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前田修也 先生

演習Ⅰ(水曜 5限)

テーマ

日本の経常収支―貿易赤字の今後―

前田ゼミBグループ

経済学部・経済学科

矢吹友里 高橋尚子 和地有紀子草刈良輔 飯田泰穂 加賀己星南

2012.10.10(提出)

目次

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・03ページ

第1章 経常収支・・・・・・・・・・・04ページ

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第2章 貿易収支・・・・・・・・・・・13ページ第3章 海外の貿易収支からみる日本・・32ページ第4章 国債・・・・・・・・・・・・・39ページ第5章 改善策・・・・・・・・・・・・47ページ

終章・・・・・・・・・・・・・・・・・55ページ

序章

2011年、日本の貿易収支は、東日本大震災の影響や円高、タイの洪水によって輸出が減る一方、原子力発電所の停止に伴って火力発電所の燃料の輸入が急激に増加したことな

どを要因に、31年ぶりに赤字へと転落した。日本の貿易収支が赤字へと転落したのは、第 2次オイルショックで原油価格が高騰した 1980年以来のことである。東日本大震災では、復興に伴う資材の輸入増加、原子力発電所の停止による電力確保のため液化天然ガス

他の需要増、サプライチェーン寸断による製品の製造停止など各方面に多大な影響が出た。

また、ホンダやトヨタ・東芝など、日系企業の進出が盛んなタイの洪水では約 460社が浸水などの被害をうけ、工場の稼働停止などへ追いやられた。

これらの事はニュースなどでも大きく報道されているが、貿易収支が赤字へと転落し

たということだけが強調されており、実際、どのような影響が出るのかまでは、あまり

報道されていない。そこで私たちは、長きにわたって貿易黒字国であった日本が、なぜ

貿易赤字へとなったのかについて考える。また、貿易赤字になったことが実際にどのよ

うな影響を与えるのかについてまとめていく。

また、震災後には貿易収支は赤字基調が続いており、今後も回復することは絶望的とい

える。日本を立て直すためには、貿易収支の赤字状態の継続を前提とし、経常収支黒字の

維持を課題として改善策を考えていく。経常収支の中で唯一の黒字である所得収支と国債

に焦点を当て、経常収支黒字をどのように維持し続けていくのかについてまとめ、その

方法やあらわれてくる問題について考察していく。

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第1章 経常収支

1.経常収支(1)経常収支とは 一国の国際収支を評価する基準のひとつで、経常勘定といもいう。「貿易収支」「サー

ビス収支」「所得収支」「経常移転収支」の 4つから構成される。「貿易収支」はモノの輸入と輸出の差額から算出。「サービス収支」はサービス取引を表す。「所得収支」は対

外直接投資や証券投資の収益で、「経常移転収支」は政府開発援助(ODA)のうちの医薬品など現物援助を表す 1)。

 日本は戦後から輸出立国として、資源や原材料を輸入し、それを加工し輸出することで

発展してきた。その高い技術力と生産力で先進国となったが問題となるのは、貿易収支を

含む経常収支にある。また、下記の図 1-1から日本は長期にわたり経常黒字を維持してきたことが分かる。2011年の経常収支は 9兆 6,289億円の黒字であったが、前年比マイナス 7兆 5,418億円の黒字幅縮小となった。これは、「所得収支」の黒字幅は拡大したものの、「貿易・サービス収支」が赤字に転じたことが原因である。

(資料)財務省「国際収支の推移」図1-1「経常収支の推移」

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2.所得収支(1)所得収支とは 所得収支は、国際収支のうち経常収支を構成する1項目であり居住者・非居住者間の雇用者報酬、投資収益の受取り・支払いを計上したものである。所得収支は投資収

益と雇用者報酬に分けられるが、投資収益が所得収支の約 99%以上を占めている。 雇用者報酬には居住者から非居住者である労働者に対する報酬の支払いと、居住

者労働者が外国で得た報酬等が計上される。投資収益は、海外の子会社、支店の営業

活動から得られる収益、株式や債券への投資から受け取る配当金・利子などのことで、直

接投資収益・証券投資収益・その他投資収益の 3つに分類される。

(ⅰ)直接投資直接投資とは、外国の企業に対して、永続的な権益を取得する(経営を支配する)こ

とを目的に行われる投資(FDI-Foreign Direct Investment)である。配当や金利というインカム・ゲイン、売却益といったキャピタル・ゲインを得ることを目的とした投

資(間接投資)に対する概念である。

日本では、日本企業による海外の企業に対する直接投資を対外直接投資、海外の企業

による日本企業に対する直接投資を対内直接投資というが、これらは法律上の用語で、

一般にはそれぞれ海外直接投資、対日直接投資といわれることが多い。

直接投資の現状を見てみると、歴史的な円高水準が続いていること等を背景に、海外

M&Aの動きが積極化し、直接投資に伴う資本流出は、2011年年間で 9兆円超に達し、過去最大となった 2008年に次ぐ大きさとなっている。

(資料)財務省「国際収支統計」

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図1-2 対内外直接投資の推移

海外直接投資の動きは、リーマンショックの影響のあった 2009、2010年を除くと、2003年以降年々拡大しており、このため、直接投資残高は、2010年末には名目GDP比 14%と、2000年末の 6.4%に比べて約 2倍超の規模になっている。こうした、海外への投資による収益は、国際収支上、所得収支の受取として計上されるため、2005年頃から所得収支の黒字を上回る構図が定着している。

(資料)経済産業省「海外事業活動基本調査」、財務省「法人企業統計季報」図1-3 貿易収支・サービス収支・所得収支の推移

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(注)海外経常利益比率=現地法人経常利益/(現地法人経常利益+国内法人経常利益)*100

(資料)経済産業省「海外事業活動基本調査」、財務省「法人企業統計季報」図1-4 海外経常利益比率の推移

海外への直接投資の活発化とともに、企業全体の利益に占める海外現地法人による利

益の比率(=海外経常利益広津(海外進出していない企業も含むベース))も、2000年に入ってから年々上昇しており、近年では 16%程度で推移している。なお海外進出企業に限ってみれば 35%にまで達しており、「海外投資から稼ぐ」状況になっている。

(資料)財務省「国際収支統計」図1-5 直接投資収益(受取)の推移

一方、海外で稼いだ利益は、すべてが国内に還流する訳でなく、海外現地法人にその

まま留保される再投資収益も同時に増加している、たとえば、2007年には直接投資収益は過去最高の 5.3兆円となったものの、そのうち 2.3兆円が国内へは還流せずに、海外へとどまるといった状況であった。このため、2009年度税制改正において、外国会社からの配当等の益金不算入制度(益金の 95%が非課税)が導入され、2009年には直接投資収益の 7割、2010年には 9割超が国内に還流したが、2011年を見ると、再び 7割を切っている。積極的に国内への還流資金を増やす動きが加速しているというよりは、

むしろ、リーマンショック後の世界的な景気悪化によって、利益そのものが大幅に減少

する中、一定額を緊急避難的に国内へ還流させたと考えるのが自然であろう。

(ⅱ)証券投資   証券投資とは、投資収支を構成する要素の 1つだが、これは株式や債券などに投資して、インカム・ゲイン、キャピタル・ゲインを狙って行う投資のことである。

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 保険会社や投資信託のような機関投資家は、投資家から預かったお金を株式や債券な

どの有価証券に投資しているが、このときに分散投資という側面から国内市場だけでは

なく、海外の証券市場でも運用している。

(ⅲ)その他投資 その他投資には直接投資、証券投資、金融派生商品および外貨準備資産に該当し

ない全ての資本取引を計上し、貿易信用、貸付・借入、現預金、雑投資を含んでい

る。証券貸借取引の対応項目も貸付に計上する。

(2)日本の所得収支

(資料)日本銀行 国際収支統計「 」図 1-6 所得収支の推移「 」

 近年の日本の経常収支黒字は、所得収支の黒字を主な要因としている。所得収支は、日

本国民の所得ではあるが、日本国内で発生した所得ではなく、投資収益収支が増加を続

けているからで、その背景には、対外純資産が大幅に増加しているためである。経

常収支の黒字→対外純資産の増加→所得収支の黒字→経常収支の黒字増加、という

スパイラル現象が見られる。

(3)対外資産残高の対外負債残高に対する比 所得収支の動向を考える時、プラスの金利を前提にして、対外純資産の運用が所得収支

を決めると考えるなら、対外純資産残高が大幅にプラスの日本は、所得収支が黒字になる

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のが当然に見える。実際に、莫大な対外純資産残高を背景に、日本は大きな所得収支黒字

を稼いでいる。だから、この論理は正しそうに思える。だが、対外純資産残高が大幅に

マイナスである国の所得収支は、赤字になり、対外純資産残高のマイナスが飛び抜けて

大きいアメリカは、所得収支の赤字も大きくなるはずだ。しかし現実には、アメリカの

所得収支は一貫して黒字が続いている。対外純資産残高のプラス・マイナスが、所得収支

の黒字・赤字を決める訳ではない。

(4)所得収支黒字の維持 経常収支は貿易・サービス収支、所得収支、経常移転収支で構成されているが、経常移

転収支は絶対的に小さく、貿易・サービス収支は赤字が定着しているので、経常収支の黒

字化には所得収支が重要になってくる。所得収支は、経済統計上の日本国民(日本の居住

者)は、経済基盤を日本に置く個人や企業を意味する。この経済統計上の日本国民が、海

外での生産活動に貢献して、その結果として受け取った所得が、日本の所得収支のプラス

項目となる。一方、経済統計上は日本国民ではない個人や企業などが、日本国内での生産

活動に貢献して、その結果として日本から海外に支払われた所得が、日本の所得収支のマ

イナス項目となる。

 所得収支に分類する取引の大部分は、海外投資によって生じた金利や配当のやりとりで

ある。このため、所得収支は、フローの国際収支統計の中の 1つの収支であるのに、ストックの統計である対外資産負債残高から大きな影響を受ける。さらに、貯蓄・投資バラ

ンスが金利の上昇・下落圧力を生み、海外に支払う金利の大きさを変えるから、所得収支

は日本国内の貯蓄・投資バランスからも大きな影響を受ける。したがって、日本国内の貯

蓄・投資バランスを金融面から考えるなら、つまり国債の問題を考えるなら、所得収支

も含めた経常収支を見た方が適切であると思われる。国内の金融市場から得た金利や配当

も、海外の金融市場から得た金利や配当も区別すべき程のものではない。

 所得収支の今後の動向を予想するのは難しいが、日本の場合、対外純資産残高が巨額な

だけでなく、対外資産残高の対外負債残高に対する比率も大きい。2010年末時点の対外資産残高と対外負債残高の比は 9対 5で、資産は負債の 2倍弱の大きさだ。基本論理の説

明のために、この比率が仮にちょうど 2倍として、資産から受け取る金利が仮に 5%だとすると、負債に対して支払う金利が 10%を超えない限り、金利の支払い超過にはならない。したがって、対外純資産残高が大きなプラスなのに、所得収支は赤字になってしま

うという逆転は、相当に起きにくいと思われる。

 アメリカの場合、対外純資産のマイナスがとても大きいものの、2010年末時点の対外資産残高と対外負債残高の比を見ると 9対 10で、負債は資産より約 10%大きいだけだった。仮に、アメリカが支払う金利が 5%だとして、アメリカが受け取る金利が 6%なら、資産 9に対する 6%は、負債 10に対する 5%より大きくなるから、アメリカでは、対外純資産残高がマイナスなのに、所得収支は黒字という逆転が起きやすい。そして、実際

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に逆転している。これに対して日本は、負債の約 2倍の資産を持っているのだ。

3.貿易・サービス収支(1)貿易収支とは財貨の国際間取引をFOB(Free On Board)価格で計上する項目である。 統計作成の

基礎データとなるのは、貿易統計で、貿易統計は、財務省により税関の書類によって作成

されている。貿易統計は、輸出は FOB(Free On Board)建てであるが、輸入は

CIF(Cost, Insurance and Freight)建てとなっている。このため、輸入については、

まず、運賃、保険料の諸コストを控除してFOB 建てに修正している。

貿易収支については、第 2章 貿易収支で詳しく述べることとする。

(2)サービス収支とは 国境を越えたサービスに関わる収支を示した

もので、サービスに関わる取引の差額が計上さ

れる。サービスとは、日本銀行の区分を使うと

輸送、旅行、その他(通信、建設、保険、金融、

情報、特許権使用料、その他営利業務、文化・

興行、公的その他)に分けられる。

 直近のデータでは輸送が -1081億円と大幅な赤字となっており、旅行、その他サービスも赤

字である。サービスの内訳について以下に詳し

く記す。

(ⅰ)輸送

居住者が非居住者(または逆)のために行なった、旅客の運搬、財貨の移動、乗員を

含む輸送手段のチャーターなど全ての輸送に関する取引。統計作成のための基礎データ

となるのは、支払等報告書、船会社および航空会社から提出される収支報告書である。

(ⅱ)旅行旅行者が自己で使用するために旅行先の経済圏から取得した財貨およびサービス。旅

行の目的に従って「業務」および「業務外」に区分した内訳計数が公表されている。

なお、旅行者は旅先で当該国の居住者から財貨を取得したりサービスの提供を受けた

りするため、旅行は特定の形のサービスでなく、旅行者によって消費される財貨・サー

ビスの集まりであると定義される。旅行収支には主として居住者(非居住者)が当該国

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(資料)日本銀行図1-7 直近のサービス収支の内訳

(2012年7 月)

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を訪問中に支払った財貨、サービスの対価を計上する。具体的には①宿泊費、食事代、

娯楽費、現地交通費、②土産品、③ 出張費、④海外での留学費、医療費、⑤ツアー代金

等である。

(ⅲ)その他サービス輸送、旅行に属さない全ての居住者・非居住者間のサービス取引。細かい区分は以下

のとおりである。

・通信:居住者・非居住者間の通信に関する費用の受取・支払。

・建設:本邦企業が外国において、または外国企業が本邦において、請け負った建設・

工事に関する費用。

・保険:本邦保険業者が非居住者に提供する、およびその逆の、様々な形態の保険の保

険料から保険金を差引いた額を保険サービスの対価。

・金融:居住者・非居住者間の金融仲介およびその付随的なサービス。

・情報:居住者・非居住者間のコンピューター・データサービス、報道機関などによる

ニュース・サービスに関連する費用の受取・支払。

・特許等使用料:居住者・非居住者間の特許権、商標等の工業所有権、鉱業権、著作権

などに関する権利の使用料の受取・支払。

・その他営利業務:居住者・非居住者間の上記以外の様々なサービス取引に係る費用の

受取・支払。

・文化・興行:居住者・非居住者間の音響・映像サービスの制作費、賃貸料等の受取・

支払。

・公的その他サービス:上記のいずれにも含まれない政府のサービスの取引。

 現在、サービス収支はマイナスの値で推移している。図 1-8でサービス収支を時系列で

データをみると、1996年には-65311億円だった値が、2012年には-12732億円へと変化していることがわかる。  

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(資料)日本銀行「国際収支統計」図1-8 サービス収支の推移(1996年~2012年)

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第2章 貿易収支

1.貿易収支とは一国における国外との間での貿易による収支を指す。輸出額から輸入額を差し引く事で

計算され、黒字の場合は貿易黒字国、赤字の場合は貿易赤字国とされる。貿易収支は統計

指標として、日本、米国、欧州などの各国が発表している。特に、米国の貿易収支は為替

レートに対して大きな影響を与えるため、米国の貿易収支は注目されている。

 前述したように、輸出入は FOB(Free On Board)価格で計上しており、一般商品、加工用財貨、財貨の修理、輸送手段の港湾調達財貨、非貨幣用金を含んでいる。これらに

ついては、以下に詳しく述べる。ただし、金投資・貯蓄口座に関する非貨幣用金の取引は

除かれている。(資本収支の中に含まれる)

(ⅰ)一般商品

一般商品は、居住者・非居住者間で対価を伴う所有権が移転する動産取引を計上する

項目のこと。加工用財貨、財貨の修理、港湾調達財貨、非貨幣用金に属さない全ての動

産取引を計上する。統計作成の基礎データとなるのは、貿易統計および企業・個人から

提出される支払又は支払の受領に関する報告書等である。

(ⅱ)加工用財貨

加工用財貨は、加工のために輸出入された加工原材料および加工後に再輸出入された

製品をグロスベースで計上する項目のこと。これらの財貨については所有権の移転が行

われていないので、所有権移転原則の例外となっている。統計作成の基礎データとなる

のは、貿易統計である。

(ⅲ)財貨の修理

財貨の修理は、居住者・非居住者が所有する船、航空機などの動産の修理費を計上す

る項目のとこ。計上額は修理価額であって、財貨のグロス価額ではない。統計作成の基

礎データとなるのは、支払等報告書である。

(ⅳ)港湾調達財貨

港湾調達財貨は非居住者(居住者)所有の輸送手段が本邦で調達した燃料、食糧等の

財貨の取引を計上する項目のこと。基礎データとなるのは、支払等報告書、船会社およ

び航空会社から提出される収支報告書である。

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(ⅴ)非貨幣用金

非貨幣用金は、通貨当局が準備資産として保有する金および金投資・貯蓄口座に関す

る投資用金以外のすべての金が計上される。

貿易統計は輸出が FOB(Free On Board)建てで、輸入は CIF(Cost, Insurance and Freight)建てとなっている。よって、輸入については、まず、運賃、保険料の諸コ

ストを控除して FOB 建てに修正し、計上範囲、計上時期の調整を加えた上で貿易収支に

計上している。主な調整方法は次のとおりである。

(ⅰ)計上範囲の調整

貿易統計は、関税境界通過のものを計上している。このため、通関と所有権移転が一致

しない財貨について加減算を行なって計上範囲を調整する必要がある。現在、計上範囲の

調整対象となっているのは、輸入額の加算項目(海外で打ち上げられた通信衛星)、輸出

入額の控除項目(輸出入のうちキャンセルとなった貨物)である。

(ⅱ)計上時期の調整

通関と所有権移転のタイミングにずれがある場合に、計上時期を調整する。

2.貿易収支の現状 日本の貿易収支は長い期間大幅な黒字を計上してきた。日本は国際的にみても大きな貿

易収支を計上しており、貿易立国と呼ばれていた。しかし、図 2-1を見るとわかるように、2011年を境に貿易赤字へと転じている。

(資料)日本銀行「国際収支統計」 

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図2-1 貿易収支の推移(1996年~2012年)財務省が 2012年 1 月 25日に発表した貿易統計速報により、2011年の貿易収支が 2兆 4927億円の赤字となったという統計は記憶に新しい。

貿易赤字転落は第 2次石油危機後の 1980年以来、31年ぶりで、赤字幅は 80年に次ぐ過去 2 番目の大きさとなった。これは、第一に、東日本大震災や円高、タイの洪水による

部品不足も逆風となり、輸出(自動車が 10.6%減、半導体など電子部品が 14.2%減)が大きく落ち込んだこと。第二に、東京電力福島第1原発事故後の原発停止の影響で、火力

発電用の燃料輸入(液化天然ガス(LNG)が 37.5%増、原粗油が 21.3%増)が大きく増加したこと。以上の 2つが理由として挙げられる。これについては、5.輸出減少による貿易赤字 6.輸入減少による貿易赤字でさらに詳しく述べることとする。

(資料)日本銀行「国際収支統計」図2-2貿易収支の推移(2005年~2012年)

図 2-2は近年の貿易収支の推移である。2005年から 2010年までは、増減を繰り返し

つつも黒字で推移してきた。しかし、東日本大震災が起こった 2011年以降赤字となり、2012年現在の速報値では、2011年を下回る-6445億円となっている。 震災後の細かい推移を図 2-3でみると経常収支黒字が急減していることがわかる。2011年 2 月は 7203億円の黒字だったが、震災を機に 3 月は 2368億円まで縮小し、4月には-4120億円、5 月には-7713億円の赤字に転じた。その後、6、7 月には黒字に転

じたが、8 月を過ぎると、基本的に赤字で推移した。特に、2012年 1 月の統計では、-13897億円と近年で最も赤字となった。

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(資料)日本銀行「国際収支統計」図2-3貿易収支の推移(2011年2 月~2012年8 月)

3.日本の貿易政策日本の貿易政策の代表的なものとして挙げられるのが、自由貿易協定(FTA)、経済連携

協定(EPA)である。自由貿易協定とは、特定の国や地域の間で物品の関税やサービス貿易

の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定である。経済連携協定は、貿易の自由化

に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野で

の協力の要素等を含む幅広い経済関係の強化を目的とする協定である。この二つは、幅広

い経済関係の強化を目指して、貿易や投資の自由化・円滑化を進める協定であり、日本は

当初からより幅広い分野を含むEPAを推進してきた。近年世界で締結されている FTAの中には、日本の EPA同様関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまらない様々な

新しい分野を含むものも見受けられる。

また、現在行われている政策ではないが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)があげ

られる。TPPとは、太平洋周辺の広い地域の国で自由貿易圏を作ろうという構想のこと

である。参加国間での貿易に関する関税の撤廃を原則としており、例外規定が少ない完全

自由化とも言われている。日本は現在、TPPへの交渉参加を表明しているが拡大交渉会

合への参加は許可されず、交渉会合中の情報共有や協議には応じない方針が明らかにされ

ている。

政府は日本が TPPに参加した場合、どの程度の影響が出るか、内閣府、農林水産省、

経済産業省の 3省庁が試算している。内閣府は GDPが 2.4~3.2兆円増加と試算してお

り、農林水産省は農業関連のGDPが 4.1兆円減少、経済産業省はGDPが 10.5兆円と試

算している。この試算の結果は、各省庁によって担当業界のことを優先しだした試算で

あるのでばらつきがみられる。

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4.日本の貿易の現状日本はアメリカ、中国、EUに次ぐ世界第 4 位の貿易立国である。日本は資源が乏しく、

原油などの燃料資源や工業原料などの大部分を海外から輸入して、それを加工・製造化し

て輸出する加工貿易を得意として経済成長を遂げてきた。しかしながら、今日の日本の貿

易構造はさまざまな変遷を経ている。

 戦後は、原材料・素材加工型製品、軽工業・雑貨品の輸出が中心であったが、その後、

1960年代は鉄鋼、船舶など重化学工業が発展し、重厚長大型産業製品が輸出の主力とな

った。1970年代〜1980年代は、日本産業の競争力が大幅に高まり、電子・電気機器、

輸送機器、精密機器など加工組立型製品の輸出が主力となった。80年代の日本の高度成

長期の時代には、貿易不均衡による貿易摩擦が継続的に生ずるようになったことなどか

ら、日本メーカーの海外進出、海外現地生産が積極的に進められた。90年代に入ると、

自動車や ITなどの高度な技術力や知識力を必要とする高付加価値のハイテク製品をめぐ

る競争時代となった。現在では、経済グローバル化時代を迎え、バイオ・テクノロジー

や太陽光発電などの新エネルギーなど新たな産業分野も生まれ、産業・ビジネスの環境

はめまぐるしく変化し、さらに中国など新興国の台東や各国間での自由貿易協定(FTA)の締結など、新たな競争時代を迎えて、日本の産業・貿易構造の大きな転換期に直面してい

る。

 2011年、日本の貿易総額は約 134兆円であり、この金額は日本の国家予算(約 92.4兆円)を大きく上回っている。また、日本の貿易額は、輸出入どちらも 2008年に最高額を記録したが、2009年には、アメリカの金融危機の影響から、100年に一度といわれる世界同時不況で、これまでになかった大幅な減少となった。2010年には回復してきたものの、2011年には東日本大震災や EU 危機、タイの洪水等の影響で、貿易総額は増加した

ものの輸出が大幅に減り、電力用 LNGなどを中心に輸入が大幅に増加した。

5.輸出減少による貿易赤字(1)輸出減少の原因日本の輸出が減少している原因については、1.東日本大震災の影響 2.超円高の影響 3.海外景気の低迷が主な原因と考えられる。この原因からは、近年見られる製造業における

生産拠点の海外移転、すなわち空洞化が進行している。また、タイの洪水によるサプラ

イチェーンの寸断も影響しているとされる。

輸出が減少、輸入が大幅に増加していることにより、日本は昨年より 31年ぶりに貿易赤字となり、今までの輸出で稼いで、必要なエネルギーや資源を輸入する、というこれ

までの成長モデルが転換期にきたことが示されている。11年の輸出額は、前年比 2.7%減となり 2年ぶりに減少。大震災や円高に加え、タイの洪水による部品不足も逆風となり、

自動車部門が 10.6%減、半導体など電子部品が 14.2%減と大きく落ち込んだ。

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(2)輸出-2011年2011年は東日本大震災により工場が被災したことにより、部品供給などが停止し自動

車や半導体などの電気機器の輸出が大震災前に比べ大幅に減少した。輸出額は 2010年から 2011年にかけ 1.8兆円減少していて(67.4兆円→65.6兆円)、やはり上記の品目が大きく落ち込んでいる。

(資料)財務省「貿易統計」

図2-4 乗用車と自動車部品の輸出額の推移(2007年以降)

品目別には、サプライチェーン途絶の影響を最も色濃く受けた自動車など輸送用機器輸

出の変動が目立つ。輸送用機器の輸出はサプライチェーン途絶による生産停止で 11年度1~3 月期前期比 6.9%減、4~6 月期 16.7%減と 2 四半期連続で減少した後、サプライチ

ェーン復旧による生産拡大を反映して 7~9 月期に 39.3%の大幅増加となった。年末にかけても増産と輸出増加が計画されたが、タイ大洪水により、一部の企業で再びサプライ

チェーンが寸断されたため、10~12 月期は 2.5%減の小幅減少を余儀なくされている。

世界的に自動車に対する需要が拡大していることを踏まえれば、2012年以降も自動車部

門の挽回生産は続き、輸出もある程度は増加すると見込まれる。

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表2-1 自動車販売台数の実績と予測                 (100 万台) 2000年 2005年 2008年 2015年 2020年 2025年

アメリカ 17.8 17.4 13.5 14.6 13.1 12.8 日本 6 5.9 5.1 4.9 4.6 4

フランス 2.6 2.6 2.6 2.5 2.3 2.2ドイツ 3.7 3.6 3.4 3.1 2.9 2.9イギリス 2.5 2.8 2.5 2.2 2.2 2ブラジル 1.6 1.7 2.8 4.2 5.5 7.9ロシア 1.2 1.4 3.3 3.4 4.3 3.5中国 2.1 5.8 9.4 21.3 37.8 41.3インド 0.8 1.5 2 10.5 26.1 31.7

(資料)日経BP コンサルティング『未来予測レポート自動車産業』

図2-5 自動車販売台数の実績と予測

自動車需要が拡大している事実を示すデータは、表 2-1、図 2-5になる。表 2-1と図 2-5だが、2000年ころからアメリカ・欧州・日本などといった先進国は、

ほとんどが横ばい、減少している中、2008年を境に新興国の中国・インドは大幅に増加

中であり、ブラジルは徐々にではあるが増加傾向にある。2012年以降は予測になるので

完全に確かなデータとは言えないが、「先進国では、高齢化や都市集中などにより自動車

離れが緩やかに進むことにより、需要が横ばい又は減少基調に転じる。新興国では経済成

長に伴って自動車の需要が急速に進む。」という将来シナリオが、これまでの他国の成

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長例からも一般論とされているので我々もそうなるのではないかと考えた。

(資料)国際自動車工業連合会

図2-6 自動車生産台数の推移

ここからは、予測ではなくこれまでの推移について述べたいと思う。

世界の自動車需要は、中国・インドの急速な経済発展により世界全体の生産台数は増加

してきている。1998年に 5193 万台だった世界の自動車生産台数は、2008年には7058 万台になっており、10年間で世界の自動車需要は 2000 万台近く拡大したとされ

る。リーマンショックなどで、一時は需要が減少したこともあったが現在は再び上昇し

ている。また、中国では 2009年に自動車の販売台数がこれまで最多だったアメリカを抜

き世界最多の販売台数を誇るようになった。

中国の成長はこれからも続くとされ、そうなれば自動車の需要もこれまで以上に拡大

していくことはほぼ確定となるため、表 2-1と図 2-5の予測のようになるとされる。

このようなデータから世界的に自動車に対する需要が拡大していると考えた。

電気機器輸出は、東日本大震災による供給側の要因に加え、電子部品などに対する需要

低迷も響き、2011年を通じて低調に推移した。4~6 月期に前期比-9.5%と落ち込んだ

後、7~9 月期のリバウンドも 4.6%にとどまり、10~12 月期はタイ大洪水の影響で再び

-3.5%と減少へ転じている。但し、年末になって、漸く在庫調整に目処がつき、12 月は

生産と輸出が共に大幅に増加していて供給制約は解消している。IT分野に対する需要は

未だ回復途上のため、輸出の大幅増加は期待薄だが、今後、世界の半導体需要が持ち直し

てくれれば電子部品等の輸出も増加に転じると予想される。電子化や情報化の進展を背景

に、2000年代に入ってからの世界の半導体需要は、大幅に増加しており、需要が下がり

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切れば今後の輸出を大きく押し上げる要因になる可能性も大いにある。

このように 2011年度の輸出の減少は、東日本大震災による自動車などの供給が一時途

絶えたため、また、輸送用機器が最大の減少率となったのだが、その中でも自動車の落

ち込みは大きかった。輸送用機器の総輸出額に対する比重は大きいので、これが輸出総額

を減少させた。また海外需要落ち込みによる半導体等電子部品の輸出減少によってもたら

されたと考えることができる。

しかし、震災による自動車輸出の減少は、一時的な要因と考えられる。今後はこのような

一時的な要因がなくなることでいったんは輸出が増加すると考えられるが、その後は、

海外の景気サイクルに合わせて増減することになる。また、半導体等電子部品の減少は

サイクル的なものであり、今後の世界景気によって左右される。

(3)長期的に見た日本の輸出日本は、昔から貿易立国とされている理由は、輸出総額が世界でも上位に位置しており

以前はアメリカに次ぐ世界 2 位であったが現在は中国、アメリカ、ドイツに次いで 4 位

となっているが世界屈指の輸出国であるということ。長年に渡り貿易黒字が多額であっ

たことなどから貿易立国とされている。しかし、一人当たりの輸出額は大きくなく、輸

入額が輸出額に対して大幅に少ないことから貿易黒字が続いてきた。しかし、世界経済の

影響や災害の影響により昨年には 31年ぶりに貿易赤字となり、貿易立国としての日本が危うい立場に置かれている。

長期的に日本の輸出を見ると輸出額は増加傾向にあった。図 2-7を見てもわかるように2008年のリーマンショック以降、大幅に輸出は減少した。しかし 2009年に入ってからは徐々にではあるが回復基調にあった。中でも今まで以上の回復を見せているのは、東

アジア、とりわけ中国への輸出である。反対に米国や欧米などの先進国向けの輸出は、

ゆるやかな回復しか見せていない。やや長い目で見ても東アジア向けと欧米向け、とり

わけ中国と米国が対照的な動きになっていて、欧米向け輸出の世界シェアは縮小傾向に推

移する一方、東アジア向け輸出のシェアは拡大してきている。過去は欧米向け輸出のシ

ェアが最大であったが 2002年以降は東アジア向け輸出のシェアが逆転し最大の輸出先と

なっている。また、2009年以降は米国に代わり中国が最大の輸出先となっている。

表2-2 取引相手別輸出額                 (億円)

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(資料)財務省「貿易統計」

中国・アジアは 2010年にはリーマンショック以前の額までに回復しているが。アメリカ・EUは中国・アジアに比べ回復が遅く、2010年の時点では徐々に回復しているが

今後、完全に以前レベルまで回復するかは不明だ。このことから、中国・アジアの回復

が早く、すでに立ち直っているといえる。

日本の主な輸出先は、欧米から東アジアへ、米国から中国へシフトしているが、この

流れはリーマンショック後、東日本大震災後も変わらずに伸び続けている。

(資料)http://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm図2-7 1990年以降の輸出総額の推移

何の品目を輸出し輸出額を伸ばしてきたを長期的に見てみると、1960年には繊維品が日本の輸出の約 3割を占めていた。しかしその後、発展途上国等の追い上げ等により繊維

品のシェアは年々減少し、2005年には約 1.4%にまで減少した。一方、機械機器につい

ては、1960年代の 25.3%から 2005年は 69.6%とシェアが 2.8倍に増加している。この間、機械機器は、自動車を中心に増加してきたが、その他の品目では、1970年代がテ

レビ、ラジオ、電卓、1980年台は据置型VTR、1990年代はIC(集積回路)等、技

術革新の進展により輸出品目に変化が見られる。最近では、世界的IT革命の進展により

ICは勿論のこと、ノート型パソコン、携帯電話、デジカメ、ハンディタイプVTR、

大画面デジタルテレビ、光ファイバーケーブル等も輸出しており、また、自動車関連で

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は、乗用車、自動車部品、エンジン等の輸出が増加している。

次のグラフからも分かるが、日本の輸出の主力品目は、自動車等の「輸送用機器」、半

導体等電子部品、映像機器や通信機等の「電気機器」、原動機などの「一般機器」となっ

ている。「電気機器」はアメリカ、ドイツ、アジア諸国へ「化学製品」はアメリカ、ア

ジア諸国へ輸出されている。輸出一位が続いている自動車はアメリカへの輸出が圧倒的

に多く、自動車部品は中国、原動機はアメリカへの輸出が多くなっている。

自動車部品の輸出の割合の位置づけが年々上がっているのが分かるが、これは日本の自

動車メーカーの海外組み立て工場によるもので、賃金の安い国へ最終組み立て工程が移転

したとされる。そのことにより乗用車としての輸出は減少し、部品輸出へシフトしてい

る。これは産業の空洞化にもつながることで、今後は部品メーカーの海外移転の可能性も

あるのでそうなれば部品の輸出も減少し、輸出立国としてのモデルが変わるかもしれな

い。そうなれば、長期にわたり日本の輸出の要として支えてきた自動車輸出が抜ければ、

日本にとって大きな打撃となることだろう。

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(資料)http://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm

(4)輸出減少の解決策日本の輸出を減少させている要因に円高による影響もある。円高は日本国内における労働

力などの生産要素の価格が国際的に見て高くなり、このコスト高になった結果、輸出財の

競争力や収益力は低下することになり、輸出が減少して輸出企業やその関連企業が打撃を

受ける。円高が長期にわたり続けば、産業の空洞化等も引き起こしやすくなる。産業の空

洞化は国内企業の生産拠点が海外に移転することにより、国内産業が衰退していく現象の

ことである。要因は(1)円高による輸出の減少、(2)輸入による国内生産の代替、(3)直接投資(=海外生産)の増大による国内投資(=国内生産)の代替とされており製造業が縮小す

ることにより産業空洞化が生じる。産業とは、次の第一、第二、第三産業に分かれる。

① 第一産業:農業、林業、水産業、牧畜業など

② 第二産業:工業、建設業、鉱業など

③ 第三産業:金融業、サービス業、不動産業、通信業、出版業など

産業の高度化は、各国の産業の中心が、経済の発展につれて第一産業から第二産業へ、

さらに第三産業へ移行すること。

具体的には、付加価値の低い鉱工業などから、付加価値の高い半導体などのハイテク産

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業や金融などのサービス業へ移行することを指す。

国が発展途上国から開発途上国、先進国へと発展していくのと同時に移行していくのだ

が、日本は既に先進国となっており、移行はしてきたのだが、「産業の空洞化」などの

問題の解決させるためにも、開発などを行い、更なる「産業の高度化」を進めるべきだ。

また、現在も自動車産業などでも海外移転が進んでおり、日本企業の多くがそうなれば

輸出の減少だけならず、国内での雇用が減少し経済が衰退してしまう。そうならないた

めにも、新たな産業構造に転換し、より産業の高度化を進めるべきだと考える。

輸出の面では産業の空洞化は輸出額の減少に大きく影響している。その空洞化を改善す

るためには、①高付加価値品の開発を強化および生産拡大、②海外などでの新たな需要の

獲得とその企業収益などにより、国内の生産規模を維持・拡大していくことが必要となっ

ている。

わが国で海外需要を政策的に増加させたり、為替を操作したりすることは不可能に近い

ため、高付加価値品の開発・製造を進め、生産転換を行う。そして輸出を増加させるため

にこれらの拠点を国内置くことを促進し、国内生産規模を維持することにより空洞化の有

力な防止策となりうる。しかし、これらの開発製造を進めるには、事業コストや税など

のビジネス環境の改善が重要となる。

輸出を増加させるためには、新たな需要の獲得が求められる。しかし、わが国は人口

が減少しており、国内での更なる需要拡大は難しいとされる。そこで、新たな海外需要

の獲得が必要となる。新規取引先を開拓し売り上げを増加させれば、日本からの中間財の

輸出の増加により、国内生産の拡大に結び付く。日本ブランドを進出先に浸透させること

により、日本からの高付加品の輸出の増加にも繋がる可能性がある。しかし、新興国をは

じめとする海外市場においての販売競争は激化しており、現地の需要に即対応した製品開

発が求められる。海外での需要が増加すれば日本からの輸出も増えるとされるため、税

制、規制の見直しを含むビジネス環境の改善が求められる。

6.輸入増加による貿易赤字(1)輸入増加の原因 日本の貿易赤字の 1つの要因として、輸入量の増加があげられる。2011年 3 月の福島

原子力発電所の事故による、石油系、LNGの代替燃料調達量の増加、空洞化進展、高齢

化進展に伴う輸入誘発効果の継続などが要因になっている。また日本の食糧自給率は主要

先進国の中で最下位であり、米以外の食品をかなり長い間輸入に依存しているため、近年

の輸入増加の要因を加え、かなりの額を輸入している。

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(2)輸入-2011年

(資料)http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time.htm図2-12 2011年の輸入額の推移

 2011年度の輸入総額は 68兆 1112億円であり、これは前年と比較してみると輸入総

額は約 11%の割合で急激に増加していることが分かる 1)。図 2-12から 3 月あたりに、輸

入額が急増していることが分かる。震災後に過去最高額を記録した品目がいくつかあり、

不足した飲料水は 4~5 月に急増し、電力不足で品薄となった扇風機は夏が山場であるの

に今年は春から輸入額が増えている。さらに仮設住宅のためのプレハブ建設費も 5 月に

急増し、工場被災に伴う代価として、銅や硫黄などの原料も増えている 2)。

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(3)長期的に見た日本の輸出

(資料)http://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm図2-13 1990年以降の輸入総額の推移

図 2-13を見ていくと 1990年から徐々に増加し続けていた輸入額が 2008年に急激に減少していることが分かる。これはアメリカのリーマンショックによる、アメリカの個人

消費の落ち込みと、鉱工業生産の落ち込みによるものである 3)。

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(資料)http://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm

図 2-17と図 2-14、15、16を比較してみると LMGの増加量が図 2-14、15、16では10%未満の割合であったが 2011年には 15%と他の年と比較して割合が大きくなっていることが分かる。

(4)輸入増加の要因 (ⅰ)火力発電比率の上昇

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図 2-15 2011年の輸入品目の割合

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図2-18 発電比率の推移 福島原子力発電所の事故後、原子力発電所は定期検査後の再稼動がしづらい状況にな

っているため、原子力発電の不足を補うために休止中の石油火力発電所を復活させて石

油(原油)や LNG(液化天然ガス)の輸入量を増大させており、全発電量に占める火力発電の割合は 75%以上に増えている 4)。

表 2-3 発電方法別の発電原価試算結果(1kWh当たりの発電費用)

発電方法発電単価(円/

kWh)設備利用率(%)

水力 8.2~13.3 45石油 10.0~17.3 30~80LNG 5.8~7.1 60~80石炭 5.0~6.5 70~80原子力 4.8~6.2 70~85太陽光 46 12風力 10~14 20

注)設備利用率(%)=1年間の発電量/(定格出力×1年間の時間数)×100%(資料)http//www.enecho.meti.go.jp-topics-hakusho-2008-2-1.pdf

 この表からも分かるように、原子力発電を稼働するよりも火力発電を稼働するとコス

トがかかってしまうことが分かる。しかし、反原発派の人たちのほとんどは火力発電を

推進しており、火力発電用途としての液化天然ガスの需要は当面の間、安定的な電力供

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給を目的とし、火力発電用の液化天然ガスの輸入増は継続すると考えられる。

(ⅱ)LNG価格の高まり 火力発電所の割合が増えている状況のなかで、その燃料を日本はほぼ輸入で補ってい

るが、燃料である LNG(液化天然ガス)の価格が高騰していて、その原因として、ホルムズ海峡の封鎖危機が大きな問題となっている。昨年、IAEA(国際原子力機関)はイランが核兵器を造ろうとしていると国連に報告し、それによりアメリカはイランへ経済制裁と

して、イランの石油を買わないよう働きかけをした。それに対抗し、イランはホルムズ

海峡の封鎖を言い出している。ホルムズ海峡を封鎖されると日本は原油や天然ガスの輸

入ができなくなるのである。石油が止まるとオイルショックの再来が予想され、オイル

ショックが起こると、東北の復興が遅れてしまうこともあり得る可能性もあり得る。ま

た、現在もイランはホルムズ海峡を封鎖する構えを崩していない。封鎖した場合アメリ

カは、すぐに攻撃できるよう空母をホルムズ海峡に送り込んでいる。イランも軍事訓練

を行うなど脅しをかけており、その他一般人は「ホルムズ海峡の封鎖はコップの水を飲

むより簡単」とコメントしており、火力発電所も決して安定な電力供給とは言えなくな

ってきているのである 5)。

(ⅲ)産業空洞化

 産業空洞化とは国内企業の生産拠点が海外に移転することにより、国内産業が衰退し

ていく現象である。それによって、円高による輸出の減少、輸入による国内生産の代替、

海外生産の増大による国内生産の代替、の 3つのルートから産業が縮小することにより産業空洞化が生じる。バブル経済崩壊後の 90年代には、圧倒的に安価な労働力を求め、

世界の生産基地としての地位を急速に高めてきた中国の台頭がある。90年代後半には、

中国への生産拠点の移動が、従来の繊維や食料品のような産業から、電気や機械、ソフ

ト開発のようなハイテク部門にまで及ぶに至り、問題は一層顕在化した。産業空洞化が

もたらす影響は、産業の衰退が地域経済の衰退や経済成長率の低下につながること、企

業の海外移転で国内の雇用機会が減少するなどが挙げられる 6)。さらにここ数年では超

円高による人件費の増加、電力やエネルギーの供給問題、震災などによって海外移転す

る企業が急激に増えており、産業空洞化が加速するとともに輸入の増加が予測される。

(ⅳ)高齢化進展に伴う輸入誘発効果

 日本の高齢化社会は非常に深刻であり、さまざまな問題を引き起こす。まず雇用の減

少により、生産量が減少、それによってさらに雇用の削減が起こり、その結果として消

費が減り円高を引き起こすのである。また、医薬品の輸入は5年間で約7300億円も

増えている。抗がん剤など高額の薬を中心に米国やドイツなどからの輸入が大きな要因

とされている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の高齢者は10

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年の約2948万人から20年には約3612万人に達する見込み。医療品産業の構造

が変わらなければ、薬を多く使う高齢者が増えるとともに輸入も増え続けるだろう7)。

(5)輸入増加の解決策まず、産業の空洞化に対する解決策としては雁行型発展などの産業発展論の立場からは、

産業空洞化は当然の流れともとらえられるが、デフレに悩む日本では深刻な問題になっ

た。改善していくには、グローバル経済の中で、日本が新たな産業構造に転換すること、

すなわち、より産業の高度化を進めることである。

また、高齢化社会に伴う輸入誘発効果の問題は避けることのできない問題であり、雇用

の減少、生産量の減少は防ぐすべはないだろう。そのため、高齢者の消費をいかに伸ば

すかのみが重要になってくる。

日本は福島の原発事故後、原子力発電をなくし代替となる発電方法で補っていくことを

目標としているが、水力発電は、建設にかなりの労力とお金がかかる割に発電量はわず

かしか担っておらず、現在の水力発電のシェアは 10%にも満たない。それは、日本にはもう水力発電所を開発できる余地は残っていないからである。次に増大する火力発電と

原子力発電だが、原子力発電反対派は火力発電の問題に全く目を塞いでいる。火力発電は

石炭・石油・天然ガスを燃料としているが、日本ではこれらの資源はほとんどない。火

力発電の電力需要が増大している国は日本だけではなく、世界各国で同じことがおきて

おり、化石資源(石炭・石油・天然ガス)の奪い合いで価格が高騰している。火力発電の

依存度の高いギリシャ・イタリア・ポルトガル・アイルランドは欧州債務危機を招いた。

この 4ヶ国は原子力発電を行っていない。電力料金の高騰が輸出産業の競争力を落として、

輸出を減らし、その一方で化石資源の輸入は増大する。輸入代金を借金して払う。それが

欧州債務危機問題の背景なのだ。火力発電は有害なガスを排出する。酸性雨、光化学スモ

ッグ、オゾン層の破壊、地球温暖化。地球温暖化は雨が少ない地域に干ばつをもたらし、

雨が多い地域には豪雨被害をもたらします。異常気象によって穀物は不作に陥る。アメ

リカ、ロシア、オーストラリア、中国などの食糧輸出国で不作が頻発して世界の食糧が不

足している。それがリビア動乱の原因であり、ソマリアで餓死者が出ている原因となっ

ている。大震災と福島第一原発の事故によって、日本のエネルギー政策は大幅な方向転換

を余儀なくされ、原子力発電所を全面停止せよという声も大きい。だが、原発の即時停止

は、現実的には非常に難しいのである。

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第3章 海外の貿易収支からみる日本

1.世界貿易の現状 世界の貿易額は年々増えており、2005年には輸出・輸入共に 10兆ドルを突破し、

2009年には、輸出・輸入共に約 12兆ドルとなった。特に、2010年の世界貿易は高い伸びを記録した。2010 年の世界貿易(商品貿易,名目ベース)は,1949年以降最大の減少幅を記録した 2009 年の反動もあり、輸出は前年比 22.2%増の 15兆 495億ドルと大

きく増加した。世界的な好況下で取引が拡大した 2004 年に次ぐ、この 30 年間で2番目

に高い伸び率を記録した。1)

表3-1 輸出入統計                           (億ド

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(資料) http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm

表 3-1は近年の輸出入最大国と輸出入額を示したものである。世界最大の輸入国である

米国の輸入数量は 2008 年 11 月以降減少基調に入ったが、2009 年5月に底を打ち、

2010 年6月にようやく危機前のレベルを上回った。しかし、同年後半は伸びが鈍化し、

危機前の水準を下回る月もあった。中国は米国の輸入減少によって 2008 年 11 月から輸出が減少し始めたが、2009 年2月に輸出は底を打った。一方、中国の輸入量は中間財や

原料の輸入が減少し、輸出と同じく 2008 年 11 月から減少したが、2009年1月に底を

打ち、その後 2009年6月には早くも危機前の水準を回復している。中国は、自動車や家

電の普及政策に代表される景気刺激策を講じており、内需の拡大が輸入の回復を後押しし

たと考えられる。さらに 2009 年後半から 2010 年前半にかけて、輸入は急速に拡大し

た。2010 年半ばには一度落ち着いたものの、2010年の後半には再度大きな伸びをみせ

ている。ドイツは、2010 年5月に日本や米国に先駆けて輸出が危機前の水準に回復した

が、輸入は危機前の9割ほどで推移した。

2.貿易収支の推移 貿易収支とは、一国における国外との間での貿易による収支を指す。輸出額から輸入額

を差し引く事で計算される。黒字の場合は貿易黒字国、赤字の場合は貿易赤字国とされる

貿易収支は統計指標として、日本、米国、欧州などの各国が発表している。特に米国の貿

易収支が注目される。

 各国の統計を見てみると、貿易収支額が大幅に黒字となっている国は、中国、ドイツ、

ロシアとなっている。特に中国は、毎年貿易黒字の伸びを続け、06 年には輸出入総額 1 兆 7,607 億ドルに達し、有数の貿易立国となった。もともと中国は 1978 年改革開放政策に転じ、80 年代は貿易赤字が続いていた。しかし、94 年人民元の対ドルレートを管

理変動相場制へ移行し大幅な切り下げを行ったことなどで貿易黒字に転じてきた。その背

景には、外部要因として世界経済が良好に推移したこともがありうる。

 一方、大幅な貿易赤字となっている国は、アメリカ、イギリス、フランスの三国であ

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る。特にアメリカはほかの国と比較すると大幅に貿易赤字となっていることがわかる。

(資料) http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm図 3-1 貿易収支の上位 3国と下位 3国

 日本は、輸出入、貿易収支ともに良い結果となっているドイツと共に輸出依存度が高く、

製造業が強いなど経済構造が類似していると言われている。日本は 1981年以降、ドイツ

は 2001年以降、経常収支の黒字が継続している。なぜドイツは好調に結果が出ているに

もかかわらず、日本は貿易赤字になってしまったのだろうか。次はドイツの貿易につい

て詳しく見ていく。

3.ドイツの貿易に学ぶ日本とドイツは共に輸出依存度が高く、製造業が強いなど経済構造が類似しており、どち

らも経常収支の黒字が続いていると述べた。

 ドイツが経常収支の黒字を記録した 2001年に注目すると、国内の企業立地の優位性を

高めるために税制改革で法人税率をそれまでの 35~40%から一律 25%に引き下げる政

策を実施していることがわかった。2) また、2008年の法人税改革でさらに 15%まで引き下げる等している。この政策を実施することでドイツは国際競争力強化や経済活性化

を積極的に展開してきた。これによって、企業の税金の負担額を軽くして、企業同士の競

争力をさらに高めるとともに、国内への企業立地を促進するのがねらいである。一方、

現在の日本の法人税率は現在 30%。つまりドイツの企業は日本企業の半分の法人税で済

んでいることになる。もっとも企業の税負担という観点では、法人税率より実効税率で

論ずるのが適切である。実効税率で比較するとドイツが約 29%に対し日本が約 41%とな

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っている。

(資料) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/index.htm図 3-2 日本とドイツの法人税実効税率の推移

 つまり、ドイツの法人税率の引き下げによる国際競争力強化や経済活性化を積極的に展

開する中で、ドイツ国内に立地する企業がグローバルに市場を拡大し、内外直接投資の拡

大が起こったことにより貿易黒字の拡大に至ったと思われる。

4.貿易収支改善国 貿易収支はいろいろな条件やその国の政策、為替レートなどで変化することが分かっ

た。もちろんその中で、貿易赤字を、貿易黒字へと変えることも可能である。以下の表

3-2は貿易収支が赤字から黒字になった国の 2004年から 2010年の貿易収支の変化である。

表 3-2 貿易収支が黒字へ変化した国(2004年~2010年)         (億ド

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(資料) http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm

2004年から 2010年の間に、どの国も赤字(マイナス)から黒字(プラス)へと変化している。この中で、一番変化の大きかったのはオーストラリアで、-171億ドルから

140億ドルへと貿易収支を伸ばしている。よって、次に、オーストラリアの貿易収支の

改善について詳しく見ていく。

5.オーストラリアの貿易収支改善に学ぶオーストラリアは世界有数のGDP規模を持つ経済大国である。石炭や鉄鉱石などの資

源が豊富で、主要な輸出品となっている。よって、オーストラリアは資源国というイメ

ージが強いが、経済を支えている産業としては、観光業などのサービス業のほうが大き

くなっている。また、工業製品の輸出には力を入れてこなかったこともあり、貿易は天

然資源頼みとなっている。中国や日本、東南アジア各国との貿易関係は強固だが、各国の

消費の減少や増加によってオーストラリア経済は影響を受けることとなる。

オーストラリアの貿易収支は長期間で見ると、慢性的な貿易赤字国であった。これは、

オーストラリアは原油の生産が少ないため多くを輸入に頼り、輸入品目で最大の項目が原

油となっているためだと考えられる。資源全体の輸出入で見れば輸出超過な感じなので

「資源高」自体は貿易収支の改善要因と思われるが、絶対的に必要な原油を輸入している

ことで貿易赤字を生み出していた。

しかし、直近では貿易黒字国に変わっている。これは近年みられる資源価格の高騰に

よる所が大きいと考えられる。図 3-4では主要輸出品の約 35%を占める石炭の価格が高

騰しているのがわかる。

また、オーストラリアの貿易相手としては、日本や中国を中心とするアジア圏が大き

な部分を占めていると述べた。特に、最近は中国の存在感が増している。現在、中国へ天

然資源の輸出が拡大しているため、赤字傾向の貿易収支が黒字傾向に転換したと考えられ

る。

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(資料) http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm図 3-3 オーストラリアの貿易収支

(資料) http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm図 3-4 石炭価格の推移

 日本には「天然」の資源はあまりないことが知られている。現在、日本ではこれまで

見つかっているものより 10倍以上も高い効率で石油とほぼ同じ成分の油を作り出せる藻

類が発見され、代替燃料の開発が進んでいる。しかし、まだ研究段階であり、うまくい

くとも限らない。日本が近い日に資源大国になることはあまり現実的とは言えない。

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6.政策 上記では、ドイツやニュージーランドの貿易収支から日本の改善策をみたが、次に政

策をみてみることとする。

 まず、経常収支の黒字を維持させるには、貿易黒字にする必要がある。現在この状態を

作り出している国が中国である。よって、中国の政策に着目していく。

 中国の政策と日本の政策を比較してみると「固定為替相場制」か「変動為替相場制」か

の違いがあった。中国は現在、固定為替相場制をとっている。固定為替相場制とは、各国

政府間で、為替レートを固定・維持する制度のことである。

 貿易黒字を増やすには、輸出を増加させ、輸入減少させる必要があるが、固定為替相場

制にしておけば、為替相場の変動に振り回されることを少なくして輸出競争力を確保し、

貿易を円滑に行うことができる。また、メーカーも為替リスクを考えずに生産計画が立

てられるので望ましい。また、固定相場制を敷いたら海外の投資家は日本に投資しやす

くなるというメリットも発生する。

 しかし、日本は 1960年代に行っていた政策ということと、超円高の実情を踏まえれば、

まったく効果が出ないとも考えられる。

7.日本は貿易収支赤字を脱せるのか 31年ぶりの貿易収支の赤字は世間をにぎわせ、経済的面から不安をあおった。貿易収

支が赤字になると、経常収支までもが赤字になってしまうのではないかという考えがあ

がったためである。

 今まで述べたように、海外で貿易収支の赤字から脱却し、貿易収支の黒字に改善してき

た国は、確かにあるのである。表 4-2 貿易収支が黒字へ変化した国(2004年~2010年)を見てもわかるとおり、オーストラリア、ハンガリー、イスラエルなどの多数の国

が、貿易赤字の脱却を図っている。また、ドイツや中国のように政策の面で、貿易収支黒

字を生み出すことも可能である。

 だが、第 2章貿易収支、5.輸出減少による貿易赤字や 6.輸入増加による貿易赤字で述べ

たように、日本の貿易は激しく落ち込んでいる。輸出は、東日本大震災による工場の被災

で、部品供給が停止し、自動車や半導体の輸出が大幅に減少。特に自動車はサプライチェ

ーン途絶による影響を最も色濃く受けた。輸入は、福島原子力発電所の事故により、発電

を火力発電に頼ったことLNG輸入増加などで、輸入額が膨れ上がっている。また、円高

や輸入による国内生産の代替によって、産業の空洞化がおき、貿易収支の赤字につながる

とも述べている。問題解決のために、税制、規制の見直しを含むビジネスの環境の改善

や発電方法の見直しなどを挙げている。本章でもドイツの法人税改正や中国の固定相場制、

オーストラリアの資源によって貿易収支を高めるなどの対策を示したが、やはり東日本

大震災の影響はやはりぬぐえない。東日本大震災の影響での輸出入増減、復興対策に追わ

れる中、法人税改正や為替相場制の議論をするような政府の時間や労力は見込めない。

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 これらの結果から、東日本大震災によって多大な被害をこうむっている日本では、対

策も満足に打つことができず、貿易収支が回復することは絶望的である。このままでは

経常収支までが赤字へと転落してしまうことも考えられるのである。

第4章 国債・金融市場への影響

現在、日本の財政が厳しい状況にあるなか、国債が安定して調達されてきたのは長期間

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にわたり経常収支が黒字だった存在が大きい。これまで、安定的な経常黒字を維持してき

たことが国債に対する信用度にプラスの効果があったものだと考えられる。しかし、現

在、貿易赤字の拡大により、経常収支の黒字幅は減少傾向にあり、赤字へ転落するという

可能性もあるなか国債市場への懸念が高まっている。

1.国債市場への影響(1)国債とは 国債とは、国庫債券の略であり、国の発行する債券である。国債には大きく分けて、普

通国債と財政投融資特別国債(財投債)※1に区分できる。普通国債と財投債はいずれも

国債の一種であり、金融商品としては同じ物である。普通国債は、新規財源債と借換債

※2があり、普通国債の利払い・返済財源は主として税財源により賄われている。普通国

債には建設国債と特例国債(赤字国債)に区分される。建設国債とは、財政法に基づき、

公共事業、出資金および貸付金の財源を調達するために発行するもので、赤字国債とは、

建設国債を発行してもなお歳入が不足すると見込まれた場合、公共事業費など以外の歳出

に充てる資金調達することを目的として発行されるものである。また、現在は復興債と

いうものもあり、平成 23~27年度までに実施する東日本大震災からの復旧復興事業に必

要な財源を確保する事を目的として発行されるものである。国債投資は、円資産として一

番の安全運用先の一つで、利回りが低いなどのデメリットもあるが、元本の保証は日本

国政府が行っており、銀行や証券会社が国債を買った場合、仮にその金融機関が破綻して

も債権は保護されているので安心である。また、国債や政府機関が発行する債券、地方自

治体が発行する地方債を総称して公債と呼ぶ。

※1 財政投融資特別国債とは、財政融資資金において運用の財源に充てるために発行さ

れているもの。財政投融資計画(政策的に必要であり、民間では対応が困難な長期・固

定・低利の資金提供や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能にするための投融資活

動)の歳入の一部となる。

※2 借換債とは、普通国債について償還額の一部を借り換える資金を調達するために発

行されている。

(2)日本の財政 現在、日本の財政は歳出が税収などを上回る財政赤字の状況が続いている。歳出と税収

などの差額を借金で埋め合わせた結果、普通国債の残高は増加して行き、2011年 9 月末

時点の財投債を合わせた普通国債残高は約 770兆円にもなっている。平成 24年度一般会

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計予算の歳入では、合計収入が約 90.3兆円に対し、税収が約 42.3兆円、その他収入が約3.7兆円、合わせて約 46兆円が借金なしでの収入額である。残りの約 44.3兆円が建設国

債・赤字国債の発行によって賄われている。この差額は拡大を続け、歳出のほぼ半分を国

債発行で賄っている状況である。

 図 4-1をみると、1990年台(平成 2~)に入りバブル経済の崩壊が起こり、それまで

同じような推移をしていた歳入と歳出に開きが出たことが見られる。景気低迷を受け政

府は公共事業費等や景気対策費などで大規模な財政支出をすることとなり、95年には公

債依存度も 30%近い数字になっている事が図 4-2からも分かる。97年に財政再建による

大幅な歳出削減と消費税率の引き上げが行われたが景気低迷等により財政再建とはいかず、

財政赤字が急速に拡大していったことが分かる。

 2000年台(平成 12~)に入り、財政収支のバランス改善を目的としてプライマリ

ー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化を目標に、歳出で大きな割合を占めていた公共

事業費等の削減により、歳出削減を図り、また、それに重なり輸出拡大により企業業績が

回復し税収が増したこともあり公債発行高・公債依存度ともに減少したことが図 4-3からも見られる。しかし依然としてプライマリー・バランスは大きな赤字となっている。

 しかし 2008年の金融危機が発生し、それに対応するための経済対策の実施や不況によ

る税収の低下等も重なり 100兆円を超える歳出と約 52兆円の国債発行により財政赤字は大きく拡大した。また、最近では記録的な円高対策の実施や東日本大震災へ対応するため

の支出があり、11年の歳出総額は約 107.5兆円と過去最高額となり公債発行額も 55.8兆円と歳出の半分以上を公債で賄っている状態となった。また、少子高齢化が進む中、社

会保障関係費の割合が年々増加しており、歳出における割合も上昇している。また膨れ上

がった国債費は平成 24年度予算において約 22兆円にものぼり、歳出の約 1/4を占めている。平成に入ってから現在にかけ、財政赤字はより深刻なものとなり、日本の財政は

国債による借金なくてはどうにもならないという国債依存の財政に陥っている。

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(資料)財務省「わが国税制・財政の現状全般」

(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.htm)図4-1 一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

(資料) 財務省主計局「我が国の財政事情」

(http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan004.pdf)

図4-2 公債依存度の推移

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(資料)内閣府「国民経済計算」http://www.cao.go.jp/図4-3 基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の推移

(3)国債市場の現状 現在の日本の国債発行額は、1990年代初頭から現在に至るまで大幅に増加している。

バブル経済崩壊の景気停滞に伴う歳出拡大と税収の減少を受け赤字国債の発行額も増大し

ていった。こうした発行額の増加に伴い国債残高も累積していき、図 4-4をみると主要各国とは比べ物にならないほど急激に上昇したことが分かる。2012年の公的債務残高の対

GDP比は 219.1%と先進国の中で最も高い水準であることが分かる。その国債の保有者の内約を図 4-5でみると、国内の保有者が全体の約 93%を占めていることが分かる。この構造は世界的に見ても非常に高く、アメリカやイギリス、ドイツなどの諸外国では、

国債の 3割以上を外国の投資家が保有しているという構造である。その理由から債務残高

が対GDP比 200%を超えている状況においても日本国債が安定している要因である。債務残高の増加は、国債のリスクを増大させ利率の上昇要因となるが、日銀の長期に渡り継

続している低金利政策や高い貯蓄率を背景とした国内金融機関による国内保有率が高いこ

とにより低金利で安定していると考えられる。

 

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(資料)財務省 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm図4-4 債務残高の国際比較(対GDP比)

(資料)日本銀行「資金循環統計」http://www.boj.or.jp/statistics/sj/図4-5 2011年度末時点の日本国債所有者別内訳

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しかし、少子高齢化が進むことによって貯蓄率が低下することによって、さらに増加

傾向にある国債を国内だけで消化しきれるのかと言う懸念が出ている。2011年度では高齢者世帯の貯蓄額は全体の 64.6%を占めており、高齢者世帯に貯蓄率が偏っていること

が分かる。高齢者世帯うち約 7割を占める無職世帯では 1ヶ月平均の消費支出が約 21 万

円に対し年金収入による可処分所得は約 16 万円と、不足分は貯蓄を切り崩して賄ってい

る。国債保有者の大きな割合を占めている銀行や保険会社などの金融機関は、各機関に預

けられている家計資産の多くを国債の購入に充てているので貯蓄率が低下していった場

合、金融機関が現在の保有割合を維持することが難しくなるリスクがある。

 欧州の政府債務をめぐる問題により、国債リスクが顕在化しているなか、投資家の資金

は質への逃避※3の観点から、国の財政状況を比較し投資する国債の安全性を判断する状

況となっている。日本は高い債務残高があるため、このような国債市場の状況において

財政運営をしていくには、市場で安定的な国債発行と消化が前提となっている。そのた

めには財政健全化が必要であるが、むしろ最近は財政赤字がより深刻なものとなってい

る。また、改善には中長期的な期間が必要となるため、経常収支の黒字を維持し、これま

でのように国債の信用度にプラスの効果を与え続ける必要があると考える。

※3 質への逃避とは、金融市場が混乱し、先行きへの不安感が高まった時に相対的にリ

スクが高く流動性が高い投資対象へ動くこと。

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2.金融市場への影響日本にはこれまで「貿易黒字により企業は輸出によって得たお金を円に替え従業員の給

料や企業の事業拡大などにより、黒字は円高へ、逆に貿易赤字は円安への要因となる」と

いう説が多くあった。

しかし、これは国際収支には貿易収支しかないと考えた場合、貿易赤字は外貨を買う人

が多くなることから外貨高・円安というメカニズムが働くとのことであり、実際に貿易

黒字の場合、円替え等の要因から円高になりやすいが、貿易赤字によって円安になると

は考えにくい。貿易赤字の場合、円が外貨に交換されやすいため円安になりやすいとい

う一つの要因であって為替相場は貿易収支だけで決めることはできないのである。

・「貿易黒字は円高、赤字は円安」のメカニズム

   赤字:外貨を買う人が増加 → 円が外貨に交換されやすいため「円安」

   黒字:輸出増により得た外貨が増加 → 給料等の支払いにより円に交換「円

高」

為替相場は経常収支・資本収支・外貨準備により需給が決まる。これまでは、貿易収支

は黒字、所得収支は黒字だったので経常収支も黒字。黒字ということは、(例:輸出代金

受取が輸入代金支払いより大きい) ということで、その分外貨が余剰になる。余剰外貨

を円に換えようとする(例:ドル売って、円を買う)のでドル安・円高になりがちであ

った。しかし、需給には資本収支もあり、日本の投資家が金利の相対的に高い米国債投資

をすれば国内から資金流出となり、ドル高(円安)になりやすい。つまり、経常黒字より資本収支の赤字が大きいときは円安になりやすい。

実際に貿易収支の発表により円を持つ機関投資家には円売りが優勢という見方が強く出

ている。日本の 10年物国債利回りは 2011年 11 月以降、米国の量的緩和政策や減税を

受けた米インフレ懸念や景気回復期待を背景に上昇。12 月には一時、約7カ月ぶりに

1.295%、年を越えて 1 月にも 1.260%をつけた。ドル高円安になった場合、海外からの製品に頼っているものは価格が高くなるため輸

入に歯止めがかかり、それに頼っている企業は衰退していくという影響がある。また輸

入に歯止めがかかるということは原油の高騰を表し、ガソリン価格の上昇からインフラ

への影響があると考えられる。

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日本円はこれまで、「貿易黒字国の通貨」として世界一の低金利通貨であったため、リ

スクヘッジに円が買われ、国際勢からの安全神話があった。安全資産として国際的に高

い評価を受けてきたのである。しかし、今回の貿易赤字により「貿易赤字国の通貨」とい

う見方がされてくるのではないか。という問題が浮上している。以前までは民間貯蓄超

過と貿易黒字から円が選好され、円に替えておくことが安全資産となっていたため日本

は外貨を多く保有することとなった。よって、日本の外貨準備は世界最大規模の約 100兆円(ほぼ米ドル)を保有している。現在は日本よりも米国の金利が高いため、米国債によ

り得られる金利収入から、元手である国債の支払金利を引いた収支は毎年数兆円規模のプ

ラスになっており、一部が毎年の国の財源として繰り入れられている。今後も米国債の

金利が日本国債の金利より高い状態が続けば、引き続き多額の金利収入が見込めることに

なる。

しかし、貿易赤字の発端から安全神話がくずれ、円替えが無くなれば外貨準備が消え、金

利収入がなくなる。米国経済の低迷とともに米国債の価格が下落した場合、外貨準備に損

失が発生する。最悪の場合は、それまで得ていた金利収入から国の財源としていたもの

が国民負担となる。

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第5章 解決策

 2011年、我が国の貿易収支が 1980年以来 31年ぶりに赤字を記録し、このままでは

経常収支の黒字も危ぶまれると今までで述べてきた。2章貿易収支でみてきたとおり、我が国の貿易収支は赤字基調が続いており、輸出、輸入で見ても、産業の空洞化や、エネル

ギー資源などの問題点が多々あった。さらに、第 3章海外の貿易収支改善では、法人税の改正や為替相場制の議論、エネルギー資源の調達、などの取組を見てきた。日本も見習う

べきところは多くある。しかし、東日本大震災があり、復興対策に追われる中、政策の議

論をする政府の時間や労力は見込めない。また、頼みの綱の天然資源は、日本にはあまり

存在せず、天然資源に頼ることすらできない。これらの結果からもはや、貿易収支が回

復することは絶望的であり、このままでは経常収支が赤字へと転落してしまうことが考

えられる。

 そこで、経常収支を見てみると、貿易収支やサービス収支の赤字が目を引く中、所得収

支の黒字が大きく目立っている。貿易収支が赤字となっている現在、所得収支の黒字によ

り経常収支の黒字が維持されていることがわかる。つまり、財政が悪化する我が国では、

所得収支を安定的に確保し、経常黒字を維持する重要性は益々高まっていると考えられ、

それと同時に所得収支による、経常収支を黒字に保つためのアプローチをしていくべき

なのである。

1.所得収支の現状 まず初めに、所得収支の現状についてみていきたい。

 1996年に 64,230億円であった所得収支は、2007年には 169,320億円まで増加の傾

向を示しながら推移していた。直近の記録が残っているものでは、2007年が所得収支黒字のピークであった。しかし、その後、緩やかに減少、2011年には下がりかけた 2008年ほどまで増加し 140,071億円となったが、現在発表されている所得収支では 61,926億円となっている。ただし、現在発表されている 2012年の所得収支は、現在までのデー

タであるため、参考としてとらえることが必要である。

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(資料)日本銀行 「国際収支統計」

図5-1 所得収支の推移(1996年~2012年)

次に、所得収支の内訳の推移を見ていきたい。所得収支の内訳には、まず、雇用者報酬

と投資収益がある。さらに後者の内訳には直接投資収益、証券投資収益、その他投資収益

がある。打開策を考えていくうえで重要になってくるのは、投資収益の部分であるので

図 5-2では、投資収益の内訳の推移を表している。

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(資料)日本銀行 「国際収支統計」

図5-2 所得収支の内訳ごと推移(1996年~2012年) 投資収益の内訳で最も大きい証券投資は 2007年にかけて増加していたが、その後は減少し、所得収支全体も低下に転じている。2011年に所得収支が増加したのは直接投資や株式配当金が増加したためである。このように所得収支の中で証券投資収益の割合が高い

のは、我が国の対外資産の半分を債券が占めているためである。

 総務省の平成 23年末本邦対外資産負債残高によれば、証券投資は 45%という高い割合を維持している。過去に遡ってみても、訳 40%~50%の高い割合で推移していることがわかった。

(資料)総務省「平成 23年末本邦対外資産負債残高」

                図5-3 対外資産の内訳      

証券投資収益を細かく見ると、債券利子と配当金に分けられる。殆どの年度を比べてみる

と外国債、社債などによる債権利子が株式投資による配当などに比べ 2.6倍も多いことがわかった。リーマンショック以降、米国は大幅な金融緩和を実施してきている。現在は

ほぼゼロ金利に近い水準まで落ちてきており、米国での金利の落ち込みは、そのまま債

券利子の受け取りを減少させている。その結果として、2009年からわずか 2年で債券利子等の受け取りが急激に減少している。これらの理由から、証券投資収益を伸ばす余地は

少ないことがうかがえる。

 図 5-2では直接投資収益の増加も見られる。1996年から 2004年にかけては目立った増加はないが、2005年から増加してきている。

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 対外直接投資の現状を詳しく見てみる。まず、我が国の国内投資と対外直接投資の関係

をみると国内投資が 1990 年代前半には 140~150 兆円で推移していたのに対し、現状は 100 兆円を切る水準まで低下して推移している。一方、対外直接投資は 1990年代半

ばから     

2005 年までは 1~4 兆円で推移してきたが、その後は増加基調に転じ、リーマンショック後の一時的な減少を経て、2011 年には 10 兆円弱まで拡大している。すなわち、国内は投資が伸び悩む一方、海外投資が増加基調で推移している。

 (資料)JETRO http://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/fdi/

図5-4 日本の対外直接投資の推移(国際収支ベース、ネット、フロー) 

 さらに、証券投資、直接投資の収益率に着目すると 1997年から 2000年までは証券投資の収益率が低かったもののそれ以降は直接投資の収益率が高いことがわかる。とくに、

2005年から 2007年をみると、2005年・8.9%、2006年・8.4%と高い水準で推移し、2007年には 9.6%と近年では最も高い収益率であった。証券投資と直接投資を比較したとき、より直接投資の収益率が高いことがわかる。

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資料 日本銀行「国際収支統計」

図5-5 投資収益率  (注)証券投資収益率=(当年証券投資収益(受取))/

{(前年証券投資残高+当年証券投資残高)/2}  (注)直接投資収益率=(当年直接投資収益(受取))/

{(前年直接投資残高+当年直接投資残高)/2}

 以上のことから、直接投資は、証券投資とは違いまだ増加する可能性が大いにあり、海

外投資が増加基調で推移し、収益性も高いことがわかった。これらを踏まえると、経常収

支を黒字に保つために急務であるのは、直接投資を増やすことがわかる。また、海外投

資が増加基調で推移していることから、海外に目を向けてみる必要性がある。次に、直接

投資をいかにして増加させるかについて見いだしていきたい。

2.直接投資を増加させるには それでは、直接投資を増加させるためには、どうすればよいのだろうか。

日本の地理に着目してみると、近隣に、経済発展が著しいアジアが存在し、高収益が期

待される直接投資を行うことが容易であることがわかる。現状としても、中国などとの

直接投資が増加してきているのは事実であり、今後今まで以上にアジアとの直接投資を

増加させていくべきである。

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表 5-1 直接投資の推移(100 万ドル)

(資料)日本銀行「国際収支統計」

海外投資を今後より一層増加させ、アジアからの受け取りを増やせば、国内投資が減っ

ても、経常収支は赤字にならず、黒字を維持することができることになる。日本企業が

今後アジアとの分業ネットワークによる互恵的(WIN-WIN)な関係をいかしつつ直接投

資の収益性を高めるためには、事業ネットワークの形成を促進する事業環境整備を進めて

いくことが重要である。アジア向けの直接投資を拡大させることは所得収支の拡大とい

う効果のみならず、国際事業ネットワーク形成を通じた我が国企業の生産性の向上にもつ

ながるものであり、いわば日本の産業的な「投資立国」への道をひらくことである。

また現在の日本は世界最大の対外純資産を有しており、対外投資の増加が所得収支の増

加につながるようになっている。しかし将来において、対外純資産の増加ペースが鈍化

していった場合でも、所得収支を維持していくためには、対外投資の収益性を高めてい

くことが必須となる。収益性の高い直接投資を維持してくことが、日本が経常黒字を維持

していくための条件になるのである。

つまり、日本の直接投資の収益率を高めるためには、以下の 3つが必要である。

①我が国の対外資産の直接投資シェアを高める。

②対アジア投資シェアを高める。

③直接投資収益率自体を向上させる。

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 3.直接投資の問題点 今まで、直接投資の利点を述べてきたが問題点ももちろん存在する。日本が今後、所得

収支に重きを置き、投資立国を目指すのであれば、直接投資では企業が工場を海外に移転

させたりするため、日本国内の産業の空洞化が懸念されている。さらに、海外に工場を

移転するためには、製品を作る技術、工場を運営するためのノウハウなどが必要になる

ため、これらが海外に流出する可能性がある。

 対外直接投資の拡大に伴って国内就業者数の減少が生じているかどうかを検証するため

各国の国内就業者数の動向を比較してみたい。まず、我が国の就業者数の動きをみてみる

我が国は製造業の就業者数が 2005~07 年まで増加しているのを除き、すう勢的には減少傾向で推移しており、とりわけ 09 年にはリーマンショックの影響により顕著に減少し

た。一方、非製造業の就業者数は増加傾向で推移しているものの、足下は製造業での減少

を補いきれておらず、その結果全産業での就業者数は 09年以降においては減少傾向で推

移している。更に大震災の影響等もあり、就業者数は 2012 年まで減少傾向で推移してい

る 1)。ただし、2012年以降は復興需要等の影響もあり、若干の増加傾向に転じている。

つまり、直接投資は少なからず日本国内の雇用に影響を与えているといえる。

そもそも、産業の空洞化が問題となり始めたのは、1985年のプラザ合意以降である。原因は、急激な円高と考えられる。また、製造業の海外生産が進む中、国内における新規

工場立地は、都市部を中心に減少した。続いて、工場立地件数をみると、国内の新規の工

場立地も都市部を中心に急速に減少した。これは、大都市圏に比べて豊富な土地や安価な

労働力という地方部の優位性も、企業活動のグローバル化のなかでは、東アジアをはじ

めとする海外の地域に劣っていたともいえる 2)。

 これの問題を解決しなければ、直接投資の利点が高いからと言って、そう簡単に直接投

資を増やそうとはならない。よって、産業の空洞化対策について考えていきたい。

 まず、産業の空洞化の解決策は、日本を産業の空洞化から救う方法が直接投資をするこ

とであると考える。円高を利用した対外直接投資の増大により、海外市場でのシェアを拡

大させるべきである。一般に海外販売比率が 70~80%に達している企業は日本を代表す

る優良企業であり、そうした企業は日本での生産、雇用、設備投資も着実に増加させてい

る。日本企業の技術力は中小企業を含めて世界最高水準であり、日本でしか生産できない

高付加価値製品も多い。こうした高付加価値製品の売上げは日本国内市場に頼っていては

高い伸びを期待できない。世界市場で大きなシェアを確保して初めて高い伸びの実現が

可能となる。円高でドルベースの価格が上昇しても、海外では生産できない高付加価値製

品の需要は衰えない。したがって、最も有効な円高対策はそうした製品を生み出す世界最

高水準の技術力を維持・向上させ、それらを必要とする新興国などの市場でシェアを拡大

することである 3)。

 直接投資の問題点が産業の空洞化であって、その産業の空洞化の解決策が直接投資だと

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いうのはおかしい。しかし、直接投資には産業の空洞化というリスクがあるが、それを

上回るメリットがある。一般に国内生産が、海外生産と代替関係にある場合には、海外生

産の拡大に伴って国内生産が減少する可能性があると考えられる。しかし、基幹部品の国

内生産のように海外生産と補完的な関係を有するものもありうるため、国内生産が海外生

産と必ず経済的に両立しえない関係になるとは限らない。足下の製造業の国内生産の減少

は、世界経済危機や大震災等の外的ショックによって生じている側面が強く、短期的な現

象にとどまる可能性もある。また、仮に海外生産の拡大により、既存産業の縮小が起こっ

た場合でも、国内で新産業が拡大すれば、経済全体としてはむしろプラスとなる可能性

もある 1)。

また、海外事業活動においての業績雇用面以外のメリット・効果には、取引先の拡大、

海外市場の動向把握、企業価値向上、リスク分散などがあるため、企業がこのようなメリ

ット・効果で生まれた利益などを国内に還元していけばよい。但し、中長期的に国内事業

環境の悪化が続く場合には、海外での生産の拡大が加速し、国内生産が減少していく可能

性は否定できないと言え、十分な注意が必要である。

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第6章 終章これまで、日本の貿易赤字が問題になっている要因を述べてきた。第 1章で述べたと

おり、それは、貿易収支の赤字が経常収支の赤字へと繋がる懸念がある事だ。すでに経常

収支の黒字幅は減少傾向にあり、それが今後の経常収支の赤字へと繋がるのではないか

という考えがある。国債・金融市場へ悪影響となるのは、貿易赤字が大きな要因となって

いる事がわかった。

 第 2章では、日本の貿易収支の悪化は、輸出と輸入どちらにも原因があることがわかった。輸入額増加の原因は、LNGと石油価格の上昇、産業の空洞化、高齢化進展に伴う輸

入誘発効果である。東日本大震災の影響である火力発電比率の上昇は、一つ目に述べた

LNGと石油価格の上昇に含まれる。輸出額減少の原因は、超円高の影響と海外の景気の

低迷、東日本大震災による自動車や半導体などの電気機器の輸出減、タイの洪水によるサ

プライチェーン寸断の影響である。これらを改善させるためには、輸出と輸入の両方に

おいて、新たな産業構造の転換と高度化が非常に重要になってくる。産業の高度化は、付

加価値の低い鉱工業などから、付加価値の高い半導体などのハイテク産業や金融などのサ

ービス業へ移行することを指す。国が発展途上国から開発途上国、先進国へと発展してい

くのと同時に移行していくのだが、日本は既に先進国となっており、移行が進んできた

が、「産業の空洞化」などの問題の解決させるためにも、開発などを行い、更なる「産業

の高度化」を進めるべきであると考えられる。

第 3章でとりあげたドイツを参考にみると、法人税率の引き下げによって税金の負担

が軽くなり余裕が生まれ、ドイツ国内の企業が市場を拡大し、内外直接投資の拡大が起こ

ったことにより貿易黒字の拡大に至ったと考えられ、先進国の中でも重いとされる日本

の法人税が、企業のグローバル市場の開拓の足枷になっていると考える。また、オース

トラリア、ハンガリー、イスラエルなどの多数の国が、貿易赤字の脱却を図っており、

ドイツや中国のように政策での貿易収支黒字を生み出すという方法もある。しかし、日

本は近年の産業の空洞化、震災の影響による貿易収支の悪化は他国とは環境も状況も異な

り、法人税改正や為替相場制の議論をするような政府の時間や労力は見込めない。日本の

現状では十分な対策のすべはなく貿易収支が回復することは絶望的である。

 第 4章では国債・金融市場への影響を述べ、国債が安定して調達されてきたのは長期間

にわたり経常収支が黒字のため、国債に対する信用度が高いためである。だが、貿易収支

の赤字により経常収支の黒字が減少している。欧州債務危機により、投資家は、国の財政

状況を比較し投資する国債の安全性を判断する状況となっている。日本は高い債務残高が

あるため、安定した国債調達のためには市場で安定的な国債発行と消化が前提となる。そ

のためには財政健全化が必要であるが、むしろ最近は財政赤字がより深刻なものとなっ

ている。改善には中長期的期間を要するため経常収支の黒字を維持し、これまでのよう

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に国債の信用度にプラスの効果を与え続ける必要があると考える。金融市場においても、

日本円はこれまで、「貿易黒字国の通貨」として世界一の低金利通貨であったため、リス

クが少なく安全資産として国際的に高い評価を受けてきた。現在は米国債の金利が日本国

債の金利より高いため多額の金利収入が見込めるが、今回の貿易赤字により「貿易赤字国

の通貨」となり円替えが無くなれば外貨準備が消え、金利収入がなくなってしまう。米

国経済の低迷とともに米国債の価格が下落した場合、外貨準備に損失が発生し、金利収入

から国の財源が国民の負担になるおそれもでてくる。

 第 5章は経常収支の黒字を維持する打開策として黒字である所得収支をさらに増加させ

ることを挙げ、所得収支の中でも伸び代があり収益性の高い直接投資に注目をした。直接

投資は企業の海外移転が増えているため国内産業の空洞化により懸念されているが、円高

を利用した収益の高いアジア諸国からの直接投資での海外市場拡大や新産業として海外生

産と補完的な基幹部品産業が増えることで、直接投資の増加のみならず経済全体としても

メリットとなり得る。

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1章1)「経常収支」kotobank.jp (http://kotobank.jp/).2012.10.23取得

2章1)「Trade Statistics of Japan Ministry of Finance」(http://www.customs.go.jp/toukei/info/) 2012.06.11取得

2)「トリセツ」(http://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201108e.pdf) 2012.06.11取得3)「第 1節 内外経済の動向」(http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h22/h22/html/k111000.html) 2012.06.11取得

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Hashigozakura」(https://hashigozakura.wordpress.com/) 2012.06.11取得

・「日本貿易復興機構」(http://www.jetro.go.jp/indexj.html)・「財務省貿易統計」(http://www.customs.go.jp/toukei/info/)・「日本経済研究センター JCER」( http://www.jcer.or.jp/)・「経済大転換論』(http://diamond.jp/articles/print/15962)・「三菱 UFJ リサーチ」(http://www.murc.jp/report/research/list.php?s%5B%5D=202)

3章1)「一般財団法人 国際貿易投資研究所 『商品貿易』世界各国の輸出額」

(http://www.iti.or.jp/tradestat.htm) 2012.06.19取得2)「岡田晃の快刀乱麻 経済コラム vol.11現地に見る欧州経済危機(3)

~ドイツ経済の強さの“秘密”」(2012.2.14)

・「大和証券 経済分析レポート」(http://www.dir.co.jp/souken.html)

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・「週刊東洋経済(東洋経済新報社,)『2014~15年に経常赤字へ』」2012.06.24取得

・「野口悠紀雄製造業が日本を滅ぼす : 貿易赤字時代を生き抜く経済学」ダイヤモンド

社(1012.04)

4章・「御園謙吉・良永康平 『よくわかる統計学Ⅱ 経済統計編 第 2版』」

ミネルヴァ書房(2011)・「債務管理リポート 2012―国の債務管理と公的債務の現状―」

(http://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2012/index.html)

・「財務省HP 国債」 (http://www.mof.go.jp/jgbs/index.html) 2012.11.3取得・「日経ビジネス 国債が売れなくなる日

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n1.htm)2012.11.7取得・「ロイター 日本国債の海外保有率が過去最高の 8.7%、質への逃避が継続」

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html) 2012.11.7取得

5章1)「第 3章 我が国企業の海外事業活動の展開」

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