般に 20 時間程度の時間

が必要となるが,洋上の敷設船においては,更に接続

後の試験完了まで海底ケーブルを保持した状態でとど

まらなければならないため,DPS による定点保持能力

は敷設船にとって必須となっている.

図 22 海中投下される光海底ケーブルの接続部

6. あとがき

スマホをはじめとした携帯端末の普及で,世の中は

すべて無線でつながっていると誤解している方が意外

と多いが,それらを支えているのは陸上と海底でつな

がる光ファイバネットワークである.本稿では光海底

ケーブルの敷設技術や敷設船などの機能について概要

を紹介した.重要な社会インフラとして欠くことので

きない情報通信分野において,今後光海底ケーブルが

果たしていく役割はますます大きくなっていく.

参考文献

1)光海底ケーブル執筆委員会,光海底ケーブル,

(2010)

著者紹介

小森 強 ・ 1959 生 ・ 所属.NTT ワールドエンジ

ニアリングマリン株式会社 ・ 最終学歴.埼玉大学工学部

電気工学科

Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 109 ―

光海底ケーブル敷設技術の紹介 870