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Title 世界の捉え方にみる学習者の特性とクラス・ダイナミク ス : BEVIの結果に基づく分析 Author(s) 東矢, 光代; 當間, 千夏 Citation 言語文化研究紀要 : Scripsimus(28): 23-45 Issue Date 2019-10-31 URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/45147 Rights

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Title 世界の捉え方にみる学習者の特性とクラス・ダイナミクス : BEVIの結果に基づく分析

Author(s) 東矢, 光代; 當間, 千夏

Citation 言語文化研究紀要 : Scripsimus(28): 23-45

Issue Date 2019-10-31

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/45147

Rights

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『言語文化研究紀要』 SCRIPSIMUS No.28, 2019

世界の捉え方にみる学習者の特性とクラス・ダイナミクス:

BEVIの結果に基づく分析

東矢 光代 ・ 當間 千夏

1.はじめに

 近年、国際社会では国境を越えた世界共通のグローバルな人材像、教育目標

が共有・実行されている。OECDは、グローバリゼーションと近代化による世

界の多様化、緊密化を背景に1997年より調査を開始、2003年に国際的社会の中

で必要とされる資質として「状況に応じてツールを使い分ける力」「多種多様

な集団の中でやりとりをする力」「自律的に行動する力」に関する「キーコン

ピテンシー」を設定した(DeSeCo Project, 2003)。2018年には、2030年以降の予

測不可能な世界に対応するため教育で涵養されるべき新たなコンピテンシー

として「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマを克服する力」、「責任あ

る行動をとる力」の3つが提示された(OECD, 2018;日本語訳は文部科学省,

2018による)。また、UNESCOではESD(2005 ~ 2014)、SDGs(2015)等、現代社

会共通の課題を解決し、持続可能な社会を創造するための教育プログラムが提

案され、世界各国において「持続可能な社会」を構築するための取組が行われ

ている。

 急速に進むグローバル社会に対し、大学等の高等機関はこのようなスキル・

コンピテンシーを有した人材、すなわちグローバル人材の育成を社会から期待

されている。その一環として様々な教育プログラムの開発・実施が行われて

きている現状がある。以上を背景に、本稿では、文部科学省の「平成30年度大

学の世界展開力強化事業」に採択された琉球大学で取り組んでいるグローバ

ルリーダー育成の試みと、客観的学習成果・留学の外部評価指標であるBEVI

(Beliefs, Events and Values Inventory)の活用について、報告・分析するものである。

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2.日本の大学におけるグローバル人材育成の試み

 国際社会で世界共通の目標、人材像が議論される中、日本政府は2011年に「グ

ローバル人材育成推進会議」を設置し、グローバル人材育成戦略に関する方針

を定めた。本会議では、日本人留学学生数の減少を問題意識として、留学学生

数の増加とグローバル人材の育成を目的に、教育機関と産業界における問題点

と今後の方向性が議論された。それを受けて、同年より、文部科学省の大学支

援プロジェクトとして、国際的に活躍できるグローバル人材育成と大学の国際

展開力の強化を目指した「大学の世界展開力強化事業(以下、世界展開力事業)」、

2013年より官民協働で高校生、大学生の多様な海外渡航を支援する「トビタテ!

留学JAPAN」、2014年よりグローバル人材育成、日本の高等教育の国際競争力

の向上を目的とした「スーパーグローバル大学創成支援事業」など海外留学の

促進、大学の国際化、大学の国際通用性の向上を目的とした取組が実施されて

おり、大学教育においても、グローバル人材育成は喫緊の課題である。 

3.グローバル人材育成・留学の評価指標について

3.1 日本国内の状況

 先に述べたとおり、日本の大学においても海外留学制度や、国際教育に関す

る教育プログラムなど、グローバル人材育成に関する取組が積極的に進められ

てきた。しかし、河合塾(2018)が指摘するように、留学による効果検証は十分

に行われてこなかった。また、永井(2018)が言及しているように、留学プログ

ラムの検証において英語能力はTOEICやTOEFLなどの既存の尺度により効果測

定が行われているのに対して、態度や価値観等の心理特性の測定は難しく、各

大学やプログラム単位で独自に開発したアンケートや指標を用いて測定してい

るのが現状である。

 必ずしもプログラム独自に開発した手法が不十分という訳ではなく、例えば

2018年5月号の『大学時報』の小特集「海外留学体験の効果測定に対する取り

組みー海外短期派遣プログラムを中心にー」で取り上げられている、立教大学

異文化コミュニケーション学部の海外留学研修では、外国語能力の伸びや異文

化適応能力は副次的なものとして、海外留学研修で経験したことを高年次での

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履修に結び付け、効果測定そのものが学生の学びにつながることを目的とし

て、ワークショップ形式を用いた独自の効果測定を実施しているという(池田,

2018)。つまり、目的に応じた測定方法を選択することが重要ということであ

るが、本学を初めとした多くの大学のグローバル人材育成では、異文化理解や

主体性などの価値観や態度の育成を目的としており、それらを客観的に計測す

る方法が必要となってくる。

 日本の大学でグローバル人材育成の効果測定に使用される評価指標の一つ

に、リアセックと河合塾が共同開発した社会人基礎力測定テストPLOGが挙げ

られ、SGUに採択されている芝浦工業大学などが、グローバル人材育成事業の

評価指標として利用している。PLOGは、社会人に求められるスキルを「リテ

ラシー」と「コンピテンシー」という2つの側面から計測するテストで、実社

会で活躍する若手リーダーの行動特性を基準に、受験者の社会人としての能力

が位置づけられる。芝浦工業大学では、基準となる若手リーダーの層をグロー

バル人材のみに絞ることで、グローバル人材育成の効果を測定している(村上,

2013)。

3.2 アメリカ合衆国での状況

 翻って、国内での文化多様性を内包する米国での評価指標に目を移すと、海

外学習プログラムが大学レベルで、より早い年代から評価の試みがなされてい

る。ここでは、1957年より海外学習開発の分野で積極的に活動を行ってきたミ

シガン州立大学のOffice of Study Abroadが行ったIntercultural Development Inven-

tory(IDI)、Global Perspectives Inventory(GPI)、Beliefs, Events, Values Inventory

(BEVI)という3つの指標について、海外経験の学習成果計測ツール指標とし

て使う場合の特徴と妥当性の分析結果を紹介する(Roy, Wandschneider, & Steg-

litz, 2014)。

(1) IDI(Intercultural Development Inventory)

 IDIは、対異文化感受性発達モデルに基づき、回答者の対異文化能力を単一

文化思考から多文化思考へと発達する6段階のステージに分類するテストであ

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る。受験はオンラインで実施される。質問は50項目あり、回答の所要時間は15

分から20分である。14の言語により受験が可能であり、30カ国の170以上の大

学によって利用されている。

(2) GPI (Global Perspectives Inventory)

 GPIは、キャンパス内外の経験と海外での学習経験の関連に焦点を当てたテ

ストである。大学での経験を問うフォーム、新入生が記入するフォーム、留

学を経験した学生が渡航後に記入するフォームの3種類の回答フォームがある。

本テストは、国際学習を「認知的側面」並びに、アイデンティティや情動を含

む「個人的側面」、社会的なやりとりや、社会的責任を含む「対人的側面」の3

つの側面から分析する。テストはオンラインで実施され、質問は67-76項目で、

回答の所要時間は15分から20分である。

(3) BEVI (Beliefs, Events, Values Inventory)

 BEVIは、「誰が、どのように、どうして、どのような背景の元で、何を学ん

だのか」を測るテストで、広い分野における応用場面、事業評価、研究に利用

されている評価指標である。回答者の生い立ちや経験を背景として、価値観や

信条の形成を計測する構造であることから、BEVIにおいては、国際的、多文

化的な学習の過程及び結果を形成する、2つの妥当性と17のスケールに関する

質問項目に加えて、受験者の背景情報や人口統計学的情報を問う項目が存在す

る。具体的には、①人口統計学的情報/背景項目(年齢、ジェンダー、民族的

分類、国籍、これまでに訪れた国など)、 ②ライフヒストリー、背景情報に関

する質問、③2つの妥当性と17のスケールに関する質問項目、④自身の経験に

関する内省の記述という、相互関連性のある4つの質問群によって構成される。

なお、③にある17のスケールは、7つの領域に分類されるが、その詳細につい

ては、本研究の分析方法の項でさらに説明する。受験はオンラインで行われ、

簡易版(Short form)では40項目の背景質問(性別や年齢、宗教や学歴に関する

質問)と185項目のテスト項目によって計測され、所要時間は20分から30分であ

る。受験データは自動的にweb上で統計処理できるため、受験監督者・管理者

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はウェブ上で、対象グループの統計の結果を即座に確認し、分析を行うことが

できる。

 本指標は、受験者の意図的な回答のコントロールを避ける設問と基礎情報や

背景情報などのデータにより、留学等の経験が受験者に対して与えた影響を、

客観的に計測することが出来る。また、各プログラムの目的に合わせて記述項

目のカスタマイズが可能な点も、メリットと言える。統計処理が迅速かつ簡単

にできることも、強みだと言えよう。一方デメリットは、各スケールの意味解

釈が難しく、適切に利用するためには、管理者・分析者に訓練が必要な点である。

 ミシガン州立大学の2014年資料においても、BEVIは推薦できる評価指標と

して紹介されているが、本テストは北米の約60の高等機関において利用されて

いるという。日本においては、2017年度に広島大学がBEVI-Jとして日本語版を

開発したことから、広島大学を中心に、本学を含め龍谷大学、関西大学などで、

留学や国際体験の前後における価値観、心理的側面の変化の測定に採用されて

いる。

4.琉球大学のグローバル人材育成と「グローバル津梁プログラム」副専攻

 琉球大学では、平成21年度より実施されてきた学士課程教育質保証プログラ

ム「University of the Ryukyus Global Citizen Curriculum (URGCC)」により、21世紀

型市民(グローバル市民)の育成を目標としてきた。平成28年度に開始された

大学の第三期中期計画では、より組織的、実質的なグローバル人材の育成を

行うため、戦略1「国際的な島嶼型高等教育システムの構築に向けた教育改革」

における三事業(入試改革、太平洋島嶼地域編入学制度(以下、太平洋編入学)、

グローバル人材育成)の一部として、平成29年度よりグローバル人材育成加速

化事業「グローバル・プログラム津梁(以下、GP津梁)」が開始された。

 GP津梁では、「多様性を受容し協働する」ことのできる島嶼型グローバル人

材の育成を掲げ、CEFRを基に本学が甲南大学と共同で開発した語学力指標「グ

ローバル・モジュール」(伊庭・石川,2014)による学内語学教育・留学事業の

集約、大学図書館内の国際教育スペース「グローバル・コモンズ津梁」の設置

運営、国際教育学生サポーター「グローバル・コモンズ コンシェルジュ」の

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運営等、組織的なグローバル人材育成の仕組み作りを策定し、実施している。

2019年度からは、グローバル人材育成を実質的に実施するための副専攻「グロー

バル津梁プログラム(以下、グローバル副専攻)」の設置、提供が開始された。

加えて、太平洋編入学の流れを汲んで2018年に選定された世界展開力強化事業

により、グローバル副専攻を中心にCOILを活用して太平洋島嶼地域連携大学

との遠隔授業が導入されることとなり、短期海外研修の事前学習や、国際教育

授業等においてCOILを活用した交流、協働が一部開始され、より有機的にグ

ローバル人材育成を行うことが可能となった。

 グローバル副専攻で育成する人材像は、「異なる背景を持つ人々と協働する

精神・スキルを持ち、自身の専門を軸に複合的な視点でグローバルな課題にア

クセスすることのできる人材」である。具体的な項目に置き換えると、①異文

化理解態度及び異文化協働スキル、②英語力、③自身の専門分野の理解とその

他の文脈の関連性を見つけ出すことの出来る力の3点に集約される。③につい

ては、さらに2つのリーダー像に分類される。1つは、専門分野を超えて複合的

な問題を統合し、課題解決の仕組み作りが出来る統合型リーダー、もう1つは、

専門的な分野と全体的な枠組みとの関係性を認識した上で、特定の課題に関す

る課題解決のための仕組み作りが出来る特定課題型リーダーである。それぞれ

分野を超えた課題解決能力と特定の専門分野に特化した課題解決能力のどちら

かに重点がおかれる。

 上記①~③の力を養成するため、本副専攻ではグローバル実践演習科目(10

単位)、グローバルコミュニケーション科目(10単位)の2つの必修科目群(そ

れぞれ①、②に対応する)と、選択科目(8単位、③に対応)の履修、海外渡

航を修了要件として課している。選択科目には5つの系(グローバルマネジメ

ント系、グローバルライフサイエンス系、グローバルテクノロジー系、グロー

バルヒューマニティ系、グローバルアソシエーション系)があり、登録学期に

出す履修計画表で統合型か特定課題型のどちらかを選択し、上記統合型リー

ダーを選択する場合は1つの系から集中して履修、特定課題型リーダーを希望

する場合は異なる2つ以上の系からの履修を行う。

 グローバル副専攻の中心となるのは、異文化協働型の実践授業「グローバル

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実践演習Ⅰ~Ⅳ」(グローバル実践演習科目群、必修)である。これらの科目では、

日本人学生と外国人留学生がチームを組み、国際問題に関するトピックについ

て協働で調査し、ディスカッションやプレゼンテーション、パンフレットの作

成等多様なアウトプットを行うことで、国際的な問題に関する知識を深めると

ともに、自分自身と異なる文化・言語を持つ相手との協働に必要なスキルや態

度を、実践を通して学び取らせることを目的としている。Ⅰ~Ⅳと履修が進む

毎に、実践内容、養成される協働能力・態度のレベルが高くなる。2019年度は

グローバル実践演習Ⅰ、Ⅱの提供が開始されたが、Ⅲ、Ⅳの提供が開始される

2020年度までには、各講義で育成される知識、スキル、態度を明確化した異文

化協働ルーブリック(仮)が完成する。ルーブリックで明示化される異文化協

働知識、スキル、態度が、副専攻で養成される具体的な能力となる。本副専攻

への実質的な登録は2019年度開始で、初年度の前期時点での履修登録者数は21

人であった。

5.本研究の目的と課題

 世界の趨勢ともいえるグローバル社会で活躍・機能できる人材の育成・確保

は、日本の大学においても、そのプログラムやカリキュラムに影響を及ぼして

いる。しかし一方で、「グローバル人材」の能力・資質についての評価は未だ

途上の段階にあり、取り組みの効果測定は現在進行中であると言える。プログ

ラム評価の試みにおいて、世界展開力事業ではプラットフォーム大学である関

西大学のリーダーシップの下、BEVIの活用が急速に進められている(関西大

学グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)公式HP, 2019/8/1確認)。こ

のBEVIを用いてどのような分析が可能なのか、本稿では前項で紹介したグロー

バル津梁プログラム副専攻の学生に対し、登録当初のプロファイリングを試み

ることにした。またその比較対象として、学内の改組により平成30年度から発

足した国際地域創造学部、並びに教育学部の2年次学生対象のクラスで得たデー

タを一緒に分析する。なお本稿ではBEVIと表記しているが、実際には日本語

版のBEVI-Jを指す。2つのグループの相違を明らかにすることで、今後のグロー

バル津梁プログラム副専攻のカリキュラム、並びに英語コミュニケーション能

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力の育成を目指す授業のあり方について論じる。

6.研究方法

6.1 研究対象者

 本調査の対象者は、2つのグループに分かれる。1つ目は、2019年前期にグロー

バル津梁プログラム副専攻に所属していた20名(男性6名、女性14名)で、学

年は1年次6名、2年次9名、3年次5名であった(以下「津梁」グループ)。その

学部専攻の内訳は、国際地域創造学部(国際地域創造学科)9名、人文社会科

学部2名(人間社会1名、国際法政1名)、農学部(亜熱帯農林環境科学科)1名、

法文学部(国際言語文化学科 英語文化)5名、理学部(海洋自然科学科)3名(科

学系2名、生物系1名)となっていた。2つ目のグループは、同じく2019年前期

の時点で「メディアの英語」を履修していた学生30名(男性8名、女性22名)であっ

た(以下、「メディア」グループ)。学年は1年次1名、2年次29名で、30名のう

ち23名が国際地域創造学部、7名が教育学部に所属していた。

6.2 BEVIの受験と分析方法

 データ収集は各グループごとに実施し、津梁グループは、学期開始後約6週

間が過ぎた2019年の5月後半に、メディアグループは、中間テストが終了した

後の6月中旬に行った。なお、別事業でBEVI受験をデータ収集日に近い時期に

受験した学生に関しては、短期間での複数回受験による慣れを避けるために、

受験済のデータを利用した。

 分析はBEVIの管理者画面から、グループごとに、全体の傾向を示すAggre-

gate Profile、各項目についてのグループ内分布を示すDecile Profile、Full Scale

Scoreの結果によりHighest(高得点群)、Middle(中得点群)、Lowest(低得点群)

の3グループの比較を行うProfile Contrastを作成した。次項では、それぞれの分

析グラフについて、2つのグループ結果を比較しながら述べる。

 実際の結果分析において、その中核をなす17のスケールが表示されるが、

永井(2018)とBEVIの公式サイト(http://jp.thebevi.com/about/scales/)を参照する

と、まず、BEVIの結果の妥当性は、一貫性(consistency)と適合性(congruency)

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という2つの妥当性尺度により確認できる。その後に続く17の尺度は7つの領域

を示す因子(variable)に分類される。因子を1から7まで概観すると、回答者

の背景と幼少期の体験により形成された価値観や信条に始まり、それにより発

展したであろう基本的な性格や考え方が測定され、思考の傾向、自己の捉え方

と進み、それに立脚した他者や外界の事象への意味づけへと配列されている。

これはBEVIの根拠となる均衡統合理論(Equilintegration Theory(Shiely, 2016;

日本語訳は永井,2018による))に基づくものである。

 BEVIは人間の信条や価値観、すなわち自己・他者をどのように見るかを、

17のスケールにより測定する評価指標であるが、特にグローバル人材としての

スキル・考え方に関連するのは、領域6と7を形成するスケール13から17である。

その中でも異文化や多様性への柔軟性・開放性を示す指標としてまず注目すべ

きは、スケール15(社会文化的オープン性,Sociocultural Openness)、スケール

16(生態との共鳴,Ecological Resonance)、スケール17(世界との共鳴,Global

Resonance)である。次項からの分析結果においては、特にこれらのスケール

に着目しつつ、その前提となる自己の発達状況や信条・価値観のスケールにつ

いても言及していく。

7.結果と考察

7.1 Aggregate Profile

 図1は津梁グループ、図2はメディアグループのAggregate Profileを示している。

Aggregate Profileは、先述の妥当性と17のスケールの結果を示すグラフで、スコ

アを100ポイント満点で表している。ConsistencyとCongruencyについては妥当

性の指標であるため、7~8割あることがのぞましい。17のスケールについては、

BEVIの持つ膨大な過去のデータにより統計処理され、50ポイントを平均とし

ているため、50ポイントの基準より大きく上回るか下回るかが、そのグループ

の回答の特徴を示していると解釈できる。本調査においても、まず2つのグルー

プともデータの信頼性を示すConsistency ScoreとCongruency Scoreが100点満点

の70点相当を確保していることから、その下の17のスケールの分析に進んだ。

 津梁グループ(図1)の結果では、スケール11が86ポイント、15が82ポイント、

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17が74ポイントと、その他の値に比べて高い。このことから、自身の内面の複

雑さに向き合うことができ、世界に対する関心が高く、異文化や多言語を学び

協働する意欲を持っている集団だと考えることが出来る。スケール16も58ポイ

ントと50ポイント以上あることから、成長の余地はあるものの、低くはない値

だと思われる。また、スケール14は16ポイント、13が23ポイントと値が低いこ

とから、ジェンダーと宗教に関してリベラルな価値観を持っているといえる。

その他の特徴としては、スケール7が42ポイントで、8の56ポイントに比べて低

く、13ポイントの差がある。物事を白黒のみで判断するのではなく、多様な価

値観を受容する傾向があるグループであると分析出来る。このことから、全体

的な傾向として、既にグローバルな意識、価値観を持った集団であると考えら

れる。

 対するメディアグループ(図2)においても、スケール11が83ポイント、15

図1. Aggregate Profile(津梁)

1 Aggregate Profile

2 11 83 15 74

17 71

14 17 13 28

7 8 7 42

46 8 40

7 8 56

2 Basic Determinisim

Sociocultural converigence 16

Consistency ScoreCongruency Score

1. Negative Life Events2. Needs Closure

3. Needs Fulfillment4. Identity Diffusion

5. Basic Openness6. Self Certitude

7. Basic Determinism8. Socioemotional Convergence

9. Physical Resonance10. Emotional Attunement

11. Self Awareness12. Meaning Quest

13. Religious Traditionalism14. Gender Traditionalism15. Sociocultural Openness

16. Ecological Resonance17. Global Resonance

72 77

37 16 59 45 65 42 42 56 71 51 86 54 23 16 82 58 74

Low High

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が74ポイント、17が71ポイントと、津梁グループの値よりは少し低いものの、

その他の値に比べて高く、自身の内面の複雑さを受け入れることができており、

世界に対する高い関心と、異文化や多言語を学び協働する意欲を持っていると

言える。一方、宗教に対するスケール14は17ポイント、ジェンダーに対するス

ケール13が28ポイントという値も、津梁の結果と酷似しており、これらの分野

での彼らの価値観がリベラル寄りであることを物語っている。しかし、スケー

ル7と8を見ると、7においては津梁の42ポイントに対しメディアでは46ポイン

トと似通っているが、メディアの結果ではスケール8では40ポイントとスケー

ル7より低くなっていた。これはスケール8が56ポイントであった津梁と異なる

パターンである。2つのグループは、Basic Determinisimにおいて似通っている

にもかかわらず、社会・情動の理解(Sociocultural Convergence)では、メディ

アが16ポイント低い。このことから、他者や異文化のかかわりにおいては、受

容傾向が高く、積極的に関わる傾向が強い反面、その信条や価値観はあくまで

外に対するものであり、元々持っている基本的な性格として、物事を白黒のみ

で判断する傾向はそれほど強くないものの、社会的なかかわりの中で多様な価

値観に触れた時には、その受容にはそれほど積極的ではないことが伺える。メ

ディアの英語を学習していた当該集団は、グローバル副専攻と同じく、全体的

な傾向として、既にグローバルな意識、価値観を持っていると分析できるが、

自らの持つ基本的な性格においては、自分と他者を切り離している傾向がより

強いと考えられる。

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7.2 Decile Profile

 Aggregate Profileは、各スケールの平均値によりグループの特徴を描き出すの

に対し、Decile Profileは各スケールのグループ内の分布を把握するのに役立つ。

図3は津梁、図4はメディアグループのDecile Profileを示している。この表にお

いては、BEVI受験者の結果を基準となるデータベースに照らした場合の、各

スケールの最低点と最高点を範囲として、その間が10段階に分けられ、その得

点範囲に当該グループの何名の参加者が該当するかをパーセンタイルで示して

いる。該当者が多いセルは濃く色づけられていることから、平均値を示すAg-

gregate Profileだけでは見られなかった、グループ内の多様性を掴むことができ

る。つまり、値の高いセルは分布のピークを示し、濃淡の少ないスケールは、

対象者の結果が平坦に分布していることを示す。

 このような視点で、津梁グループのDecile Profile(図3)を見てみると、Aggre-

gate Profileで特徴的としたスケール11では、Decile 8からDecile 10までに75%の

図2. Aggregate Profile(メディア)

Consistency ScoreCongruency Score

1. Negative Life Events2. Needs Closure

3. Needs Fulfillment4. Identity Diffusion

5. Basic Openness6. Self Certitude

7. Basic Determinism8. Socioemotional Convergence

9. Physical Resonance10. Emotional Attunement

11. Self Awareness12. Meaning Quest

13. Religious Traditionalism14. Gender Traditionalism15. Sociocultural Openness

16. Ecological Resonance17. Global Resonance

69 73

43 19 54 22 58 26 46 40 75 47 83 37 17 28 74 42 71

Low High

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-34- -35-

回答者が該当し、全員がDecile 6以上に位置していた。それに対し、スケール

15では、最も頻度の高い範囲がDecile 10の40%ではあったが、次に多かったの

がDecile 8の25%で、スケール11に比べるとより散らばっていることがわかる。

またスケール17では、Decile 9の50%が最大のピークではあるが、次のピーク

がDecile 6(20%)となっており、Decile 3に5%、4に10%の該当者がいる。つ

まりAggregate Profileで見た場合、津梁グループのGlobal Resonanceは高かった

が、データ内の分布を見ると、半数がこのスケールで極めて高い位置にある反

面、それより低い層は、低いスコア範囲にまで散らばっており、グループ内で

差があると言える。スケール13と14に関しても、低い平均値をAggregate Profile

は示していたが、Decile Profileからは、どちらも低いスコア範囲に回答が集中

したものの、宗教に関するスケール13においてはDecile 5と6に合わせて20%の

回答者が、また極めて高いDecile 9にも5%が存在する。ジェンダーに関するス

図3. Decile Profile(津梁)

Deciles: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10Consistency 0% 0% 0% 0% 0% 10% 35% 30% 25% 0%Congruency 0% 0% 0% 0% 0% 5% 20% 15% 50% 10%

1. Negative Life Events 0% 25% 25% 0% 15% 20% 5% 5% 5% 0%2. Needs Closure 50% 10% 15% 0% 10% 0% 5% 5% 5% 0%

3. Needs Fulfillment 0% 10% 10% 5% 15% 5% 25% 10% 15% 5%4. Identity Diffusion 10% 25% 5% 0% 30% 0% 0% 5% 15% 10%5. Basic Openness 5% 5% 10% 20% 0% 10% 5% 5% 10% 30%6. Self Certitude 10% 15% 5% 5% 30% 10% 15% 0% 5% 5%

7. Basic Determinism 5% 10% 20% 15% 10% 15% 20% 0% 0% 5%8. Socioemotional Convergence 10% 5% 10% 10% 10% 5% 5% 20% 15% 10%

9. Physical Resonance 0% 0% 0% 5% 0% 20% 15% 40% 10% 10%10. Emotional Attunement 5% 15% 10% 5% 15% 5% 10% 5% 25% 5%

11. Self Awareness 0% 0% 0% 0% 0% 5% 20% 10% 30% 35%12. Meaning Quest 10% 5% 15% 5% 15% 10% 15% 5% 10% 10%

13. Religious Traditionalism 10% 35% 30% 0% 15% 5% 0% 0% 5% 0%14. Gender Traditionalism 30% 35% 5% 10% 0% 10% 10% 0% 0% 0%15. Sociocultural Openness 0% 0% 0% 0% 10% 10% 5% 25% 10% 40%16. Ecological Resonance 0% 0% 5% 10% 25% 20% 20% 10% 5% 5%

17. Global Resonance 0% 0% 5% 10% 0% 20% 5% 5% 50% 5%Deciles: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

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ケール14でも、65%がDecile 1と2に該当し、Decile 4までを合わせると8割に達

する一方で、20%がDecile 6と7に該当する。

 これらを総合すると、Aggregate Profileの解釈による、世界に対する高い関心

と、異文化や多言語を学び協働する意欲を持っているという集団特性は、津梁

グループの全員に当てはまるものではないことが明らかになった。特にGlobal

Resonance(スケール17)に見られた散らばりは、異文化との協働の準備がで

きている学生と、そこに至っていない学生の混在を示すものであるし、その協

働の過程において、宗教やジェンダーに対する価値観の違い(スケール13と14)

は、授業や課題で取り組むテーマが宗教やジェンダーに関する場合、グループ

内でのコミュニケーション摩擦や葛藤につながる可能性を示唆するものである。

 そして、津梁でのスケール7と8についても、Decile Profileからはグループ内

のメンバーによるばらつきが見て取れる。スケール7では、Decile 3と7にそれ

ぞれ20%のピーク、そしてそれぞれ隣のDecile 4と6に15%が該当することから、

2重ピークを持つ集団であることがわかり、しかも範囲としては最低のDecile 1

から最大のDecile 10まで回答者が平たく散らばっている。つまりグループ内で

二分、あるいは全くばらばらの状態に近い。スケール8の結果からは、Decile

8に20%のピークがあるものの、それ以外のすべてのDecile範囲に該当する回

答者がほぼ均一に存在することがわかった。つまりスケール8で見ても、メン

バーのSociocultural Convergenceは多様だということになる。このことから、先

のAggregate Profileで読み取った「物事を白黒のみで判断するのではなく、多様

な価値観を受容する傾向があるグループ」という評価は、全体としては当ては

まるとしても、個々の学生の資質には個人差が大きい、ということを理解して

おく必要がある。「全体的な傾向として、既にグローバルな意識、価値観を持っ

た集団」との解釈は、個人のレベルでどのくらい適合するのか、常にDecile

Profileと比較しながら、結果を分析することが重要である。

 メディアグループ(図4)も、Aggregate Profileの結果では津梁に似ており、

一般的にグローバルな意識や異文化の価値観を受け入れる素地が十分あると

分析できていた。宗教・ジェンダーに対する理解もリベラルな傾向が見られ

た。しかし、スケール7と8の結果からは、そのようなグローバル人材として

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の傾向が他者や世界の理解に留まっており、社会との適応や受容に関するス

ケール8のより基本的な傾向においては、40ポイントにとどまっていた。彼ら

のグループ内での内訳はどのようになっているかを、図4の結果に基づき分析

すると、まずスケール11において最も多い38%が一番高いDecile 10に集中し

ており、Decile 8以上で見ると52%を占めている。しかし次のピークはDecile 7

の21%であり、一番低い範囲としてDecile 3まで数名ずつが該当している。こ

のスケールでは津梁のグループがDecile 5以下の範囲に該当者がいなかったの

と比べると、より散らばっていると捉えることができる。またスケール15の

Sociocultural Opennessにおいても、メディアグループのピークはDecile 6と10の

21%で、よりなだらかな分布を示す結果である。津梁でDecile 8から10に75%

の学生が集中しているのに比べると、基本的な性格としての他者への自己開示

や許容性は津梁グループよりやや低い位置にあり、またその散らばり方も多様

図4. Decile Profile(メディア)

Deciles: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10Consistency 0% 0% 0% 0% 0% 24% 14% 45% 17% 0%Congruency 0% 0% 0% 0% 0% 17% 10% 41% 24% 7%

1. Negative Life Events 7% 17% 21% 3% 17% 3% 7% 17% 0% 7%2. Needs Closure 41% 3% 10% 10% 7% 7% 7% 3% 7% 3%

3. Needs Fulfillment 0% 17% 14% 10% 10% 3% 7% 17% 14% 7%4. Identity Diffusion 24% 24% 21% 0% 14% 0% 0% 7% 10% 0%5. Basic Openness 3% 10% 3% 24% 7% 7% 7% 7% 7% 24%6. Self Certitude 28% 17% 10% 17% 10% 7% 0% 7% 3% 0%

7. Basic Determinism 14% 3% 21% 3% 3% 21% 7% 14% 10% 3%8. Socioemotional Convergence 7% 7% 24% 14% 17% 10% 10% 7% 0% 3%

9. Physical Resonance 0% 0% 0% 0% 3% 17% 14% 31% 28% 7%10. Emotional Attunement 10% 14% 0% 24% 0% 14% 7% 17% 14% 0%

11. Self Awareness 0% 0% 3% 3% 7% 10% 21% 3% 14% 38%12. Meaning Quest 17% 3% 17% 7% 17% 21% 0% 7% 3% 7%

13. Religious Traditionalism 31% 31% 21% 14% 0% 0% 0% 0% 0% 3%14. Gender Traditionalism 17% 17% 17% 10% 0% 24% 7% 0% 7% 0%15. Sociocultural Openness 0% 0% 7% 7% 0% 21% 17% 14% 14% 21%16. Ecological Resonance 10% 7% 0% 14% 28% 17% 14% 10% 0% 0%

17. Global Resonance 0% 3% 10% 3% 0% 7% 14% 17% 31% 14%Deciles: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

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であると言えよう。しかし、スケール17では、Decile 9(31%)をピークとし

た分布が、高い得点範囲に形成されており、84%がある一定度の高いグローバ

ル理解を持っていることが確認でき、2つのピークを示した津梁の分布とは異

なっている。その一方で少数ではあるが、Decile 2から4にも数名が該当してお

り、クラス内に潜在的な差異が存在することは、津梁と同じである。

 最後に図4のスケール7と8の分布を見てみよう。スケール7は、Decile 3と6に

2つのピーク(21%)があり、3と7に20%の2重ピークを示した津梁グループに

似通っているところがある。一方スケール8のSocioemotional Convergenceにお

いては、ピークがDecile 3(24%)と低く、Decile 3から5の間に55%が該当する。

津梁グループでは、平均値もメディアより16ポイント高くなっていたが、そこ

には高いスケール得点(Decile 8,9,10)に属する45%の学生の存在があった。

一方、メディアにおいては、この得点範囲に該当する学生は極めて限られてい

る。高いスケール15、17にも関わらず、スケール8は低い学生が多いことから、

メディアグループでは、他者を認めて理解し、より広い世界に自分を適応させ

るような行動を志向する傾向があるにもかかわらず、自分自身の基本的な外界

の捉え方としては、そこまで柔軟ではなく、白黒がはっきりした秩序が保たれ

た状態を好む傾向があると言える。

7.3 Profile Contrast

 Profile Contrastは、Full scale scoreと呼ばれる指標により、回答者を高得点

(Highest)、中得点(Middle)、低得点(Lowest)グループに3分割し、各得点グルー

プによるスケールの特徴や傾向の違いを分析するのに用いる。なお、Full scale

scoreは、先に述べた7つの因子(形成的因子、中核的欲求の達成、不均衡の許

容、批判的思考、自己の理解、他者の理解、世界の理解)の得点の累積となっ

ている。各グループの比率は原則として、上位(Highest)と下位(Lowest)が

30%、中間となるMiddleが40%であり、管理者画面により自動的に統計処理さ

れる。図5は津梁、図6はメディアグループの結果を示す。津梁ではHighestが5人、

Middleが7人、Lowestが8人で、メディアにおいては、Highestが12人、Middleが

9人、Lowestが8人であった。結果のグラフでは、各スケールごとに、Lowest、

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Middle、Highestの順で結果が示されており、紙面の都合上、スケール1と2は削

除してある。

 まず、津梁の結果(図5)より、スケール11とスケール15、スケール17に関

しては、Highest、Middle、Lowest間で程度の差はあるものの、どのグループも

スコア65ポイント以上である。このことから全体的な傾向としては、全体スコ

アの高低にかかわらず、グローバルな意識を持った集団だと考えられる。ただ

し、Decile Profileで見た通り、特にスケール15と17についてはスコアのばらつ

きがあったことに注意したい。

 次に特徴的なのは、Highest、Middle、Lowestの差が大きい項目が多いことで

ある。BEVIの分析においては、5ポイント以上の差を統計的有意差と見なす(西

谷,2017)。具体的項目として、スケール3(Needs Fulfillment)、スケール8(So-

cioemotional Convergence)、スケール12(Meaning Quest)とスケール10(Emotional

Attunement)における差が大きい。また、スケール5(Basic Openness)とスケー

ル6(Self Certitude)のLowestのスコアがその他に比べて極端に低い事が読み取れ

る。つまり、Lowestのグループは、その他の群と同じく他者や外の世界に対す

る意識が高い一方で、その意識の根本となる自分自身の欲求・感情の認識や、

不均衡の許容、自己理解に関する部分があまり成熟していないと考えられる。

 また、Aggregate Profileにおいて全体的にスコアが低かったスケール13と14で

あるが、宗教に関するスケール13ではFull scale scoreが高いグループほど、平

均値が低くリベラルな傾向にあり、予測通りの結果であった。それに対し、ス

ケール14においてはLowest、Middleと比較して、Highest群のスコアが高いこと

から、この項目に関してはグループの中でHighest群が最も保守的であること

が分かった。

 メディアグループのProfile Contrast(図6)においては、スケール11とスケー

ル15、スケール17に関しては、程度の差はあるものの、津梁グループと同じよ

うに、どの得点グループも50ポイント以上のスコアを得ている。また、津梁グ

ループに関して言及した、スケール3、5、8、10、12についても、津梁グルー

プと同じく、Lowestのグループがその他のグループに比べて特に低い値となっ

ている。メディアグループにおいてもLowestのグループは、他者や外の世界に

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対する意識が高いのに対して、自分自身の欲求・感情の認識や、不均衡の許容、

自己理解に関する基本的な部分があまり成熟していないと考えられる。ただし、

スケール6については、津梁グループと違い、Lowestだけではなく、全てのグ

ループにおいて30ポイント以下だったため(特にMiddleが20ポイントと一番低

い)Lowestにとどまらず、メディアグループ全体の傾向であるといえる。津梁

グループのProfile Contrastで特徴的であったスケール14については、メディア

グループにおいてはLowestが38ポイントで一番高く、MiddleとHighestはそれぞ

れ20、24ポイントだったことから、宗教への理解についてはLowestに属する学

生に、より保守的な傾向があると分析できる。

8. 考察と展望

 以上、グローバル津梁プログラム副専攻に登録した学生と、メディア英語

を学ぶ科目に登録した学生のグループに対し、BEVIによる分析をAggregate

Profile, Decile Profile, Profile Contrastのグラフデータに基づき行った。2つのグ

ループともデータ収集時点で高い「世界との共鳴(スケール17)」を示し、宗教・

ジェンダーに対して進歩的な傾向があるなど、多様な価値観を受容できる状態

にあって、すでに異文化や異なる価値観を持つ他者と関わる高い資質を持って

いることが、分析によって確認できた。

 2つのグループのうち、メディアグループは、英語メディアの情報を読み、

英語でのコミュニケーション力を向上させるクラスを履修していた。クラスで

の英語によるペアワークには極めて積極的な取り組みが見られ、毎週自分で選

択したオンラインの英語ニュースを予習してペアワークに備える等、英語を使

う、英語を話すことに意欲的なグループであった。ただし、日本人学生に特有

な「仲のいい同じ学生と組み、自ら新しいクラスメートを探してペアを組むこ

とはあまりしない」という状況は観察できた。クラスを教えていた筆者は、意

図的に、強制的なペア組みやローテーションは避けて、「今まで話したことが

ないメンバーと組むように」という指示のみ与えて、毎回の学生の行動を観察

した。またBEVI実施後、授業ではOpinion記事のシェアリングにシフトし、記

事の主張理解、自分の意見の明確化、ペア・グループワークでの他者の意見の

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図 5. Profile Contrast(津梁)

17.Global Resonance(Highest T1)17.Global Resonance(Middle T1)17.Global Resonance(Lowest T1)

16.Ecological Resonance(Highest T1)16.Ecological Resonance(Middle T1)16.Ecological Resonance(Lowest T1)

15.Sociocultural Openness(Highest T1)15.Sociocultural Openness(Middle T1)15.Sociocultural Openness(Lowest T1)

14.Gender Traditionalism(Highest T1)14.Gender Traditionalism(Middle T1)14.Gender Traditionalism(Lowest T1)

13.Religious Traditionalism(Highest T1)13.Religious Traditionalism(Middle T1)13.Religious Traditionalism(Lowest T1)

12.Meaning Quest(Highest T1)12.Meaning Quest(Middle T1)12.Meaning Quest(Lowest T1)

11.Self Awareness(Highest T1)11.Self Awareness(Middle T1)11.Self Awareness(Lowest T1)

10.Emotional Attunement(Highest T1)10.Emotional Attunement(Middle T1)10.Emotional Attunement(Lowest T1)

9.Physical Resonance(Highest T1)9.Physical Resonance(Middle T1)9.Physical Resonance(Lowest T1)

8.Socioemotional Convergence(Highest T1)8.Socioemotional Convergence(Middle T1)8.Socioemotional Convergence(Lowest T1)

7.Basic Determinism(Highest T1)7.Basic Determinism(Middle T1)7.Basic Determinism(Lowest T1)

6.Self Certitude(Highest T1)6.Self Certitude(Middle T1)6.Self Certitude(Lowest T1)

5.Basic Openness(Highest T1)5.Basic Openness(Middle T1)5.Basic Openness(Lowest T1)

4.Identity Diffusion(Highest T1)4.Identity Diffusion(Middle T1)4.Identity Diffusion(Lowest T1)

3.Needs Fulfillment(Highest T1)3.Needs Fulfillment(Middle T1)3.Needs Fulfillment(Lowest T1)

2.Needs Closure(Highest T1)2.Needs Closure(Middle T1)2.Needs Closure(Lowest T1)

1.Negative Life Events(Highest T1)1.Negative Life Events(Middle T1)1.Negative Life Events(Lowest T1)

Low

図 5. Profile Contrast(津梁)

High

Lowest = Lowest Optimal Profiles (N=8)Middle = Middle Optimal Profiles (N=7)Highest = Highest Optimal Profiles (N=5)

3343

33

1015

32

3463

84

3759

39

3776

84

2259

55

6377

73

3054

78

2921

19

1113

34

3839

54

2961

86

7186

96

2355

91

6784

92

5153

74

6576

83

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17.Global Resonance(Highest T1)17.Global Resonance(Middle T1)17.Global Resonance(Lowest T1)

16.Ecological Resonance(Highest T1)16.Ecological Resonance(Middle T1)16.Ecological Resonance(Lowest T1)

15.Sociocultural Openness(Highest T1)15.Sociocultural Openness(Middle T1)15.Sociocultural Openness(Lowest T1)

14.Gender Traditionalism(Highest T1)14.Gender Traditionalism(Middle T1)14.Gender Traditionalism(Lowest T1)

13.Religious Traditionalism(Highest T1)13.Religious Traditionalism(Middle T1)13.Religious Traditionalism(Lowest T1)

12.Meaning Quest(Highest T1)12.Meaning Quest(Middle T1)12.Meaning Quest(Lowest T1)

11.Self Awareness(Highest T1)11.Self Awareness(Middle T1)11.Self Awareness(Lowest T1)

10.Emotional Attunement(Highest T1)10.Emotional Attunement(Middle T1)10.Emotional Attunement(Lowest T1)

9.Physical Resonance(Highest T1)9.Physical Resonance(Middle T1)9.Physical Resonance(Lowest T1)

8.Socioemotional Convergence(Highest T1)8.Socioemotional Convergence(Middle T1)8.Socioemotional Convergence(Lowest T1)

7.Basic Determinism(Highest T1)7.Basic Determinism(Middle T1)7.Basic Determinism(Lowest T1)

6.Self Certitude(Highest T1)6.Self Certitude(Middle T1)6.Self Certitude(Lowest T1)

5.Basic Openness(Highest T1)5.Basic Openness(Middle T1)5.Basic Openness(Lowest T1)

4.Identity Diffusion(Highest T1)4.Identity Diffusion(Middle T1)4.Identity Diffusion(Lowest T1)

3.Needs Fulfillment(Highest T1)3.Needs Fulfillment(Middle T1)3.Needs Fulfillment(Lowest T1)

2.Needs Closure(Highest T1)2.Needs Closure(Middle T1)2.Needs Closure(Lowest T1)

1.Negative Life Events(Highest T1)1.Negative Life Events(Middle T1)1.Negative Life Events(Lowest T1)

Low

図 6. Profile Contrast(メディア)

High

Lowest = Lowest Optimal Profiles (N=12)Middle = Middle Optimal Profiles (N=9) Highest = Highest Optimal Profiles (N=8)

3550

3360

2820

30

727677

2652

74

2116

12

3820

24

6564

85

45

221619

2762

83

5440

44

2442

64

5888

95

1647

66

5471

92

3242

59

2217

29

86

図 6. Profile Contrast(メディア)

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理解を必須とする活動を強化した。講義のふり返りシートからは、他者の意見

を知ること、自分の意見を伝えることの重要性の認識が向上していったことが

読み取れたが、BEVIの結果と合わせ、クラスに来ているメンバーの受容性や

傾向を知っておくことは、教育者にとって有益だと感じた。

 GP津梁副専攻は、カリキュラム開始直後のT1の状況でのデータの分析となっ

た。全体的に高いグローバル志向を持つグループであることが確認できたが、

ここに目を向けた分析からは、異文化との協働学習に積極的で、受け入れる準

備が整っている学生と、そこまでに至っていない学生の混在は見られ、同じク

ラスで授業を受けた場合に、価値観の違いにより摩擦が起きる可能性も示唆さ

れている。2019年度の「グローバル実践演習Ⅰ、Ⅱ」では、模擬国連とSDGsをテー

マに、日本人学生と留学生が英語で共修する形態を採用しており、海外渡航な

しに異文化を肌で体験しつつ、世界に目を向けた思考の育成を目指している。

本副専攻で必須の留学・海外研修は、それ自体が自分自身の価値観や信条を大

きく揺さぶる経験であり、これらのカリキュラム・学習内容を通して、よりグ

ローバル社会に適応できる能力が育成されること、そしてBEVIなどの外部客

観指標により、その成果が今後検証されることを期待する。

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-44- -45-

How the Students See the World Affects the Teaching Dynamics: What BEVI Results Can Teach Us

Mitsuyo TOYA and Chinatsu TOMA

Abstract

This paper reports the results of Beliefs, Events and Values Inventory (BEVI) analyses

for two groups of students at the University of the Ryukyus: those who began a course in

a newly established minor, the Global Shinryo Program, and those who were studying

Media English as part of their required coursework. The analyses produced three graphs

generated by the BEVI administration system: an aggregate profile, a decile profile, and a

profile contrast. The results revealed that both groups shared similar patterns: high in Self

Awareness (Scale 11), Sociocultural Openness (Scale 15), and Global Resonance (Scale

17). Both groups tended to be liberal in Religious and Gender Traditionalisms (Scales 13

and 14). These altogether indicate that students in both groups are highly competent in

dealing with cross-cultural experiences and carrying out intercultural collaboration. Con-

versely, the scales oriented toward inner self and core values, such as Scales 7 and 8,

highlighted a difference existing in Scale 8 (Socioemotional Convergence). Their decile

profiles and profile contrasts illustrated that there exists a considerable degree of variance

within the same group of students. Understanding this variance and devising ways to sup-

port those who are unready for global experiences will be a critical task of instructors and

administrators.